奈良県内の巨木巡りでは外せない八ツ房杉。
ここは記紀万葉の故地・菟田野(うたの)地区。
「国の始まり大和の国、郡の始まり宇陀郡、宇陀の始まり菟田野から」と古謡にも詠われる歴史エリアです。八ツ房杉は国道166号線から少し西へ入った場所にありました。
八ツ房杉。
まるで八岐大蛇(ヤマタノオロチ)!
宇陀市菟田野区佐倉に鎮座する桜実(さくらみ)神社境内に聳えます。石垣の上の小高い場所から、覆い被さるようにその幹を伸ばしています。圧巻の巨木ですね。
赤い樹皮にワイヤー補強!杉の幹が癒着した天然記念物
杉の木には直立のイメージがあります。
ところが、八ツ房杉の幹は上下にくねりながら複雑な形状を描いています。その珍奇な形態から重んじられ、国の天然記念物にも指定されています。
桜実神社の本殿。
木花咲邪姫(コノハナサクヤヒメ)を御祭神とする神社です。八ツ房杉はこの本殿右後方に当たります。
補強材に支えられていました。
こうでもしないと、斜め上方に伸びる幹を守り続けることはできないでしょう。
一旦横に伸びてから、首をもたげるように上向いています。
樹皮の色が赤いですね。
四方には赤い柵が設けられ、根を張る場所への侵入が拒まれます。
周りを見渡すと、こんなワイヤーを発見!
地中に埋め込まれ、巨木を引っ張っているようです。真っ直ぐに張られたワイヤーからも、独特の緊張感が伝わってきます。頑張れ!思わず心の声が聞こえます。
ぐるりと回り込み、八ツ房杉を上手から見下ろします。
この位置からも何本ものワイヤーが確認できますね。
八ツ房杉の歴史を遡れば、神武天皇の「神武東征」に行き着きます。
大和平定に際し、陣を張っていたときに植えられたとする伝説が残ります。行軍の休息のために築いた「菟田の高城」もすぐ近くにあります。
八ツ房杉は国の天然記念物ですから、おそらく樹木医の診断も受けていることでしょう。樹勢の衰えが心配されますが、今はまだその雄姿を誇っていました。
切り株にも括り付けられています。
めり込みそうな勢いですね。あらゆるポイントから八ツ房杉を支え続けます・・・どうもご苦労様です。
八ツ房杉の赤い樹皮。
昭和7年4月25日に国の天然記念物に指定されました。
桜実神社の本殿東の高台に、世にも珍しい姿で立ち続ける八ツ房杉・・同じ巨木でも、福住のバラモン杉とはまた違った魅力で迫ります。
実はこの巨樹は一株ではないようです。大小六株の杉の幹基部が互いに癒着しています。昭和54年(1979)の台風で中央の一幹が倒れましたが、今もなおその樹勢を保っています。
八ツ房杉のアクセスルート
八ツ房杉の行き方をご案内致します。
宇陀市内と言っても、桜井市内からだと少々遠い道のりになります。
宇陀市は主に4つの区域に分かれています。榛原区、大宇陀区、室生区、菟田野区です。
桜井市内から西峠を越えて榛原市街地に入ります。同じく女寄峠を越えれば重伝建地区のある大宇陀エリアへと入ります。榛原区と大宇陀区は比較的近い印象がありますが、菟田野区はさらにその奥に当たります。
この日は大宇陀区の大願寺や阿紀神社にお参りした後、国道166号線を東へ上がり、宇太水分神社の前を緩やかに南へ折れながら進みます。左手に青蓮寺(せいれんじ)へ向かう脇道を見ながら進むと、やがて八ツ房杉の案内看板が見えて参りました。
コレです。
日本最古の城跡『菟田の高城』も並んで案内されています。その脇に詳細な解説板がありました。
八ツ房杉(天然記念物)
神武天皇が大和平定のために陣を張っていた時に植えられたものと伝えられ、桜実神社の境内にある杉の巨木です。ひとつの株から伸びた八本の幹が互いに絡み合いある幹は途中で一本になり、再び分かれるといった極めて珍しい樹形が目をひきます。根本の周囲約9m、樹高は約14m。
菟田の高城
神武天皇が八咫烏に導かれて大和の国に入ってきたときに、軍の休息に築いたといわれるわが国最古の城跡。
自然の美しいふる里 佐久良(さくら)佐倉(さくら)の桜実神社へ
これより約400mと記されています。
車で入って行けるのか下調べをしておらず、この付近に車を停めました。後で分かったのですが、八ツ房杉のある桜実神社は駐車場付きです。八ツ房杉見学の際は、上手の桜実神社まで車で上がって行かれることをおすすめします。
途中で二手に道が分かれます。
左へ行けば桜実神社、右へ行けば菟田の高城です。
八咫烏を模した宇陀市の記紀万葉マスコットキャラクター『八っぴー』が道案内役です。さすがにヤタガラス、サッカーボールの上に乗っていますね。
右へ折れるポイントにも道標がありました。
緩やかな坂道の行く先に桜実神社があるようです。
旧字体で式内村社の「櫻實(さくらみ)」と刻みます。
宇陀市の榛原区笠間にも同名の桜実神社があったことを思い出します。
桜実神社の鳥居。
石鳥居の向こうに拝舎と本殿が見えますね。
拝舎の屋根にはブルーシートが掛けられていました。
何やら工事中のようです。
ブルーシートの背後に、目指す八ツ房杉が控えています。
本殿向かって左側の建物。
「御假殿」と書かれています。神様の仮の住まい(遷座地)でしょうか。
波打つような「天然記念物」の文字。
実物の八ツ房杉の似姿ですね。脈動する文字にも、生命力が宿ります。
『菟田の高城』の陣営に植樹!巨木をぐるりと一周
八ツ房杉の周囲には柵が設けられていますが、その外側を周回することができます。
切り立つ崖から落ちないよう注意しながら、ぐるりと一周してみましょう。
国指定の天然記念物。
宇陀市内にはこの他にも、向渕スズラン群落、室生山暖地性シダ群落、カザグルマ自生地などが天然記念物に指定されています。
屹立!
くれぐれも足を踏み外さないように。
がっつり支えています。
身をくねらせながら伸びています。
この迫力!もう言葉は要りませんね。
地を這うように。
どれがどれだか・・・随分賑やかです(笑)
根元全体がこんもりと盛り上がります。
ぽっかり空洞も!
本殿を見下ろす場所にも出ます。
大変失礼致しましたm(__)m
ピーンと張り詰めるワイヤー。
唖然。
めくれ上がる幹。
もうこれ一本で「もののけ姫」状態。
目には見えねど何か(SOMETHING)を感じさせる存在ですね。もののけの「け」は「怪」、あるいは「気」とも書きます。何かを感じさせる気配にも通じます。
気配の「け」は「毛」なのかもしれませんね。
私たちの身体を覆う毛は、何かを感じると逆立ちます。身の毛もよだつ何とやら、得体の知れない「何か」・・・
推定樹齢は2,000年とも言われます。
太古の昔より、この地で聳え続ける八ツ房杉。
話は少し逸れますが、黄泉の国から逃げ帰ったイザナギは追手に対して桃を投げ付けたと云います。
「毛毛」と書いて「モモ」。
偶然とは思えないほどよく似た字体です。古代より桃には霊力があり、事あるごとに語られてきた果実です。桃の表皮をよく見ると、ふさふさとした毛が生えています。やはり桃には神秘的なチカラが宿っていたのでしょうか。邪馬台国の伝承地・纒向遺跡からも多数の桃の種が出土しています。京都の晴明神社のシンボルも桃です。
気配を感じさせる巨樹。
具体的な物ではなく、つかみどころのないモノ。
物の怪の「モノ」に大物主命の「モノ」。
こうしてみると、つかみどころのない「モノ」や「ケ」には計り知れない何かが宿ります。
八ツ房杉の案内板。
神武天皇は現在、橿原神宮に祀られています。遠く九州から大和に入る際、陣幕を張った場所が菟田の高城とされます。初代天皇の実在すら疑われる昨今ですが、神武東征にまつわる伝承地は県内にも数多く残されています。
桜実神社の境内手前に、石碑がありました。
八ツ房杉へと通じる遊歩道の竣工記念でしょうか。
駐車場の片隅から遊歩道が伸びています。
確かにこの地を訪れる人のほとんどが、八ツ房杉を目的としています。桜実神社参拝というよりは、その社殿後方に聳える天然記念物を一目見たいと訪れます。かく言う私もそうでした。
八ツ房杉の帰り道。
ここを右へ進めば、菟田の高城へと続いています。ちょっぴり遠いようですが、ご興味をお持ちの方はトライしてみて下さい。
公共交通機関で八ツ房杉にアクセスするには、近鉄榛原駅から奈良交通バスを利用します。
奈良交通「大又」「杉谷」行バスに乗車して30分、「桜実神社前」バス停を下車します。バス停から少し距離がありますので、やはりマイカーで桜実神社まで登って行くのがおすすめですね。