東大寺の鏡池に、見慣れない船が浮かんでいました。
「東アジア文化都市2016奈良市」のシンボルアートとして展示中です。時空を超えたアートの祭典『古都祝奈良』が市内各地で展開されていますが、その中でも象徴的な作品として注目されます。
東大寺鏡池に浮かぶ船。
中門と大仏殿を背景に、いつもとは違う光景が広がります。
遣唐使船などもそうですが、船は「文化交流の象徴」です。飛行機など無かった時代に、海を渡る唯一の手段は船だったのです。海を介した文化交流のシンボルが、東アジアの海に見立てた鏡池にぽっかりと浮かんでいました。
中国人船大工が造った文化の架け橋
鏡池に出現した船ですが、中国人船大工によって造られています。
かつて東シナ海を航行した中国伝統の木製帆船を、中国人船大工10人が来日して造りました。
私が訪れた時は既に出来上がった状態でしたが、「船をつくる」というプロセス自体が作品になっていたようです。これは惜しい、見逃してしまいましたね(笑) 開幕日の3月26日から、鏡池の畔で約3週間をかけて公開制作されていたようです。
作者の中国人の名前が案内されていました。
この方は、北京オリンピックの開会式・閉会式において、花火を用いた空間演出を行ったアーティストとしても知られます。
東大寺南大門。
いつ見ても、その豪壮な雰囲気に圧倒されますね。
南大門の金剛力士像はつとに有名ですが、実はその裏側に南宋の石工によって制作された石造獅子像が安置されています。前脚を伸ばして座る獅子の姿が印象的ですが、作者は般若寺の十三重石塔を手掛けたことでも知られる伊行末とされます。南大門と共に、日中技術交流の証しとして今も南大門の北側に坐しています。
南大門の鹿。
鹿のお尻の毛を鏡毛(かがみげ)と言います。
鹿は危険を感じた時、この鏡毛を逆立ててぴょんぴょん飛び跳ねながら逃げる習性があります。奈良の鹿は野生ですが、観光客慣れしていることもあり、危険を感じる機会も少なくなっているのかもしれませんね。
南大門を越え、中門へと続く参道。
アートイベント『古都祝奈良』の看板が立っていました。この場合の「古都祝」は ”古都祝(ことほぐ)” と読ませているわけですが、実に言葉の響きがいいですよね。「寿(ことほ)ぐ」と書くのが一般的ですが、元は「言祝(ことほ)ぐ」で言葉で祝うことを意味しています。
現在もそうですが、大仏開眼供養の時も国際的な雰囲気に満ちていた境内です。
当時の国際舞台では中国語が幅を利かせていたものと思われます。日本人の高僧たちも、流暢に中国語を操っていたことでしょう。文化交流の”足”に船が必要だったように、その”心”にはやはり言葉が必要不可欠だったのではないでしょうか。
こうやって見ると、鏡池もずいぶん広く感じられますね。
鏡池越しに江戸時代再建の大仏殿を望みます。
高さ15mの金銅仏・廬舎那仏坐像を安置する大仏殿の偉容に息を呑みます。大仏造立に際しては、数多くの庶民が関わり持ち、”仏教の裾野”が広がったと言います。一部の上層階級にのみ開かれていた仏教が、東大寺大仏によって広く開放されたのです。その橋渡しの役目を担ったのが行基であり、彼の遺徳を偲ぶ行基堂が今も鐘楼ヶ丘に佇んでいます。
東アジアの国々を繋いだ船。
船はまさしく文化遺産そのものですね。
東大寺中門。
中門の前に何か足場のようなものが組まれていました。
イベントの準備でしょうか。
鹿と船のツーショット。
その脚に注目してみましょう、まぁ上手に足を畳んで休憩しています。
おっ、こちらは雄ジカですね。
角がそんなに枝分かれしていないところを見ると、まだ若い部類に入るのではないでしょうか。
こちらはずぶ濡れの雄ジカ(笑)
つい先ほどまで雨が降っていたためか、水も滴るいい男状態です。奈良の鹿たちにとっても、鏡池に船が浮かんでいる光景は珍しいことでしょう。最初は違和感を覚えたのではないでしょうか。そしてまた、近い内にイベントが終われば撤去されるものと思われます。
日中韓のトライアングル。
現在、隣国の中国や韓国との関係はどうでしょうか。
様々な側面があって一口には言えませんが、これからも良好な関係を築いていけるよう願うばかりです。
「鏡池」と刻まれています。
呉越同舟という言葉がありますよね。
少々仲が悪くなったとしても、同じ船の上に居さえすれば、いずれ協力し合うようになるのかもしれません。大海原では運命共同体ですからね、些細な事で小突き合っていても仕方がありません。
大船に乗ったつもりで、寛容の心を持ち合わせていたいものです。
古都祝奈良のコンセプトブックにもこう書かれています。
私たちは共にひとつの船に乗って、もう一度この水域を帆走できるだろうか?
インターナショナルな東大寺という舞台に、未来への問題提起がさりげなく行われています。そのことに気付いている観光客も少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。
いや~、それにしても中国人・韓国人観光客の多いこと!