奈良県立万葉文化館で開催中の「辰巳寛日本画展」へ行って参りました。
館内1階の日本画展示室において、京都の舞妓さんの絵がずらりと並んでいました。どの絵を見ても舞妓さんが描かれており、その数なんと100点余りの舞妓日本画展です。絵画鑑賞に慣れていない方は、館内に置かれている「展示を楽しむワークシート」に目を通しておかれることをおすすめ致します。舞妓や芸妓のイロハが案内されており、事前にチェックしておけば舞妓ワールドに入りやすいのではないかと思います。
万葉文化館の入口付近。
「辰巳寛日本画展 伝統の美 辰巳寛が描く女歌の流れ」と題する特別展覧会です。
展覧会の期間は3月12日(土)から5月8日(日)までで、GWの期間中も楽しむことができるようです。夜空に浮かぶ天の川を見つめる舞妓さんが描かれていますね。舞妓さん独特の、だらりの帯と呼ばれる長い帯が実に印象的です。
芸に励む舞妓さんの装いに注目
「展示を楽しむワークシート」に目を通しておけば、展示を楽しむポイントが分かります。
舞妓さんや若い芸妓さんが着る、裾引き(すそひき)と呼ばれる裾の長いお引きずりの着物やだらりの帯、さらには自毛で結い上げる様々な髪型に季節ごとに変化する簪(かんざし)等々、その見所は満載です。
辰巳寛日本画展のチラシにも、代表的な絵画が案内されています。
左の日本画は第37回日春展 京都市蔵の「おはこび」、右上は第28回日展 龍谷大学蔵の「舞妓小憩」、そして右下が第40回日春展 株式会社ビジネスコンサルタント蔵の「緑風」と題する作品です。
どれも皆、艶やかな装いですね。
日本画展示室から出て来たところ。
この場所は万葉文化館の玄関の裏側に当たります。休憩椅子に座って、目の前に広がる草木を楽しみます。
舞の稽古をしている場面ですね。
舞妓さんとして働く期間は約5年間とされます。芸妓さんになる前の、16歳から20歳ぐらいまでの女性のことを舞妓と言い、5年間の修業を終えた後に芸妓さんになる慣わしです。さらにその舞妓さんになる前の段階も用意されており、その期間を「仕込み」と呼んでいます。15歳頃から置屋で先輩のお姉さんと一緒に生活をしながら、舞や行儀作法、着物の着付けなどを学びます。仕込みとして1年間の修業を終えた後、無事に舞妓さんとしてデビューを果たすことができるのです。
この世界に入ってすぐに舞妓さんになれるわけではないのです。就職活動等で舞妓さんを目指す人は、是非覚えておいてほしいですね。
立ち上がると、その姿がよく分かりますね。
裾の長い裾引きに、垂れ下がるだらりの帯。
座って鏡を見つめる舞妓さんの簪は藤の花がデザインされているのでしょうか。
舞妓さんの簪(カンザシ)は日本の四季をよく表しています。お正月には稲穂、1月は松竹梅、2月に梅の花、3月に菜の花や水仙、4月に桜と続きます。植物のみならず、見目麗しい蝶などもカンザシのモチーフとして使われているようです。
舞妓さんの襟足は美しいですよね。
うなじが綺麗に見えるように、白粉(おしろい)が2本足のように塗られています。お正月になると、これが3本足になることもあるそうです。
日展会館蔵の「舞妓小憩」。
金屏風を背にして出番を控えているのか、鏡を見つめながら真剣な眼差しです。
この舞妓さんは上唇にも下唇にも紅が引かれていますよね。ところが、舞妓さんに成り立ての頃(一年未満)は、口紅は下唇だけに紅をさすという風習があるようです。
今回は舞妓日本画の作者・辰巳寛氏による美術講演会も4月半ばに催されています。講演会終了後には、ミュージアムショップ前に於いてサイン会も開かれたようです。
来たる4月23日(土)には舞妓・芸妓の衣装体験ができるイベントも予定されています。衣装や小物、装着方法などの解説が行われる催しです。きものコンサルタントの面々もご来館なさるようですので、着付の勉強をなさっている方々にはおすすめのイベントです。
ホワイエで上映中の天武天皇と持統天皇のビデオ
奈良県立万葉文化館の入館パンフレットを開いてみると、1階の館内見取図にホワイエという場所があります。
ホワイエって?
日本画展示室と企画展示室の間に設けられた場所なのですが、要するに美術鑑賞の合間の休憩スペースを意味しているようです。劇場などにおいても、幕間の休憩場所のことをホワイエと言います。
日本画展示室の裏の廊下。
廊下の突き当り向こうにビデオ鑑賞の場所が設けられていました。
ホワイエで上映中のビデオ。
奈良県制作の「天武天皇と持統天皇~国の礎を築いた二人の想い~」が上映されていました。TV画面の前には椅子が並べられており、そこに座ってしばし古代の世界へと誘われます。
上映時間は15分です。
途中からの鑑賞となりましたが、すぐにまた冒頭からリピートされますので安心です。
確かこれと同じ内容の映画を平城京歴史館で見た覚えがあります。吉野へ逃れる大海人皇子(天武天皇)一行の姿が印象に残ります。
「日本」という国名が生まれたのも、ちょうど天武天皇の時代であると言われます。ニッポンの黎明期に栄えていた場所が、まさしく今居る奈良のちょうどこの辺りなのです。そう思うと、実に感慨深いものがあります。
歌垣の名残を感じさせるとぅばらーまと平瀬まんかい
万葉文化館の一般展示室に足を運べば、歌垣の歴史を学ぶことができます。
小さい頃に近所の子供たちと遊んだ「花いちもんめ」なども、日本の歴史に語り継がれる歌垣の名残です。三輪山の麓の海柘榴市などは、歌垣の行われた場所として有名です。
一般展示室の見取図。
万葉劇場や歌の広場を中心とする一般展示室は地下一階にあります。
万葉劇場の左手前にある「さやけしルーム」。
照明や音を巧みに使って、古代の世界が再現されています。ゆったりとした椅子に座って、ブース内の両側から聞こえてくる音に耳を澄ませます。さやけしルームの中は照明により青くなったり赤くなったりと、季節や昼夜が見事に表現されます。その中でも、天に轟く雷の音が実に印象的です。
古代人たちは響き渡る雷鳴に、まさしく「神鳴り」を感じたのかもしれませんね。
さやけしルームの天井には星座が描かれていました。
現代に生きる都会人たちは満天の星を見る機会がなくなりました。「満天の星」なんて言葉も、実際に見たことがなければ、その内死語になっていくのかもしれませんね。
歌の広場では、こんなクイズにも挑戦できます。
須美礼(すみれ)が正解ですが、現代の人名にも使われている漢字表記ではないでしょうか。なんとも美しい表音文字です。
古語辞典を紐解けば、変若水(をちみづ)と出ています。
繰り返す、はじめに戻ることを「をつ」と言い、その作用をする水のことを「をちみづ」と言ったようです。
飲むと若返る水のことを意味します。
月は欠けてもまた満ちます。若返るところから、この水を月神の支配するものと考えたようです。
歌垣の流れを汲む「平瀬まんかい」と「とぅばらーま」。
ビデオを視聴することもでき、独特の節回しを耳で聞いて歌垣の名残を楽しみます。
鹿児島県大島郡に伝わる平瀬まんかい。
夕刻、海岸にある二つの大岩に神役の男女が数人のぼり、向かい合って招くような手振りをしながら交互に歌を交わす。
沖縄県石垣島に伝わるとぅばらーま。
もともとは畑仕事や牛を追う労働歌で、野良から帰る男女が即興で歌掛けをしたものだと言われる。
即興で掛け合うというのがイイですよね。
あらかじめ歌詞が決まっているわけではなく、その時の気分で言葉が交わされます。
日本画展示室の前の廊下に、橿考研博物館のポスターが貼られていました。
史跡島の山古墳発掘20年を記念し、重要文化財に指定された出土遺物が一堂に会します。島の山古墳は「倭屯倉(やまとのみやけ)」が置かれた奈良盆地中央部最大の前方後円墳です。被葬者は女性とされ、碧玉製の腕輪形石製品などの出土遺物が注目を集めました。
いつもここのコーナーでは、万葉文化館以外の情報を入手することができます。ミュージアム巡りを趣味にしている人には要チェックのポイントとなっています。
祇園甲部歌舞会蔵の「都をどり(ポスター原画)」。
扇子を巧みに使って舞う舞妓さんが描かれていますね。
辰巳寛の日本画展が終了すれば、今度は5月21日(土)から7月いっぱいまで「mind of Manyo Part3 すべて見せます万葉日本画~風景~」が予定されています。風景を主題とした万葉日本画53点が展示される催しです。
舞妓さんの艶やかな姿が描かれた日本画展。
ゴールデンウイーク最終日の5月8日まで開催中ですので、明日香村観光のついでにどうぞお立ち寄りください。