師走に訪れた奈良県立万葉文化館の万葉庭園。
野外ステージの前にコブシの木が植えられているのですが、その枝先に薄い毛に覆われた冬芽を見ることができます。
コブシの冬芽。
青空を背景に銀白色に輝きます。長い冬を耐え忍ぶためか、温かそうな毛に覆われていますね。あらゆる生命体が活動を休止する冬を迎える前に、早くも冬支度に入っているようです。万葉庭園の植物にも華やぎは消え、今はただじっと来たる春を待っているかのようでした。一通り万葉庭園に植えられた植物に目を遣りましたが、目立ったのはユズリハの紫色の実と、このコブシの冬芽ぐらいでしょうか。
冬の語源を思わせる静かな芽
冬の語源は「殖ゆ(ふゆ)」にあると聞いたことがあります。
文字通り、何かが増えていく様子を表しています。見た目には分かりませんが、確実に春へ向けて生命活動が続いている、そんな状態を意味しているのではないでしょうか。物言わぬ静かな芽でありながら、その芽は春になると割れて、中から蕾が出てきます。成長を止めて休眠しているとはいえ、中では何かが蠢いている。そんな印象を受けます。
コブシの冬芽と、万葉文化館の野外ステージ。
飛鳥の地にふさわしく、巨大な石を組み合わせてステージが作られています。
「殖ゆ(ふゆ)」から「張る(はる)」へ・・・静かに、そして確実に増殖していく冬から、人の目を惹き付けて主張する春へと季節は移ろいます。春先に10cmほどの白い花を咲かせるコブシは、春を告げる花として古来より愛されてきました。千昌夫さんの歌にもありますが、まさしく北国の春を象徴する木と言ってもいいのではないでしょうか。
奈良県立万葉文化館。
開館当初は万葉文化館の駐車場は有料でしたが、今では無料で利用することができます。飛鳥寺、飛鳥坐神社、酒船石、亀形石造物などの観光名所にも近いことから、万葉文化館の駐車場を利用する人も多いのではないでしょうか。
駐車場から一段高い場所に、飛鳥名物のかめこんを食べさせてくれるお店もあります。
桜井方面から雷丘のT字路を左折して、しばらく進むと飛鳥寺と飛鳥坐神社を案内する石標があります。
ここを左に曲がると、釈迦如来坐像の安置される飛鳥寺、境内に無数の陰陽石が鎮まる飛鳥坐神社へとアクセスします。車でここを左折する場合は、ちょっと断っておかなければならないことがあります(笑) 進め20秒、止まれ4分の交互信号が待ち構えています。飛鳥寺門前にも同じような信号がありますが、もう既にこの場所から交通規制が掛かります(笑)
やまとことばを解釈するなら、「芽」は「目」と同源であると言われます。
さらに「花」は「鼻」に通じます。花は目立つ存在です。それと同じく、鼻も人の顔の真ん中にあって一番目立つパーツではないでしょうか。「初っ端(しょっぱな)」の端(はな)も言葉の起源としては同じです。出鼻をくじかれたら、なかなか立て直しは難しいものです。
目は大切な器官です。
目で外界を見て為せることは無数にあります。目という器官が無ければ、人類の発展も限られたものになっていたことでしょう。まずは最初にあるのが「め」なのかもしれません。コブシの冬芽を見るにつけ、生命体の原始の姿が想像されます。
ご存知、飛鳥の酒船石。
万葉文化館の傍らの丘を登って行くと、古代の遺物である酒船石が姿を現します。
先日お泊り頂いたお客様が、酒船石をご覧になられて驚いておられました。実は数十年前に新婚旅行で飛鳥の地を訪れ、その時にも酒船石をご見学されたようなのです。当時は酒船石へ通じる階段も整備されておらず、竹林も無かったような記憶があるとおっしゃっていました。時代は流れて、酒船石の周りも少しずつその環境を変えているのかもしれませんね。
古代から幾度となく、その冬芽を付けてきたコブシの木。
万葉文化館の庭園は、自然の営みを肌で感じることのできる素晴らしい体験スポットです。