昔のハエ取り器を奈良県立民俗博物館で見学して参りました。
蚊取り線香やベープマット、ハエ取り棒や殺虫剤など無かった時代に、人々はどのようにして自分の身を守ってきたのでしょうか。庶民の暮らしに密着した展示品で知られる ”ならみんぱく” で、その答えを探して参りました。主なものを数点、ご報告しておきます。
ガラス製ハエ取り器。
ハエの習性を利用したハエ取り道具で、昭和初期に登場しています。
高取町下子島と付されていますが、壺坂霊験記で知られるお里沢市のお墓がある辺りだと思われます。こういう昔の便利な道具を大切に取っておかれたようですね。
もんどり、ブヨクスベも展示中の知恵比べコーナー
温故知新ではありませんが、昔のモノと馬鹿にしてはいけません。
当時としては画期的なハエ取り器であり、今でもそれなりの効果を上げることはできるのではないでしょうか。フマキラーの名前の由来がハエ蚊退治にあるというのは意外な事実でしたが、昔からハエや蚊に悩まされる人の営みは変わらないようです。
ガラス製ハエ取り器の仕組みが解説されていました。
要するに迷い込んだハエが目的のえさに辿り着けないわけですね(笑) そうこうする内に力尽きて、油や石鹸水を混ぜた水に落ちるというシステムです。魚の内蔵などがオトリに使われたようですね。
確かに魚の内蔵に寄って来るハエは鬱陶しいものです。魚の水洗いの際、お腹の中から取り出した内蔵を新聞紙の上に置いて作業を続けていると、その最中にもハエはたかってきます。何度追い払っても、また何事も無かったかのように近づいてきます。さすがにそのあたりはハエです。失礼ですが、高等動物には無い面の厚さを持ち合わせています。
ガラス製ハエ取り器の左側に展示されているのは、より原始的なハエ取り器です。
一度入り込んだら抜け出せないモンドリのようなものですね。入口は容易に分かっても、出口がなかなか見つけ出せない・・・しまいにはパニックに陥ってしまうのでしょうか、不思議と脱出できないのがモンドリです。
水中生物を捕まえるために、ペットボトルを改造してもんどりを作ったことを思い出します。夏休みの宿題によく出されましたよね。
奈良県立民俗博物館の外観。
梅雨のこの時期は、県内各地で音楽の祭典・ムジークフェストならが開催中です。
動物や虫との知恵くらべコーナーには、こんな見たこともない道具がありました。
「ブヨクスベ」と案内されています。
名前からして、蚋(ぶよ)を燻(くす)べるための防虫用具だと思われます。
蚋(ブヨ)はブト、ブユとも称されるハエに似たブユ科の昆虫で、人畜から血を吸う害虫です。刺されると痒いため、昔から嫌われていたようですね。体長はほんの3mmほどと言いますから、ハエよりも小さな昆虫です。それだけ小さいと退治するのも大変なわけですが、なるほど煙で燻すという方法を取るんですね。
ブヨクスベ(ブトクスベ)の解説パネル。
農作業や山仕事の際に蚊や虻、ブヨなどの害虫から身を守るための道具。中にヨモギや粟がら、布などを入れて火をつけて、煙で虫を追い払います。腰につるしたり、手で持ったりして使いました。
ここでも香りの強いヨモギが活躍していたようです。
こちらは「ぜんまい式ハエ取り器」。
ローラー部分にハチミツや水飴などを塗り、そこにハエが止まるとローラーの回転に巻き込まれて外へ出られなくなる仕組みになっています。
ハエが止まったのを自動的に感知して回転するのでしょうか?
不思議に思って調べてみると、どうもそうではないようです。ハエは動いている人の手に集まる習性があるようで、それにヒントを得て考案されているようです。つまり、ゆっくりとゼンマイ仕掛けで常に回り続けているのではないかと思われます。
面白い道具もあるものですね。
奈良県立民俗博物館へ足を運べば、日本人の暮らしぶりが手に取るように分かります。
小難しい美術品や仏像でないところがイイですよね。私たちにより身近なモノに、普段何気なく見過ごしてしまうようなものにまで、実に様々な角度からスポットライトが当てられています。
何も国宝や重要文化財でなくてもいいのではないでしょうか。
こういう暮らしに密着したものにこそ、日本人の魂が込められているような気がしてなりません。
奈良県立民俗博物館へのアクセスは、近鉄郡山駅1番乗り場・JR大和小泉駅東口1番乗り場から奈良交通バスの「矢田東山」バス停を下車、北へ徒歩約10分の道のりとなっています。様々な気付きを与えてくれる「ならみんぱく」にあなたも出掛けてみませんか?