大和郡山市の旧城下町一帯で開催中の「大和な雛まつり」。
寺社や町屋、店舗などを展示会場として雛人形が飾られます。今年で第五回目を迎える人気のイベントで、早春の呼び物としてその認知度も上昇中です。3月3日の雛祭り前日に、大和郡山盆梅展と併せて見学して参りました。
旧川本邸に展示されていた「庭園の流し雛」。
一口に雛人形と言っても、実に様々な種類があるようですね。筏の上に雛人形が縦一列に並び、上流から下流へと渡されていました。見たこともない雛人形に思わず身を乗り出します(笑)
初節句を手作りで祝うつるし飾り
今回の大和郡山市訪問の目的は郡山城跡で開かれている盆梅展でした。
それと同時に、旧城下町エリアで催される雛人形の展示イベントも見逃すことができません。同じようなイベントが、同じく城下町の高取町でも人気を呼んでいますが、各家庭に眠る雛人形が日の目を浴びる期間とあって町全体にも活気が感じられました。
木造3階建ての旧川本邸。
大和郡山市の洞泉寺町にある遊郭跡で、大正13年建築の歴史ある佇まいに風格が漂います。
近くには源九郎稲荷神社があり、この辺りは神社を中心に栄えた奈良三大遊郭の一つに数えられる花街として知られます。木造三階建ての建物はあまり見られなくなっているだけに、大変貴重な建築物と言えるでしょう。
旧川本邸前には、「大和な雛まつり」の幟旗がはためきます。
邸宅前に青い法被を着たスタッフの方がいらっしゃって、見学者の署名を取っておられました。旧川本邸の見学は無料でしたが、なぜ署名が必要なのでしょうか?
署名が必要な理由は、公共建物としての耐震基準を満たしていないからに他ありません。その旨を了承した上での入場となります。なるほど、これだけの建物になるとリフォームもままならないのでしょうね。現代の建築基準法に合わせようとすると、解体を余儀なくされます。それだけ価値のある建築物だということです。
旧川本邸の一階奥座敷に展示されていたつるし飾り。
天井から吊り下げられたリングに紐を通し、金魚や亀、鞠などのお雛さんがぶら下がっています。
つるし飾りの解説がありました。
日本三大つるし飾り
福岡県柳川「さげもん」 静岡県稲取「つるし雛」 山形県酒田「傘福」
江戸時代から日本各地で伝承されてきたお細工物です。長女の「初節句」を手作りで祝おうと、無病息災・良縁の意味を込め作られた細工物を吊り下げたのが由来と言われています。いずれも、つるし飾りは一つ一つの細工物に、子供の健やかな成長や幸せを願う意味合いが込められています。
長女の初節句を手作りで祝うという箇所がポイントのようです。
さすがに雛壇に飾られる雛人形を手作りするのは難しかったのでしょう。自分たちでも工夫次第で作れるつるし飾りなら、心を込めたお祝いができるというものです。子を思う親の心が表れた細工物ですね。亀や鞠といったモチーフからも、子どもの幸せを願う親の気持ちが読み取れます。
つるし飾りと雛壇。
天井から細長く垂れ下がる飾り物は、小さい子供の目線にも合っていたのではないでしょうか。
雛壇の最下段に飾られる牛車。
お内裏様とお雛様を最上段に祭るのが慣わしですが、その一番下には牛車が陣取るようです。今やバラエティ番組などではすっかりお馴染みの ”雛壇” ですが、もちろんその由来は雛人形にあります。TVの雛壇では最前列が一般的に良い席とされているようですが(笑)
こちらの雛人形は随分豪華です。
いわゆる御殿雛と言われる仕様ですね。
絢爛豪華な御殿飾りが、歴史ある佇まいの旧川本邸によく似合います。
雪洞に灯りが点されると、さらにまたいい雰囲気が醸されるのでしょう。
金魚のつるし飾りが床の間前にディスプレイされていました。
イベントの開催場所に合わせた心憎い演出です。
3月3日の桃の節句は、「上巳(じょうし)」と呼ばれる五節句の一つでもあります。
雛祭りの起源は平安時代に遡ります。貴族階級の間で、自分の厄災を身代わりに引き受けさせた紙人形を川に流していたそうです。この記事の冒頭でご紹介した流し雛がその原型にあるわけですね。人形(ひとがた)の風習に通じるものもあり、6月30日に行われる茅の輪神事のことも頭をよぎります。
江戸時代になって五節句が制定されると、桃の節句の日付は3月3日に固定されました。
かつては貴族階級の風習でしたが、市井へと広まるにつれ、女の子の厄除けと健康を願う行事として定着していくようになります。雛祭りの歴史を知れば、またこういったイベントの見方も変わってくるのではないでしょうか。
見学者を圧倒する大階段の雛人形
旧川本邸の1階から2階へと通じる階段の手前に、スタッフの女性が立っておられました。
その前にはズラリと長い行列が!
不思議に思って見ていると、どうやら2階への移動を制限なさっているようでした。古い建築物故、見学者の安全を期した対策なのでしょう。2階フロアにもスタッフの方が常駐されていて、常時2階の滞在人数をチェックなさっているようでした。それこそ、底が抜けたら大変です。万全を期したスタッフの皆様方のご配慮に感謝申し上げます。
旧川本邸の2階部分。
階段の裏側も見えていますが、こちらは3階へと通じる階段です。
出ました!
旧川本邸雛人形の見所でもある大階段のお雛様です。
先ほどの階段とは別に設けられた三階へと通じる階段に、雛人形が所狭しとずらりと並んでいました。圧巻の雛壇です!
確かに階段を利用すれば、雛人形の壇を組む手間が省けますよね。しかも安定感抜群です。
人形を並べる手順はやはり上から順番に・・・なのでしょうか。そう考えると、片付ける時は下から順番に作業するのが賢明です。あるいは横幅もかなりあることを思うと、左半分・右半分という具合に作業が進められるのでしょうか。
三階部分から照明が当てられています。
雪洞(ぼんぼり)の数も10を数えます。金屏風を背にする最上段のお雛様までは目が届きません(笑) 下から遥か上方を仰ぐ格好になります。
お付きの方々の配置を見れば分かりますが、雛人形はやはり女性上位のようですね。男性の人形は下段にまとめて飾られています。
階段の雛人形には、こんなかわいいものもありました。
昔は貧富の差も如実にあったものと思われます。大切なのは心です。様々なスケールの雛人形が楽しめるのも、「大和な雛まつり」の見所の一つです。
旧川本邸の建築意匠となりきり体験
今回のイベントでは、旧川本邸の入口近くに「成り切り体験」のスペースが設けられていました。
見学者が自らお雛様に成り切るという体験プランです。
私が訪れたタイミングではどなたも ”成り切って” おられませんでしたが(笑)、特別に衣裳を借りて写真撮影が楽しめるというサービスです。なりきり体験の部屋にスタッフの方がおられますので、ご希望の方は是非この機会にどうぞ。
「第五回大和な雛まつり」旧川本邸展示会場。
源九郎稲荷神社へ続く細い参道を進み、神社手前で右折します。その突き当りにあるのが旧川本邸です。
なりきり体験の案内書き。
お内裏様お雛様になって写真を撮ってみませんか?お手持ちのカメラで撮影させていただきます。
仲良く並ぶお内裏様とお雛様のイラストが描かれています。
向かって左側がお内裏様で、右側がお雛様の並びです。この配列は結婚披露宴における新郎新婦の並び方と同じですよね。金屏風を背にし、高砂席に座る披露宴の主役はどうやら雛人形にも通じているようです。
入口近くに飾られていた赤膚焼の金魚雛。
奈良の伝統工芸として知られる赤膚焼きが、大和郡山市の金魚をモチーフに雛祭りイベントに参画していました。絵柄の可愛い赤膚焼ですが、その柔軟な発想に拍手を贈りたくなります。
竹筒の上に雛人形が乗っていますね。
これはかぐや雛の一種でしょうか。日本の昔話で知られる竹から生まれたかぐや姫。一般的に「かぐや雛」と言えば、竹の切り口にお内裏様とお雛様が並んでいるものですが、この雛人形は少し様子が違いますね。
こちらも単独で竹筒に飾られています。
それにしても色々な飾り方があるものです。それまで抱いていた雛人形のイメージが前後左右に広がって、自由に頭の体操をさせて頂きました(笑)
うん?これは折り紙でしょうか。
所々に穴が空いているところを見ると、そこから息を吹きかけて空気を送り込んだのかもしれません。まるで金平糖のような形をしています。ここまで来ると、立派な折り紙アートですね。
「川本楼」と書かれた法被。
遊郭だった頃に使用されていた法被なのかもしれません。
そもそも「楼」という漢字には高い建物という意味があります。木造三階建ての旧川本邸が川本楼と名乗っていてもおかしくはありませんよね。その昔、旧川本邸は遊女が住み込んで営業する居稼ぎ制の遊郭だったと言います。
一階部分の中庭。
四角い井戸もありました。小さな坪庭のようなスペースですが、上空からの光が届いています。
見事な吹き抜け空間です。
今でこそ吹き抜けは様々な建築物で見られますが、当時は珍しかったのではないでしょうか。旧川本邸の二階と三階部分が遊郭の営業フロアだったそうですが、その建築美に魅せられるお客さんも多かったものと思われます。
こちらはよく見るスタンダードタイプの雛人形ですね。
雛壇の真ん中辺りには菱餅も飾られています。
かつては野外でひな遊びをする際に、簡単な食事として菱餅を持参したそうです。そして、その菱餅を砕いたものが雛あられのルーツだと言われます。
旧川本邸の二階廊下。
細い廊下の片側には小さな部屋が並んでいます。
面白い形の意匠ですね。
扇形を意識しているのでしょうか。
うん?これは何でしょう。
こういう古い建物の中を見学する際には、見慣れないものに目がいきがちです。
棚の上にもお雛さんが飾られていました。
窓枠も赤や黄で飾られ、部屋全体が雛祭り一色に染まります。
部屋から部屋へと続く雛人形の光景。
やはり展示場所がいいですよね。
マンションの一室に飾られていたとしても、あまり胸に迫るものはありません。旧川本邸のような歴史的建築物で見るから、他には無い味わいが生まれます。そう、味わいなのです。
「味はひ」の「はひ」には、時間の経過が含まれています。幸せの語源は「さきはひ」にあるということを以前に書きましたが、そのジワジワくる味わいがたまらなくイイのです。
順路に従って旧川本邸内を進んで行くと、最後に展示されているのが「庭園の流し雛」です。
自らの厄を人形に託したという、そのルーツを思わせる雛人形です。
流し雛がこちらへ向かって流れてきます。
白布の皺が波立つ川面を表現しているようにも見えます。
イベントのメイン会場である旧川本邸では、寄贈された数多くの雛人形が展示されています。
開催日時は平成28年2月20日(土)~3月6日(日)の10時~16時となっています。入場料は無料です。
郡山ゆかりの演奏家による「音deつなぐ大和な雛まつり」も同時開催中です。旧川本邸のみならず、市内の城下町一帯で様々な雛人形を見学することができます。
雛人形めぐりを楽しむ前に、お雛様の展示場所が案内された「てくてくMAP」を入手されることをおすすめ致します。マップには駐車場やトイレ、音楽イベント開催場所なども案内されています。マップの配布場所は、まいどほーる(商工会館)・観光協会・柳町商店街「柳楽屋」・箱本館・やまと郡山城ホール等となっています。
梅の季節に盛り上がる大和郡山市の旧城下町へ、あなたも是非足を運んでみましょう!