弘法大師空海がかけた魔法。
全国各地に伝わる“弘法大師の井戸”はよく知られるところですが、山添村には硯石なるものが存在します。「大師の硯石」があるのは鍋倉渓のすぐ近くです。塩瀬地蔵とも目と鼻の先です。大師の硯石には窪みがあり、清らかな水が溜まっていました。
大師の硯石。
苔生した磐座に、ほぼ二等辺三角形の窪みがあります。そこに溜まる水は、枯れることも溢れることもないようです。一定の水位を保ち続けるという不思議な聖水ですね。
願いを叶える空海の錫杖!大塩の地名由来「大師の硯石」
土地の人々との様々なやり取りが語り継がれる弘法大師。
塩不足に悩む村人のために、空海が山塩を与えた逸話が残ります。弘法大師が錫杖で岩をたたくと、ポカリと穴が開いたそうです。そこから湧き出る海の潮・・・村人たちは喜び、以来この地を“大塩”と呼ぶようになったと伝わります。
大師の硯石の道案内。
県道272号(神野山公園線)沿いに道標が立っていました。ここから40mほど降りて行きます。前日に雨が降れば、ぬかるんだ山道です。足元には注意しましょう。
名前の通り、硯を思わせる形状でした。
さすがに舐めてみる勇気はありませんでしたが、エピソードに従えば塩気があるのでしょう。
大師の硯石の案内板。
幅4m長さ3mの大岩で、岩の上に深さ20cmほどの窪みがあり、いつも水が溜まっている。そして、あふれもせず枯れることもない。
昔、弘法大師が神野山へ登られるとき、ここで村人に「困っていることは」と尋ねられた。「はい、塩が無いので暮らしが大変で」と村人は答えた。「それならこの土地に、山塩が出るようにしてやろう」と言って、錫杖で岩をたたかれると、ポカリと空いた穴から海の潮が湧き出した。
大師は潮から塩を取って村人に与えられた。それからこの村を、大塩と呼ぶようになったと伝えられている。
湧水を呼ぶ空海の杖。
これまでにも似たような話は幾つか聞いたことがあります。ここ山添村の磐座にも入り込む空海のエピソードに、その影響力の強さを感じます。
自然石であることに違いはないでしょう。
鍋倉渓から大師の硯石、塩瀬地蔵を経て『ほっこり食堂映山紅』へ辿り着きました。
駐車場や無料休憩所も完備され、山添村観光の一拠点になっています。敷地内には森林科学館もあり、自然との付き合い方や森林の生態を学ぶことができます。
そして何より、絶景が楽しめます!
眼下には三重県の伊賀上野市街地が広がります。左手には南山城村を望み、壮大なパノラマ世界が広がっていました。
そんな高地に佇む大師の硯石。
鬱蒼とした木々の中で、ひっそりと息をひそめていました。
幾歳月を超え、水をたたえ続ける硯石。
枯渇しないのは分かるような気もしますが、大雨が降っても溢れないのでしょうか。まぁ、そんなことを言うのは野暮ったいかもしれませんね。
梅雨時の訪問といういこともあり、山添村の磐座はどれも苔生していました。
もののけ姫の世界観に浸りながら、その雰囲気を楽しみます。
雨乞いの石とも言われます。
山添村などは比較的山間部ですが、奈良盆地は降雨量の少ないことで知られます。古くから生活用水も兼ねた溜池が多くあり、旱魃に備えていました。県内の神社にも、雨乞い祈願の神様が多く見受けられます。