今年も大神神社のささゆりを見に行きました。
ささゆりという花は生育と休眠を繰り返しながら、播種から開花までの期間が約6年にも及びます。栽培の難しいささゆりの開花は、それ自体が大変貴重なものです。楚々と咲く大神神社の御神花を、今年も思う存分楽しんで参りました。
三島由紀夫の記念碑とささゆり。
文豪・三島由紀夫は三輪山登拝の感慨を「清明」という言葉で表しています。ここ市杵島姫神社を抱く鎮女池の畔にもささゆりが開花していました。二の鳥居前の看板でも案内されていましたが、ちょうど今が見頃です。
狭井川畔のささゆり伝説はよく知られるところです。6月17日には摂社・率川神社において三枝祭(ゆりまつり)が執り行われます。ささゆりと深く関わる大神神社の歴史に想いを馳せます。
疫病除けを祈願する三枝祭
奈良市内にある率川神社で催される三枝祭は、大宝令(701)に国家の祭事と定められました。
随分由緒ある祭りなのですね。
三枝祭は三輪山麓狭井川の畔で暮らしていたオオモノヌシの御子神に由来し、その御心をお慰めする祭事とされます。祭り当日には稚児行列なども披露され、奈良の街は賑わいを見せます。
ささゆり園 ”開園中” を報せる立看板。
二の鳥居前に、入園無料のささゆり園が案内されていました。
衣掛杉の傍らに咲くささゆり。
平成大造営の奉賛者の名前がずらりと並んでいました。かなり大きな掲示板が立てられていますね。
天皇社、神宝神社へと続く石段。
此処はささゆり園ではありませんが、石垣を背に咲くささゆりも絵になります。
手水舎の近くに開花状況が案内されています。
今が見頃のようです。
祈祷殿前のささゆり園ですが、開園時間は午前9時より午後4時までと決まっているようです。入園は無料ですが、心づけの志納がマナーだと思われます。
大神神社のささゆり解説文。
『古事記』によりますと、ささゆりの古名を「さゐ」といい、この三輪山麓にはたくさんのささゆりが咲き誇っていたと記されています。しかしながら近年は、鑑賞植物の乱獲、また環境の変化によって、往古から見られたささゆりの自生は大変難しくなっています。
この事を憂慮しまして、当神社篤農家の信仰団体である「豊年講」は平成4年に有志によって「ささゆり奉仕団」を結成し、かつてのささゆり咲き匂う三輪山を復活させようと志されました。そして、より確実に環境に適合する種子からの育成栽培に取り掛かりました。難しい技術と手入れなどに大変な労力を要し、ようやく花芽が付きはじめ、今年も約二千本の開花が見込まれています。
努力を惜しまず育成した甲斐も実り、本日はその奉仕団の皆さんのご案内によって「ささゆり」をご披露致します。
自生が望めなくなったササユリ。
後世に伝えていくために、ご尽力なさっている方々の存在を忘れてはなりませんね。
ささゆりの種子の発芽写真。
とても珍しいものを見せて頂きました。
三枝祭の際、率川神社にお供えされる酒樽。
右が黒酒(くろき)を入れた罇(そん)で、左が白酒(しろき)を入れた缶(ほとぎ)です。どちらもササユリの花で飾り立てられています。ほのかにピンクに色付くささゆりを身に纏った酒樽が神前に捧げられます。
4人の巫女がササユリを手にして舞います。
百合の花をかざし、真葛(さねかずら)を頭に挿して神楽を舞い、御子神である姫蹈鞴五十鈴姫命(ひめたたらいすずひめのみこと)の御魂を慰めます。古式に則った祭典の後は、飾られた多くのささゆりが参詣者に授けられます。これを受けることによって、疫病除けのご利益に授かることができます。
ささゆり園に開花する大神神社の御神花
ささゆりの開花場所は主に、ささゆり園と大美和の杜です。
祈祷殿前のささゆり園は拝殿にも近いことから、多くの参拝客で賑わっていました。ささゆり園は傾斜地に設けられていますので、足元には十分注意して観賞するように致しましょう。
ささゆり園の前にはテントが設けられ、境内案内図と『大神神社とササユリ』と題する冊子が置かれていました。
私が訪れた時は無人で、重しの石が乗せられていました。冊子にはささゆりの特徴や三枝祭のことが書かれており、さっと目を通してから楽しむことに致しましょう。
ささゆり園の入口付近。
九十九折りに下って行きます。随分高低差がありますね。
これはオレンジ色のささゆりでしょうか?
ささゆりのことを別名「佐韋(さい)」とも「三枝(さいぐさ)」とも言います。葉が笹に似ているので学名は「笹百合」ですが、昔は山百合と言い、古典では佐韋と呼んだそうです。狭井神社の「狭井」の語源も、実はこの佐韋に由来しています。
シュッとした葉っぱですね。
実にスマートです。
うっすらとピンク色に色付き、清楚な雰囲気に満ちています。
派手でないところが笹百合の魅力ですね。
神祇令には、
三枝の花を以て酒樽を飾る故に三枝といふ
とあります。既に大宝年間には始まっていた祭りであり、その歴史の深さには驚かされます。
花びらの先がクルッと丸まっています。
グラデーションが美しいですね。
ささゆり園の片隅にはベンチも用意されていました。
そんなに広い園内ではありませんが、ここに腰を下ろして休憩するのもいいでしょう。
手摺りも付いていました。
世はバリアフリーの時代です。出来れば段差は無くしたいところですが、それとて限界があります。関係各位のご配慮には頭が下がります。
「自生地 三重県・名張市(組織培養株)」と記されたプレート。
国内各所からもささゆりが集められているようです。
こちらは、兵庫県・三田市と案内されていますね。
以前までは目にしなかった光景です。様々な種類のささゆりが楽しめていいかもしれませんね。
このうつむき加減に咲くところがイイ。
茎と花の接合部分をよく見てみると、実に危なっかしい印象を受けます(笑) あれじゃあ重たいだろうなと余計な心配をしてしまいます。
茎の先が三つに分かれ、三輪の花を付けるところから「三枝」と命名されているようです。
なるほど、ちょうどこの写真のささゆりがそんな格好をしていますね。
花粉でしょうか。
花びらの内側に飛び散っていました。
くすり道の忍冬&鎮女池畔の鯉のエサ
ささゆり園でささゆりを堪能した後、狭井神社へ通じる「久すり道」の方へ向かいます。
大神神社は酒の神様であり、薬の神様でもあります。
くすり道の両脇には薬草が植えられ、そこを歩いているだけでも悪いものを寄せ付けない ”神々しい気配” を感じます。
儀式殿に掛けられた菊花紋の幕。
天皇家との深いつながりがある大神神社ならではの、十六菊花紋の紋章ですね。
くすり道の中段辺りに忍冬(スイカズラ)が植えられていました。
薬草故、用部と用途が案内されています。
蔓状に伸びているのがスイカズラです。
毎年4月の鎮花祭にも登場する薬草として知られます。
鎮女池の畔に咲くささゆり。
池の向こうに見えている朱色の鳥居は、大神神社末社・市杵島姫神社の鳥居です。
ささゆりから振り返ると、鯉のエサが置かれていました。
一袋100円で売られているようです。
鎮女池にはたくさんの鯉が放流されています。こんなに鯉がいたかな?と思わせるほど、様々な色合いの鯉が水面に浮かんでは消え、浮かんでは消えを繰り返していました。ここの鯉は賢いのでしょうか、池の畔に近づいただけで、あちこちから集まって来ました(笑) 餌を手にしていたわけではなかったのですが、敏感に察知しているのかもしれませんね。
受付は9時から16時までのようです。
無人の売場になっていて、エサの空袋を入れる箱も用意されていました。
ドクダミですね。
毒を抑える「毒矯み」に由来するようです。
道端でよく目にする薬草ですから、ご存知の方も多いでしょう。
狭井神社の拝殿。
拝殿右手前から三輪山への登山口が開けています。
病気平癒の神様であり、疫病除けには縁の深い神様を祀ります。薬井戸の御神水ですが、ここのところ枯渇気味のようですね。節度ある振る舞いでお参りしたいと思います。
ささゆりの開花時期は5月中旬から6月中旬にかけてと言われます。その年によって開花状況も多少異なると思いますので、情報をチェックしてからおでかけになることをおすすめ致します。