大神神社の摂社・綱越神社例祭として知られるおんぱら祭。
7月31日の例祭当日、午前10時から綱越神社境内で執り行われる祭事に参加して来ました。31日の午後7時30分から開催されるおんぱら祭奉納花火大会にばかり注目が集まりがちですが、古式に則った本来の祭事にも見所がたくさん詰まっています。
綱越神社境内で準備を整える神馬(しんめ)。
本殿前に於いて祭事が進行している間に、本殿裏側に陣取って出番を待ちます。
金色の御幣を背にする神馬
綱越神社例祭では、大祓詞を神職が唱える間に神馬が境内を三周します。
大きくぐるりと境内を周回する神馬の背中には、金色の御幣が立てられていました。
祭典前に綱越神社に辿り着きます。
綱越神社は、当館大正楼から徒歩3分ほどでアクセスできる立地です。近いこともあってギリギリに出発しようかなとも思ったのですが、祭典前の綱越神社周辺の様子も撮影しておこうと思い30分ほど前に足を向けました。
家族の名前と生年月日を記した人形(ひとがた)を本殿前に奉納して、しばらく辺りを散策します。
大鳥居脇の駐車場に大きなトラックが駐車していました。
これは見るからに、神馬曳きに登場する馬が乗ったトラックではないでしょうか。
出番を前に、綱越神社の社務所前に待機していました。
脚の筋肉が盛り上がり、とても健康そうな馬です。
そもそも神馬は神様に奉納する馬です。昔は生きた馬を神様に奉納する習わしがありましたが、その名残が現在の絵馬に表れています。絵馬の起源は神馬にあることを、再度確認しておきたいですね。
神馬は神様が乗る馬です。
その神馬の背中に目をやると、神々しい金色の御幣(ごへい)が立てられていました。
全国に名だたる神社境内にも、神馬舎が設けられているのをよく見かけます。中を覗いてみると、白い馬が奉納されています。勿論、生きた馬ではありませんが、白い馬は農耕の際の ”晴れ” を祈願して奉納されていると言われます。
おんぱら祭の目的は「お祓い」にありますから、厄除祈願を含めたお祓いの神様が神馬の背中に乗っておられるのかもしれませんね。
おんぱら祭の神馬曳き。
綱越神社沿いの道を歩いて行きます。
例祭当日の綱越神社境内には、東と西の二箇所に茅の輪が設けられます。神馬曳きの際には、茅の輪はくぐりませんが、茅の輪の横を通って境内を大きく三周します。お祓いの意味もあるのでしょうか、綱越神社本殿前で祭典が行われる中、神様を乗せた神馬が周囲を闊歩して行きます。
馬は元来、人間の生活にとっても貴重な存在でした。
結婚式の時に贈られる引出物ですが、引出物の語源も馬から来ています。馬を曳く姿は時代劇でもおなじみですが、古来から続く人と馬、そして神様との深い関係に思いを巡らします。
祭典前のおんぱら広場
午前10時前だというのに、太陽の光がギラギラと照り付けます。
道路を挟んだ綱越神社の前は大神神社の駐車場です。大鳥居下の駐車場は遮るものもなく、アスファルトからの照り返しで汗が噴き出して参りました(^-^;
特設テントが設営され、紅白の提灯がお祭りムードを盛り上げます。
「奉祝おんぱら祭 花火・献灯奉納者」の垂れ幕が掛けられていました。
おんぱら広場に設けられた舞台。
水森かおりさんの垂れ幕も掛かっていますね。
ご当地ソングの女王として名を馳せる演歌歌手の水森かおりさんですが、三輪の地を題材にした「大和路の恋」の歌い手でもあります。ヒットチャートを駆け上がって、今年の紅白歌合戦の楽曲に選ばれることを期待します。
数々の奉納演芸が披露されるおんぱら広場のステージ。
周辺には地元特産ブースや露店が建ち並び、夜の夏祭り本番を待ち侘びます。パレードや盆踊りでも盛り上がるおんぱら祭ですが、クライマックスの31日午後7時30分からは花火大会が催され、約2,000発の花火が夜空を焦がし、夏祭りのボルテージは最高潮に達します。
綱越神社境内のお祓い提灯。
綱越神社の境内には建造物が少ないのですが、意外と広い敷地を誇ります。おんぱら祭の際には、境内に駐輪する人も多く見受けられますが、ここは神聖な神社境内です。駐輪場は別に設けられていますので、くれぐれも境内に駐輪することのないよう注意が必要ですね。
木に囲まれた境内のすぐ外は交差点です。
ここは国道169号線と県道152号大三輪十市線の交差する交通量の多い場所です。
綱越神社への入口。
国道169号線側からこの道を入って行くと、すぐ右手に綱越神社が鎮座しています。左手の白壁の建物は、みむろ最中で有名な白玉屋さんです。
意外と知られていませんが、綱越神社境内にも注連縄の張られた磐座があります。聖地三輪山には辺津磐座、中津磐座、奥津磐座と多数の磐座が存在しています。三輪山麓に位置する綱越神社の磐座は、エリア別に言うなら辺津磐座に属するのかもしれませんね。
大正楼の連子窓前にも提灯を吊り下げます。
三輪の街の玄関先にはおんぱら祭の提灯が吊り下げられ、お祓いムード一色に染め上がります。
おんぱら広場の片隅に、おんぱら祭の開始を告げる奉祝飛行機の写真が掲げられていました。
おんぱら祭の宵宮祭に当たる7月30日の午前11時30分から正午にかけて、朝日航空株式会社による空中放送・祝賀飛行が行われます。
セスナ機が桜井市内の上空を奉祝飛行し、二日間に渡っておんぱら祭が開催されることを告げます。
朝日航空株式会社の概要が案内されています。
所在地は八尾市空港のようですね。事業としてチャーター飛行、宣伝放送飛行、航空写真、遊覧飛行などを行っておられるようです。
夏越しの訛った綱越神社のお祓い祭事
そもそも「綱越神社」とは、夏越しが転訛した名前であることを記しておきます。
大神神社の夏越しの大祓は6月30日に執り行われます。綱越神社のおんぱら祭よりも1か月前に、上半期の穢れを祓う祭事が催されているのです。拝殿前には三霊木による茅の輪が設けられ、多数の参拝客が八の字を描きながら穢れを祓います。
大神神社の茅の輪神事から1か月後に、その摂社である綱越神社に於いても茅の輪くぐりが執り行われます。
祭典開始の午前10時を前にして、続々と参列者が詰め掛けます。
綱越神社の明神鳥居をくぐって、本殿前のテントの中に吸い込まれていきます。
ご神職や巫女さんたちもお目見えです。
綱越神社は平安時代の「延喜式神名帳」にも記載される由緒正しい神社です。
祓戸の四神が祀られ、大神神社参拝の際に先ずお参りするお祓いの社とされます。祓戸大神(祓戸四神)と言えば、大神神社の玉砂利参道沿いの祓戸社を思い出すわけですが、そこに祀られる神様と同じ神様がここ綱越神社にも祀られています。
御祓祭(おんぱら祭)の提灯が鳥居に掛けられています。
おんぱら祭という不思議な名前ですが、この「おんぱら」も「お祓い」に由来しています。
夏越しが訛って綱越になったと案内致しましたが、一説には綱を超えて三輪山を遥拝したからとも伝えられます。今も大神神社拝殿前には柱の間に綱が架けられていますが、綱は蛇を象徴します。脱皮を繰り返して成長する蛇は、古代人にとって霊妙な存在であったに違いありません。綯われた綱は、蛇の姿を彷彿とさせ、それはそのまま神様の似姿とされたのかもしれません。
綱越神社例祭には音響設備も整えられていました。
祭典には様々な効果音も必要なのでしょうか。
神饌をお供えになられるご神職。
普段は「おんぱらさん」と親しまれる祓戸大神ですが、この時ばかりは厳粛な雰囲気で祭事が進行していきます。
神饌の鯛でしょうか。
尾が跳ね上がっているのが見えます。
穢れの「ケ」は食物を意味していると言います。御饌(みけ)のケにも通じているわけですが、そのケが枯れてしまうことをケガレと言ったのです。やっぱり食物は偉大です。それなくして生きていくことすら出来ないのです。
ひらがなで表現される大和言葉には深い意味が隠されていることが往々にしてあります。ケガレのケにも、実に深い意味が込められていることに気付かされます。よく二毛作などと言いますが、この二毛作の「毛」も食物を表すケであることに相違ありません。
祭事のルーツを辿れば、五穀豊穣を祈願する人々の姿が浮かび上がります。
おんぱら祭の茅の輪くぐりで穢れを祓って、心身の清浄を取り戻してこの夏を乗り切りたいですね。食欲の落ちる真夏ではありますが、きちんとした食生活こそがお祓いの原点であることを忘れてはなりません。
多数の氏子崇敬者が参列して執り行われる綱越神社例祭。
様々な色で魅了する大玉やスターマイン、仕掛け花火などが打ち上げられる花火大会とは打って変わって、その祭典そのものは厳かに斎行されます。当然と言えばそれまでなのですが、花火大会にはない本来の祭りの姿を見ることができます。
引退後の競走馬が神馬になることもあるようですが、こちらの馬の本来の姿も見てみたいものですね。
世を忍ぶ仮の姿とはこのことでしょうか。
祭典の参列者全員が、拾遺和歌集に見る「水無月のなごしの祓する人は千歳の命延ぶといふなり」の歌を唱えます。唱えながら茅の輪をくぐり、知らず知らずの内に身に付いた罪や穢れを祓い清めます。
本殿前には特設のお守り授与所が設けられていました。
神馬の背中の御幣(ごへい)が印象的です。
神様に祈るときに奉るのが幣(ぬさ)です。お供え物の幣ですが、背中に乗っている御幣(ごへい)は神祭用具の一つとされます。よく縁起担ぎのことを御幣担ぎ(ごへいかつぎ)と言ったりしますが、まさしくこの神馬は御幣を担いでいますね(笑)
お供え物の神饌にスイカが見られます。
ここはひとつ、神様にも水分補給をして頂いて祭事を見守って頂きましょう。
巫女さんの舞いは浦安の舞いでしょうか。
浦安の舞いは、心が平安であることを祈る舞いです。うら悲しいなどの「うら」に通じる「うらやす」であることを確認しておきましょう。この「うら」は「心(うら)」を意味しています。心が平安であるから、「心安(うらやす)」なのです。
それでは、その反対は何でしょうか?そう、「心病む(うらやむ)」と言ってもいいかもしれません。現代の漢字表記では「羨む」と書きますが、その語源を辿れば、心が病んでいる状態を表す「心病む(うらやむ)」に行き着きます。
浦安の舞いで心を整え、お祓いの茅の輪くぐりに備えます。
茅の輪の向こうに神馬を見ます。
おんぱら祭の数日前に、綱越神社社務所から恒例の人形が送られてきました。
人形に氏名と年齢を書き、右と左の肩及び胸を撫でて深い息を三度吹きかけ、その後体中をよく撫でます。インターハイの合宿を前に立ち仕事が続いていたこともあり、最近どうも腰の張りを感じていました。腰をよく摩擦して撫で、本殿前に納めて参りました。
無病息災を祈念するおんぱら祭。
神々しい神馬にも出会えて、今年の下半期はいい事がいっぱいありそうです。
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