今年も開催されているおふさ観音のバラまつり。
初夏のこの時期になると、つい足を運びたくなるお気に入りの場所です。藤原宮跡や大和三山にも程近く、歴史散策のルートに組み入れてみるのもいいでしょう。
おふさ観音本堂とバラ園に開花する薔薇。
おふさ観音のバラまつりは、1995年以来毎年開催されている恒例行事です。
約3,800種類(およそ4,000株)にも及ぶバラが、バラ園を中心に咲き誇る一大イベントとなっています。寺宝・生き人形の他にも、時おり三千仏掛軸の特別公開も行われます。薔薇はその華やかな見た目から現代的なイメージがありますが、意外にも万葉集に詠われている花なのです。
万葉の時代には「茨(うまら)」と詠まれたバラ。
薔薇の語源は、茨(イバラ)のイ音が抜けた形にあると言います。棘のある低木類を総称して茨(いばら)と言うわけですが、現在でも「茨の道」という表現に残されていますよね。
おふさ観音門前で食すさなぶり餅
おふさ観音の門前にある総本家さなぶりやの『さなぶり餅』を試食して参りました。
バラまつりや風鈴まつりの際に、ここに立ち寄って腹ごしらえするのもオススメですね。ところで、「さなぶり」とは一体何を意味する言葉なのでしょうか?
総本家さなぶりやの『さなぶり餅』。
さなぶり餅は全粒小麦を使用した黄粉餅です。ぶつぶつとした舌触りが印象に残る和菓子でした。
さなぶりという言葉ですが、どうやら早上(さのぼり)と同じ意味合いで使われているようです。おそらく「さのぼり」が転訛して「さなぶり」に変じたものと思われます。
「さ」は稲を意味しており、田植えが無事に済んだお祝いを指す言葉とされます。田植えの終わった休日のことを代満(しろみて)と表現することもありますが、さなぶりと代満(しろみて)もほぼ同義語と言っていいでしょう。
さのぼりとは反対に、田植えを始める日の祝いを「さおり」と言います。稲の神様である「さ」が天から降りて来る、そんなイメージでしょうか。下界で無事に田植えが終われば、稲の神様が再び天へと戻って行く・・・さのぼりという言葉にはそんな世界が想像されます。
総本家さなぶりやの店頭。
店名の前に「小麦餅」の文字が見えます。
箱売りとばら売りがあるようです。
箱入り6個で税込615円、バラで購入する場合は1個税込135円のお値段です。
店内で食べることもできるようでしたので、イートインさせて頂くことになりました。
ばら売りのさなぶり餅を選び、座布団の上に腰掛けて御馳走になりました。
おふさ観音のバラまつりは春と秋に催されていますが、春の開催期間は5月15日~6月30日までとなっています。ちょうど田植えの終了時期とも重なりますよね。そういう意味でも、タイムリーな甘味処ではないかと思われます。
黄粉と黒蜜をかけて頂きます。
付属のヘラを使ってかき混ぜ、小麦本来の味を堪能します。
おふさ観音のバラまつりに訪れた際は、是非一度このお店でさなぶり餅を食べてみて下さい。一般的には半夏生餅とも呼ばれる昔懐かしいお味です。日本の夏を感じさせる和菓子に舌鼓を打ち、いよいよバラまつり開催中の境内へと足を踏み入れます。
観音寺の境内案内図
橿原市小房町にある通称おふさ観音。
その正式名称を観音寺と言います。
御本尊は十一面観音立像で、無量山の山号を持つ高野山真言宗のお寺とされます。
おふさ観音の山門。
大和ぼけ封じ霊場の木札が掲げられます。
門前から大和長寿道を東へ向かえば、春先に咲くぼけの花で知られる安倍文殊院へと通じています。
おふさ観音の境内図。
バラ園を囲むように諸堂が並び建ちます。本堂裏手には亀の池、鯉の池、円空庭があり、その奥に休憩処の茶房おふさが控えています。バラまつりのシーズンにバラジュースを頂いたことを思い出します。
本堂向かって左手奥から大師堂、金毘羅尊社、恵比寿尊社、三宝荒神堂、西諸尊堂、鐘楼堂と続いているのを確認します。
本堂手前のバラの蕾。
ぷっくりと膨らむ蕾には、満開の花とはまた違った趣が感じられます。
グラデーションの掛かった、実に美しい花弁ですね。
おふさ観音の本尊は木造十一面観音立像ですが、これは比叡山北谷の観音院本尊を慶安3年(1650)に当寺へ移したものとされます。「小房積(おふさしゃく)の観音」と呼び慕われ、庶民の信仰を集めています。今も本堂の秘仏として祀られ、日々祈祷を受ける参拝者が後を絶ちません。
小房観音のバラの特色ですが、それは品種の多さにあります。
他の多くのバラ園では、一品種の株数を多くする傾向にあります。しかしながら、おふさ観音では基本的に一種類一株を栽培なさっているようです。
大和十三仏霊場会の本尊・千手観音様
大和十三仏霊場の第八番札所に名を連ねる小房観音。
御朱印巡りブームの中、十三仏守護屏風台紙などが人気を集めている霊場会です。十三仏詣りは、三世に渡って私たちをお守り下さる有難い13の諸尊を巡礼するものとされます。
本堂裏手に掲げられるおふさ観音の絵馬。
丸い絵馬にはバラが描かれ、諸願成就と記されていますね。この絵馬の左手に格子戸が見えていますが、この中に千手観音様が祀られています。
千手観音様の案内。
こちらの北向きの観音様は、別名「ひとこと観音様」と言い、一つお願い事をすると大変ご利益があると言われてきました。北向きの観音様は、全国でも少なく、特に霊験あらたかであるとの言い伝えがございます。絵馬にお願い事を一つお書きの上、ご奉納下さい。(絵馬は寺務所前にございます)
小房観音の千手観音は一言観音であり、北向き観音という特徴も持ち合わせているようです。
お寺の本堂や仏像は南向きが一般的ですよね。家を建てる時なども、南向きや東向きが好まれる傾向にあります。家相的にもいいのでしょうが、太陽光を意識している部分も大きいのではと思われます。その一方で、北向きで思い出されるのが北極星を意識していたと伝えられる徳川家康です。人には信仰の自由がありますから、北向きであろうが南向きであろうがそこに優劣は存在しないのですが、なぜこの千手観音様が北向きに祀られているのか気になるところではあります。
本堂裏手の生垣にも、「花まんだら」を思わせる様々な品種の競演が見られます。
千手観音様は外からでもお参りすることができます。
神秘的な霊力を宿す真言を唱えながら、是非皆さんも一言だけお祈りしてみて下さい。
十三仏霊場会のパワーも相まって、きっとこの上ないご利益に授かれることでしょう。
千手観音様の向かいには亀の池があります。
おふさ観音の縁起にも語り継がれる亀の存在・・・かつてこの辺り一帯は、鯉ヶ淵(こいがふち)と呼ばれる大きな池だったそうです。
慶安3年の4月早朝、土地の娘のおふささんが池の辺を歩いていたところ、白い亀の背中に乗った観音様が現れたと云います。白い亀は蓑亀の姿をしており、いかにもそれは吉祥の徴でした・・・白鹿に乗った武甕槌命(たけみかづちのみこと)が御蓋山に現われたという春日大社の縁起とも重なりますよね。やはり神様は穢れを祓った白い色を好まれるようです。
白亀に乗った観音様の出現により、この池に小さなお堂を建ててお祀りしたのがおふさ観音の縁起と伝えられます。
本堂前の香炉台。
線香の煙の匂いが立ち込め、お寺の参拝モードへと入っていきます。
おふさ観音の寺紋でしょうか。
何という名前の紋なのでしょうか。あまり見かけない珍しいデザインですね。
三宝荒神堂や西諸尊堂前にも開花する薔薇
おふさ観音は大和七福八宝霊場会にも列せられています。
本堂左手に恵比寿尊社が祀られ、恵比寿神のお寺としても数多くの参詣者を迎えています。毎年1月の第3日曜日には、境内の恵比寿尊社において初えびす大祭が催されます。
本堂向かって左手に4つのお堂が並んでいますね。
左側から三宝荒神堂、恵比寿尊社、金毘羅尊社、大師堂が連なります。火難除けの三宝荒神を祀る三宝荒神堂、商売繁盛・家運隆盛のご利益で知られる恵比寿尊社、農業・漁業・医療など幅広く御神徳のある金毘羅尊社、そして宗祖弘法大師空海・普大士尊・庚申尊を祀る大師堂の堂宇が並び建ちます。
本堂前のバラ園は蛇行しており、咲き誇るバラの間を縫って進むことができます。
間近にバラの香りを楽しみながら、おふさ観音の境内を巡ります。
この場所はちょうど、7月1日から2カ月間に渡って開催される風鈴まつり期間中は涼やかな音色に癒されるエリアです。薔薇から風鈴へと移り変わる、その鮮やかな模様替えも小房観音の魅力の一つとなっています。
縁取りが特徴的なバラですね。
幾重にも重なり、ボリューム感たっぷりです。それでいながら、整然とまとめられた印象を残します。
西諸尊堂前のバラ。
境内の反対側にも東諸尊堂があります。
決してメインではありませんが、色々な神様や仏像が祀られていますので一度覗いてみて下さい。
山門入ってすぐ左手にある鐘楼堂。
「和の鐘」と称される昭和51年作の鐘です。元来ここには、元禄3年銘の釣鐘があったそうです。しかしながら、昭和19年に第二次世界大戦のために供出の憂き目に遭っています。お寺の多い奈良県のことですから、戦争中に供出された釣鐘も相当数に上るのではないでしょうか。
本堂前の通路。
行く手に特別公開の生き人形を案内するボードが見えています。
本堂外陣に祀られるびんずる尊者。
仏足石や「瓦寄進のお願い」も見られます。
奈良県内でバラの名所と言えば、小房観音の他にも霊山寺や松尾寺などがあります。霊山寺境内には京都大学農学部造園学研究室の設計によるバラ園があります。薔薇会式では色とりどりのバラの花びらが散華として本堂に舞い、境内のボルテージはバラ一色に染め上がります。霊山寺といえば、華道家の假屋崎省吾さんのイベントも見所の一つになっていますよね。
おふさ観音駐車場からバラ苗の即売会会場へアクセス
おふさ観音の駐車場は計4箇所ありますが、その中でも縄手町交差点付近の第二駐車場がおすすめです。
観光バスも駐車可能な比較的広めの駐車場です。
おふさ観音の第二駐車場。
信号のある交差点を曲がってすぐの所にあります。そこに、「バラまつり駐車場」の案内看板が立っていました。目的地のおふさ観音へは、この道を真っ直ぐ西へ歩いて行きます。徒歩5分弱で辿り着きますので、そんなに遠くはないと思います。
バラ苗の貴船(きぶね)。
おふさ観音の門前では、大和ばら園によるバラ苗の即売会が行われていました。
朱色の鮮やかな発色で参拝客を魅了する貴船・・・花形は剣弁高芯で、ほのかな芳香を漂わせていました。
貴船の棘に近寄ります。
これは鋭い!美しいものには棘がある。よく言われることですが、思わず納得してしまう鋭利なトゲに見入ってしまいます(笑)
こちらはダイアモンドグレイのバラ苗。
少し茶色味を帯びたグレーの発色が特徴的です。こんな発色のバラも珍しいのではないでしょうか。
花の系統はハイブリットティーのようです。
ハイブリットティーとは、強健な四季咲き大輪花を目指して作られた系統のようです。ちなみに貴船もハイブリットティーの系統に分類されます。
即売会会場から道を挟んで真ん前に位置する山門。
綺麗なバラ苗が陳列されるバラの市(即売会会場)ですが、普段はおふさ観音の南駐車場として利用されているそうです。バラまつり期間中は駐車場ではありませんので、お車で向かわれる方は注意が必要ですね。
春と秋には境内一面にバラが咲き誇り、夏には風鈴の音が響く
市井の人たちの手によって建てられ守られてきた、庶民信仰が厚いお寺。地名と合わせて「小房(おふさ)観音」と親しまれています。
天才人形師・安本亀八作の「生き人形」などの寺宝の数々が特別公開されます。
秋のバラまつりの開催期間は10月19日~11月30日までとなっています。
バラまつりの期間こそ定められていますが、おふさ観音の境内では年中バラの花を楽しむことができるようです。
おふさ観音の干支絵馬。
干支の申が打ち出の小槌のようなものを手にしていますね。
本堂前には薔薇のアーチも掛けられています。
バラまつりの入場料は無料です。境内は自由に散策することができますが、本堂内の拝観料は300円となっています。
バラまつりの入場時間は午前7時~午後4時30分(開門は午後5時まで)。
早朝の7時から境内のバラを観賞することができるんですね、これは狙い目かもしれません。おふさ観音の境内はそんなに広くありません。お昼前後にでもなれば、多くの人出で純粋にバラを楽しむことができなくなります。混雑していない境内で薔薇を堪能するのがベストではないでしょうか。