今年も子鹿の季節がやって参りました。
春日大社境内の鹿苑に於いて、6月1日から30日までの一箇月間に渡って生まれたばかりの子鹿を見学することができます。
鹿苑に集う観光客。
スタジアム風の観覧席が設けられた鹿苑は、秋に行われる鹿の角切り会場としても有名ですよね。芝生の敷き詰められた左側のスペースで母鹿と子鹿が戯れていました。写真右側のスペースも鹿苑の敷地内ですが、子鹿公開のイベントは主に芝生会場にて行われているようです。
鹿苑の禁止事項を守って、楽しく子鹿を見学
実は鹿苑の見学に訪れたのは今回が初めてでした。
鹿の角切りをはじめ、鹿苑の苑内に入るのは初めてのことです。鹿苑は春日大社の参道沿いにありますから、何度も近くを通ってはいたのですが、なぜか訪れる機会には恵まれませんでした。この度、めでたく初見参となります(笑)
鹿苑で戯れる母鹿と子鹿たち。
時折、場内アナウンスが流れて子鹿の生態が紹介されます。
奈良公園で誕生する子鹿の全てがここに収容されているわけではありません。基本的に奈良のシカは野生動物ですので、奈良公園の中で子鹿を発見することもできるそうです。運良く子鹿を見つけても、決して触ってはいけません。人間の臭いが一度付いてしまうと、その子鹿を母鹿は育てなくなるそうです。可愛さのあまり、つい触れてしまいたくなる気持ちは分かりますが、子鹿に触れるのはご法度です。奈良を訪れる観光客の方は覚えておきましょう。
鹿苑の入口付近にも「会場内の注意事項」が案内されていました。
禁煙、三脚禁止、食事禁止の他にも、
最前列の手すりに荷物等を置かないでください。
日傘の方は最上階でご観覧願います。
などと出ています。
鹿苑での子鹿見学は見下ろすような形になります。下に居る鹿たちを驚かせてはいけませんからね、どうやらそのへんの配慮がなされているものと思われます。煙草の灰が宙に舞い、鹿たちに降りかかるなんてことは以ての外です。
シェルターのような場所に身をひそめる子鹿たち。
生後2~3週間は草むら付近に隠れて過ごす習性があるようです。よく見ると、コンクリート製の簡易避難所には鹿の子模様が描かれています(笑) 奈良の鹿愛護会の方にお伺いしたのですが、特にこの模様に意味は無いようです。人間目線で楽しむためのものなんですね。
それにしても、子鹿の白い斑点模様は実に鮮やかです。大人の鹿と比べてみても、その違いは明らかですね。お母さん鹿に見つけてもらいやすいようにするためなのでしょうか。
自撮り棒禁止の注意書き。
英語と中国語でも、昨今流行の自撮り棒の使用が禁止されています。スマホが下に落ちようものなら大変ですからね、くれぐれも自撮り棒(self-taking stick)は謹むように致しましょう。
このような角度で鹿たちを見下ろします。
普段の奈良公園散策ではあり得ないアングルです。上から見ると、お腹が大きいのが分かりますよね。
そもそも子鹿公開などというイベントは無かったのです。最近になって始められた催しであることを忘れてはなりません。母性本能の強い母鹿は本来、人が赤ちゃんに近づくことを嫌がります。鹿苑の中で騒いだりすることも戒めなければなりません。それこそ運が良ければ、赤ちゃんの出産シーンにだって立ち会えるかもしれないのです。しかしながら、そんなことは通常有り得ないことです。そのことを忘れないようにしたいですね。
子鹿公開の入場料は300円
子鹿公開の開催期間は6月1日~30日で、公開時間は11時~14時(入場13時30分まで、小雨決行)となっています。
母子鹿のストレスを少しでも軽減するためか、一日の公開時間は3時間と限定されています。なお、子鹿公開の料金は一般大人が300円、高校生以下は無料となっています。さらに奈良の鹿愛護会会員には、同伴1名まで無料のサービスが付いています。イベントの収益金は「奈良のシカ」の保護に活用されるとのことです。
春日大社参道沿いに立つ子鹿公開の看板。
この写真を見て、急きょスケジュールを組み替える人も多いのでしょうね。
鹿苑前までやって参りました。
受付のテントが向こうに見えています。
鹿苑には専用駐車場がありませんので、皆さんは徒歩で向かうように致しましょう。
チケット販売所(Ticketing place)の案内札。
観覧者が多い日には、ここまで行列待ちができるのでしょうか。赤いセーフティコーンで列の区画整備がされていました。
修学旅行生でしょうか。
私が鹿苑を訪れたのは6月初旬の平日でした。大した混雑も見られず、スムーズにチケット販売所まで辿り着きます。
ちゃんとベビーカー置場も用意されていますね。
鹿苑場内はバリアフリーではありませんので、小さい子連れの方はここでベビーカーを預けることになります。
受付所から右手へ、鹿苑の入口方向に歩を進めます。
子鹿公開のチラシにも書かれていましたが、子鹿の体調を考慮して、子鹿公開が予告なく中止の運びになることもあるようです。あくまでも子鹿を中心にしたイベントであることを思い知らされます。
階段を上って、いよいよ鹿苑の中へと入っていきます。
突き出たコンクリートの柱が鹿苑を象徴していますね。
左手に視界が開けます!
あ~ついにやって来ました、子鹿公開中の鹿苑。
芝生の所々に日陰が作られています。
初夏の6月は日差しもきついですからね、鹿たちにとっても直射日光から逃れる場所は必要です。段々になった観客席の縁には黄色い線が塗られており、踏み外し防止に役立っているようです。
本日のメイン会場は左手の芝生会場です。
スタジアム風の席に腰掛けて、長閑な時間を過ごす鹿たちを眺めます。この右手も鹿苑の敷地内で、母子鹿をはじめ、怪我をした鹿などが収容されています。
それにしても鹿苑は広いですね。
収容の際の目的別なのでしょうか、幾つかに区画されたスペースが広がります。
施設見学通路が案内されていました。
楕円形の芝生会場は上から母子鹿を見学する格好なのですが、スタジアムを下りた通路沿いの鹿苑では鹿と同じ目線で楽しむことができます。木の根元に子鹿が隠れていたりと、より自然に近い形で子鹿見学を堪能することができます。
愛護会の事務所近くにあるパネル展示コーナーでは、鹿の角切りにまつわるコーナーも設けられていました。
半円形の筒の中に鹿のえさが見えますね。
鹿苑には常時約300頭の鹿が保護されているそうです。愛護会の方々のご尽力にはつくづく頭が下がる思いです。
あんな所に子鹿が!
子鹿が一頭、片隅でうずくまっています。
一体どうしたんだろう?鹿苑のスタッフの方にお伺いすると、どうやらあの場所がお好みのようです。何か特別な病気にでも罹っているのかと心配したのですが、それにしては辺鄙な場所です。隔離されているにしても、あまりに配慮が感じられません。なぜだろう?不思議に思って聞いてみたのですが、予想外の回答に面喰ってしまいました(笑)
この場所は実を言うと、先ほどの芝生会場と下でつながっているようなのです。一旦芝生会場に連れて来ても、いつの間にかこの窮屈な場所にやって来るのだそうです。皆と一緒に行動するのが苦手な子鹿とのことでした。母鹿も最初は気にしていたのかもしれませんが、今となってはもうほったらかしだとか(笑) いずれにせよ、奈良公園では暮らしていけない個体なのかもしれませんね。鹿にも生来の性格がそれぞれにあることを知りました。
鹿苑専用の鹿のえさと当たりくじ
鹿苑の会場内では鹿のえさも販売されていました。
奈良公園内で見かける鹿せんべいではなく、見た目的にはまるで鹿のふんを想像させる丸っこいエサです。
100円で販売される鹿の餌。
高い所からこのエサを投げ入れることができるようです。奈良公園に生息する鹿は野生動物で、普段はシバや木の実を食べて生活しています。観光客が与える鹿せんべいはあくまでもおやつという位置付けのようです。
奈良公園の鹿は、捨てられたゴミを誤って食べてしまうこともあります。鹿苑のパネル展示コーナーに足を運べば、鹿のお腹の中から出てきたゴミを実際に見ることができます。ショッキングな展示品ではありますが、現実から目を背けてはなりません。
鹿のエサ1個100円。
パネル展示に続く見学通路へ足を伸ばせば、鹿のえさであるドングリコーナーなども設けられています。鹿との触れ合いが楽しめるのも鹿苑のおすすめポイントでもあります。
シカのエサはどうやら当たりくじ付きのようです。
大当たりも用意されていて、当選者は鹿の角がゲットできます。その他の当選品として、鹿細工キット、鹿の折り紙、☆マーク、Caution ステッカー、支援ロゴシール、折り紙細工などが案内されています。支援ロゴシールのデザインは、春日大社近くの自動販売機などでもよく見かけます。Cautionステッカーの道路標識なども、奈良公園界隈ではすっかりおなじみですよね。
外国人観光客向けに英語案内もありました。
Deer treat lottery と書かれていますね。lottery は宝くじや抽選を意味しますが、そもそも lot だけでもくじ引きや抽選という意味があります。ちなみに、The lot fell upon me.で、「くじは私に当たった」と翻訳されます。
Deer treats only available here are sold for \100.If you are lucky, you can win a prize! The first prize is a deer antler!
この場合の treat は御馳走を意味する名詞だと思われます。
当選品と思しき品々がケースの中に収められていました。
やはりここでも、黄色いステッカーが一際目立っていますね。
長細い楕円形をした鹿苑の会場。
緩やかにカーブを描きながら、直線コースへと入って行きます。
三段の段差が付けられていますね。
観客席には常設の日傘も設置されています。これだけの段差があれば、前の人の頭も気になりません。
子鹿公開の入場チケット。
赤ちゃん鹿大集合!と銘打たれています。
芝生の上はさぞ暑いことでしょう。
スプリンクラーのようなものが作動していました。周囲に水を撒き散らし、鹿たちに一服の涼を与えていました。やはりここでも、チョコボールのような鹿のふんが目に付きます。いつも思うのですが、鹿のフンは何とも上品な風情を醸していますね(笑)
逸出鹿の追い上げや頭数調査
メイン会場を抜けて、パネル展示コーナーへ行く手前には事務所があります。
愛護会会員の入会受付所にもなっている場所で、奈良公園の白鹿の剥製が展示されています。事務所もそうですが、鹿苑では奈良の鹿愛護会の活動内容を具体的に知ることができます。
今まで思いもしなかった愛護会の方々のご苦労を知ることができるのも、鹿苑の見所の一つでもあります。
木陰で涼む母子鹿たち。
子鹿の鮮やかな鹿の子模様がくっきりと浮かび上がります。
皆思い思いに草を食む鹿たち。
奈良の鹿愛護会は、奈良のシカの保護を目的に明治23年に設立されています。かなり歴史のある保護団体であることが分かりますね。鹿の生態や歴史、保護活動の資料展示などを通してより身近に鹿を感じることができる、私たちにとっては大変有難い団体です。
現在鹿苑で生まれている子鹿の頭数掲示。
母鹿、子鹿共に場内(芝生会場)よりも通路エリア(パネル展示コーナー、ドングリコーナー、鹿クイズ)の方が多いようです。
場内の母子鹿。
鹿の妊娠期間は210日~230日とされます。赤ちゃんの体重は約3,000gと言いますから、人間の赤ちゃんとほぼ同じですね。草食動物ということもあるのでしょう、生まれて数十分から1時間ぐらいで立ち上がり初乳を飲むそうです。実に逞しいですね。
鹿と人との共生が案内されています。
周りに注意を払いながら鹿を追う愛護会の車両ですね。逸出(いっしゅつ)鹿の追い上げシーンのようですが、可能であればこのまま保護されるわけですね。
奈良公園外に出て畑や花壇を荒らしてしまう鹿や公園外に住んでしまう鹿がいます。
◎食害対策
公園周辺の農地、市街地等の巡回、逸出(いっしゅつ)鹿の追い上げ
逸出鹿の保護頭数 35頭/27年度
大人しく奈良公園のエリア内だけに居るとは限らないようです。
野生の鹿ですからどこへ行こうと勝手なのですが、奈良のシカは天然記念物であり神鹿でもあるわけです。そうは簡単に片付けられないのが悩みの種でもあります。公園外の畑や花壇を荒らしてしまったのでは、せっかくの神性も台無しですからね。
愛情の感じられるワンシーン。
基本的に鹿は一度に一頭しか生まないようです。母鹿は朝昼晩と、一日三回乳を与えると言います。
愛護会の活動ではおなじみの頭数調査ですね。
◎頭数調査
頭数の経年変化を把握するため、毎年2日間実施。
◎エリア別頭数調査
地域間行動を把握するため、毎月頭数調査を実施。
こまめな活動が定期的に続けられているようです。
ふと思ったのですが、動く対象を見ながらの調査は大変でしょうね。野鳥の会の方々にも神業的なものを感じますが、奈良の鹿愛護会にも独自のコツが蓄積されているものと思われます。
一瞬、切り株の一部かと勘違いしてしまいました(笑)
よく見ると、二頭の子鹿が母鹿の手前に居ます。自然界ではカムフラージュされるのかもしれませんね。
最前列から真下を見ると、やはり結構な高さです。
カメラ片手に子鹿を撮影している人は、カメラを落とさないように万全の注意が必要です。あるいは帽子を着用している人は、風で帽子が飛ばされないように注意が必要ですね。
お母さんとシェルターが大好きな子鹿たち。
そもそも鹿苑そのものがシェルターなのです。妊娠中の雌鹿や赤ちゃん鹿、怪我をした鹿などを保護する施設が鹿苑です。人間とのトラブルを避けるために、常に300頭前後がこの場所で保護されています。
まるで秘密基地(笑)
狭い所に入りたがるのは、人間も鹿も同じなのかもしれません。こうやって身を潜めているのも、誰に教わったわけでもない鹿の本能によるものです。本来の大自然の中では敵がいっぱいですからね。幸いにも奈良公園の鹿として生を享けた子鹿たちですが、もう来年の今頃には奈良公園内を飛び跳ねていることでしょう。
日除けの下でゆっくりと子鹿見学を楽しみます。
母鹿と子鹿がお互いに歩み寄っただけで歓声が湧き起ります。期待値が上がるのも無理はありません(笑)
生まれもっての「神様の使い」です。
これから幾度となく、観光客と触れ合う機会もあることでしょう。奈良は国際観光都市ですから、世界中の旅行客とも接することになります。悲しいかな、観光客のマナー不足によるトラブルも発生することでしょう。そんな生活環境ではありますが、元気に奈良公園の中で暮らしていってもらいたいと願うばかりです。