国内最大級の規模を誇る帆立貝式古墳をご案内致します。
古墳の名前を乙女山古墳と言います。
古墳の場所は、チューリップやダリアの花薗が人気の馬見丘陵公園の中です。馬見丘陵公園中央エリアの北側、ハナモモの丘の西に全長約130mの乙女山古墳はあります。
乙女山古墳の模型。
ナガレ山古墳の東側に、馬見古墳群の立体模型が展示されていました。
濠と外堤に囲われ、帆立貝の形をしているのが確認できます。前方後円墳と言えなくもありませんが、前方部が短いところを見ると、やはり古墳の類型としては帆立貝式古墳に分類されるのでしょう。葺石や埴輪列も再現されており、ナガレ山古墳と似た点も確認できます。
古墳の造り出しは、追善供養の祭壇場?帆立貝式の謎
帆立貝の形をしているということの他にも、乙女山古墳を特徴付ける一点があります。
後円部西側に少し張り出している出島のようなものが見えます。この出っ張りは、大型前方後円墳のくびれ部分によく見られる造り出しではないか?そう思って乙女山古墳の案内板を見ると、確かにそれは「造り出し」でした。
やはり古墳は上から見るのが一番です。
航空写真ではなく、絵による解説ではありますが、乙女山古墳の全容がよく理解できます。
乙女山古墳の被葬者は不明です。一説によれば、合戦の犠牲になった乙女が葬られているから「乙女山古墳」と言うのだとか、その名前の由来は「お留山」から来ているのだとか・・・古代の古墳にはありがちなことですが、乙女山古墳もご多分に漏れず諸説紛々としています。
後円部の埋葬施設は粘土槨ではないかと言われています。
3段構成の後円部は、1,2段目が低く緩やかに造られています。最上段の3段目は急斜面になっており、ちょうどお椀を伏せた形になっています。各段の斜面には葺石が確認されたようです。
馬見丘陵公園館とチューリップ。
公園館から北東方向に乙女山古墳はあります。
5世紀前半に築造されたとされる乙女山古墳。1956(昭和31)年には国の史跡に指定されています。
乙女山古墳に見られる「造り出し」は何の目的で作られたのでしょうか?
他の前方後円墳の造り出しと同じく、祭祀の場として使われていたのでしょうか。造り出しの正体は、納棺後の「追善供養における祭壇」であるという考え方が一般的です。被葬者を葬った後、墳丘に登ること自体が躊躇われたため、古墳に直接壇状の施設が取り付けられるようになりました。それこそが、造り出しではないかと言われています。
乙女山古墳の造り出し部分から出土した家形埴輪。
馬見丘陵公園館に展示されていました。この家形埴輪も、造り出しの謎を解く一つの鍵になるのかもしれませんね。
帆立貝式の乙女山古墳へアクセス
乙女山古墳への行き方をご案内致します。
一口に馬見丘陵公園内と言っても、敷地面積の広い公園内で乙女山古墳を見つけるのは少々大変です(笑)
乙女山古墳へ行くには、まずは中央エリアにある駐車場に車を停めましょう。公園館の前を通って北へ向かいます。菖蒲園とバラ園の間を東へ取って進みます。程なく整備された歩道が見えてきます。
所々にベンチの置かれた歩道が前方に見えてきました。
この歩道の左側が乙女山古墳です。
古墳を左手に見ながら、のんびりとした雰囲気の歩道が続きます。
チューリップの咲いている場所にはたくさんの人が居ましたが、さすがにこの辺りまで来ると人影もまばらです。
乙女山古墳の説明版。
乙女山古墳からは刀子(とうす)形、鎌形、紡錘車形、勾玉、臼玉(うすだま)の滑石製品、玉類、蓋形埴輪等々が出土しています。
「帆立貝式古墳」の文字が見えます。
短い前方部には、何か特別な意味が込められているのでしょうか。
ベンチに腰掛けると、乙女山古墳を背にし、下池の方向を望むことになります。池よりも小高い場所に古墳が築かれているため、このベンチに腰を下ろすと前方に広がる景色を楽しむことができます。
下池の手前まで下りてきました。
公園館と寺戸入口を案内する道標が立っていました。
下池を左に見ながら進んで行くと、何やらぷっくりと膨らむ木の実を発見致しました。馬見丘陵公園の園内マップを見てみると、ちょうどこの辺りはハナモモの丘に当たります。これはハナモモの実なのでしょうか?背景には乙女山古墳が広がります。
先ほどの家形埴輪の案内札に近付いてみます。
確かに「乙女山古墳出土品」と書かれています。
乙女山古墳を訪れたのはよく晴れた日でした。
抜けるような青空とのコントラストが実によく映えます。
こちらは、同じく馬見丘陵公園内にあるナガレ山古墳。
ナガレ山古墳は実際に墳丘に登ることもでき、古代の古墳を体感できる施設となっています。後で知ったのですが、乙女山古墳の中にも入ることができたようです。てっきり立ち入り禁止の古墳だと思っていたのですが、どうやら勘違いだったようです。次回訪れる機会があれば、是非墳丘にも登ってみようと思います。
ここを登って行けば、乙女山古墳へ辿り着きます。
馬見丘陵は奈良盆地の西に伸びる標高70~80mの小さな丘です。体感ではありますが、乙女山古墳もちょうどそのぐらいの標高に当たるのかもしれません。
菖蒲園へ続く下池橋。
チューリップの季節に訪れたこともあり、まだ菖蒲の花は咲いていませんでした。初夏には綺麗な花を咲かせ、多くのハイカーたちで賑わうことでしょう。
馬見丘陵公園の中には、帆立貝式古墳が3つあります。乙女山古墳と池上古墳、さらには三吉2号墳です。馬見古墳群まで範囲を広げれば、三吉石塚古墳なども範疇に入ります。
池上古墳は北エリアの前池近くにあり、乙女山古墳と同じく5世紀前半に築造された古墳です。規模は乙女山古墳よりも小さいですが、帆立貝式古墳に興味のある方は見学されることをおすすめします。