今里の蛇巻をご案内します。
磯城の里を案内する小冊子に、「今里の蛇巻き」と「鍵の蛇巻き」が紹介されていました。
この記事は2013年6月に投稿したものを再編集しています。
豊穣祈願のために行われる蛇巻きの行事。行事が催される6月の第一日曜日は既に過ぎていましたが、その名残は見ることができるだろうと田原本町界隈まで出掛けてみることにしました。
今里の蛇巻。
寺川の東側に鎮座する今里杵築神社に到着すると、さっそく今里の蛇巻きが出迎えてくれました。
頭屋が作る農具ミニ模型
蛇巻きの見られる場所は、寺川を水運として栄えた今里の浜のすぐ近くです。
今里と鍵の蛇巻き神事は、矢部地区の綱掛と共に豊作を呼ぶ子供たちの声で活気に満ち溢れます。
今里の蛇巻きは、水神の化身である蛇にまつわる伝統行事です。
稲作文化の根付く我が国においては大変貴重な神様とされます。
本来は5月5日、あるいは一カ月遅れの6月5日に行われていたようですが、現在は6月の第一日曜日に行われる祭事として定着しています。田植えの時期とも重なり、豊作を祈願する農耕儀礼として広く知れ渡るようになりました。
杵築神社境内の南にある榎の大木の下に、絵馬と小さな模型の農具が納められていました。
祭りの前日に当屋の方々によって作られた物でしょうか。
今里の蛇巻きの行われる当日には、これらを「どさん箱」と呼ばれる木箱に入れて練り歩きます。
牛と馬が描かれた奉納絵馬。
馬にしては随分ずんぐりした体形のようにも思えますが、たて髪が描かれていることから馬であることが確認できるのではないでしょうか。
絵馬の背後にはミニ農具が納められています。
地元の今里では、毎年3軒ずつ当屋(とうや)を務めて神事の世話をするそうです。
その年の当屋を「本当屋」、前年を「渡し」、翌年の当屋を「受け」と呼び、この3軒が中心となって祭りの前日に鍬や鋤、梯子などの農具のミニ模型を作る慣わしです。
榎の大木の上の方に目をやると、どうやら蛇の頭部らしきものが見えました。
頭を上にして巻き付けられることから、今里の蛇巻きは昇り龍と呼ばれています。これに対して、鍵の蛇巻きは降り龍なんだそうです。
道路側から今里の蛇巻きを撮影。
奈良盆地に古くから伝わる野神の祭り。今里エリアからも近い上品寺のシャカシャカまつり、石見の野神祭なども稲作の成功を祈願する農耕儀礼の一つとして知られます。
今里杵築神社。
この拝殿の向かって左側に榎の大木がそびえます。
天へ向かってグルグルと昇って行く蛇巻きを見ていると、昇龍の勢いそのままに、五穀豊穣の願いが叶えられるような気がしてきます。
ミニ農具や絵馬の入った「どさん箱」の後ろには、16,7歳の男子が十二束の麦藁で作った大きな龍(蛇)を抱えて練り歩きます。蛇体(じゃたい)と呼ばれる全長18mの蛇の姿は圧巻でしょうね。
今里の蛇巻きを初めて目にした時、桜井市の江包・大西のお綱祭りが頭をよぎりました。
お綱祭りも五穀豊穣と子孫繁栄を祈願する祭りとして知られています。
今里の蛇巻きは氏神である杵築神社境内から出発し、道中で出会う人々を蛇体に巻き込んだりしながら、その年に普請・婚礼・出産などの慶事のあった家々を回り、最後に野神である榎の大木に巻き付けます。
昇り龍の頭部は、その年のアキの方角に向けて巻き付けられます。
ミニ農具等を榎の大木の下に祀り、般若心経三巻を唱えて豊穣を祈願します。
今里の蛇巻きへのアクセスですが、国道24号線の鍵交差点を西へ向かい、南北に通る下ツ道(中街道)を北上して左へ曲がった所にあります。周辺には唐古・鍵遺跡、安養寺、鏡作神社などの観光名所が集まります。