元伊勢伝承地の姫皇子命神社

古事記編纂で知られる太安万侶ゆかりの多神社。

その東側に多神社の境外摂社・姫皇子命(ひめみこのみこと)神社が鎮座しています。

磯城郡田原本町秦庄にある奈良県立教育研究所に所要で出掛けた際、多神社に立ち寄ってみることにしました。数年ぶりの多神社参拝でしたが、多神社から古い町並みを東へ向かうと、姫皇子命神社という小さなお社がありました。

姫皇子命神社とブラシの木

姫皇子命神社に開花するブラシの木

拝殿向かって右側に面白い形の花が開花していました。

延喜式内社の姫皇子命神社
多神社から東300mほどの所にある姫皇子命神社。読み方はヒメミコノミコトで、多神社の御祭神・神八井耳命の娘神を祀ります。笠縫邑の伝承地でもあり、御祭神は天照大神の若魂とする説もあるようです。拝殿前のナガミヒナゲシ(長実雛芥子)。目にも鮮やか...

まるでブラシを思わせるようなその出で立ちにしばし見入ります。ブラシの木はその葉の形が槇に似ているところから、花槇(はなまき)とも呼ばれています。蒲桃(ふともも)科に属するオーストラリア原産の植物で、5月半ばから6月初旬にかけて花を咲かせるようです。

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太陽の道のライン上に鎮まる姫皇子命神社

北緯34度32分。

レイラインとも言われる太陽の道沿いに奈良県内の重要な寺社が点在しています。

長谷寺、大神神社、桧原神社、国津神社、箸墓古墳、多神社等々、数多くの寺社が太陽の道の上にずらりと揃います。多神社のほぼ真東に鎮座している姫皇子命神社も、大神神社の御神体であり、太陽の象徴でもあった三輪山を意識しているのは明らかです。それにしても、十一面観音で有名な大和国長谷寺も北緯34度32分に位置しているとは驚きです。

姫皇子命神社

姫皇子命神社の社号標。

拝殿右後方に見えているのは多神社の社叢です。

御祭神の姫皇子命は、多神社に祀られる神八井耳命(かむやいみみのみこと)の四皇子神の内の姫皇子で、天照大神若魂(あまてらすおおみかみわかみたま)とされます。

姫皇子命神社

鳥居手前に案内板が立っていました。

以下に抜粋させて頂きます。

延喜式内社 旧城下郡 多 姫皇子命神社
旧村社 祭神 多姫皇子命
多坐彌志理都比古神社の摂社で、「大和志」十市郡新廟の項に「姫皇子命神社 在ニ多社東一今称ニ鎮守」と比定され、延長五年(927)成立の延喜式神名帳に記載された古社である。
神名帳十市郡大社の四皇子神の一「姫皇子命神社」とされ、「大和志」に俗に鎮守と称し、現在大字多の氏神である。
「五郡神社記」は本社二座と四皇子神を意富(おう)六所神社ともいった。

多神社には五社の境外摂社が存在しており、その内の四社が「延喜式神名帳」において式内小社に比定されています。

多神社の周りに散在する境外摂社。

多神社の東方に若宮の姫皇子命神社が鎮座し、南方左手には小社神社、右手に皇子神命神社が鎮まります。さらに西方には屋就神命神社が鎮座し、西南方向の橿原市飯高に祀られる子部神社二座も多神社の若宮とされます。

姫皇子命神社

姫皇子命神社からさらに東へ行くと、小さな祠が二つ並んでいました。

姫皇子命神社の境内社のようです。

姫皇子命神社の鳥居

再び姫皇子命神社の境内へと入ります。

日の出を仰ぎ尊び、日の入りに感謝する。此処は古来、綿々と受け継がれてきた太陽信仰の名残りの感じられる場所です。

かつて神社の北方には、元伊勢の笠縫邑跡がありました。この辺りはその昔、天照大神を崇め奉る巫女の集落だったと伝えられます。後に三輪山の麓の檜原神社、小夫の天神社へと笠縫邑は移り、最終地である伊勢神宮へと移行していきます。

姫皇子命神社とブラシの木

白いブラシの木もあるようですね。

拝殿手前に白のブラシの木、その奥に赤いブラシの木が開花しています。

ブラシの木

ブラシの木の学名をCallistemon(カリステモン)と言います。

カリステモンとは、ギリシャ語の「kallos(美しい)+ stemon(雄しべ)」 を語源としています。それにしても、見れば見るほどコップの汚れを取りたくなるのは私だけでしょうか(笑)

姫皇子命神社拝殿

小さな境内ではありますが、多神社を背後に控え、その神性の高さが伺えます。

元伊勢の伝承地

太陽の光を浴びて、益々輝きを放つ姫皇子命神社の拝殿です。

姫皇子命神社

拝殿の奥には本殿があったようなのですが、残念ながらスルーしてしまいました。

4月の第3日曜日になると、多神社では多れんぞ(大連座)と呼ばれる祭礼が執り行われます。五穀豊穣を祈願するレンゾ祭りなのですが、旧暦で言えばちょうど春分の頃に当たります。太陽が真東から昇り、真西に沈む太陽の軌道。春分や秋分の日になると、元伊勢の檜原神社境内は、二上山に沈む夕日を鳥居越しに撮影するカメラ愛好家たちで賑わいます。

その遥か西のライン上に、姫皇子命神社も鎮座しています。

ブラシの木

ブラシノキの花言葉は、「儚い恋」「恋の火」「恋の炎」。

なるほど、その見た目からも赤く燃え上がる炎を連想させます。姫皇子命神社のキーワードである「太陽」にも通じるものを感じますね。

ブラシの木

英名を Bottlebrush と言うようです。

どうやら欧米系の人たちにとっても、頭の中でイメージするものは同じのようですね。

姫皇子命神社とブラシの木

多神社をはじめ、その他の摂社は全て南向きに建てられていますが、姫皇子命神社だけは東を向いています。

その先には三輪山。

神の山と仰がれる、大和最大の聖地でもあります。

崇神天皇の御代、宮中を出た天照大神が最初に祀られた笠縫邑こそが、ここ姫皇子命神社ではないかとする説もあります。姫皇子命神社の北方に位置する鏡作神社との関連も興味深いところです。

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