奈良公園の白鹿「白ちゃん」@奈良の鹿愛護会

子鹿公開中の鹿苑で子鹿を見学し、奈良の鹿愛護会の事務所を訪れました。

そこで目に飛び込んで来たのが、白鹿の剥製です。

白ちゃん

奈良公園の伝説にもなっている白鹿の白ちゃん。

ふさふさの白毛を頭上に頂き、どこか悲しげな目をこちらに向けています。鹿の剥製は奈良公園内のお店でもよく見かけます。見慣れていたつもりだったのですが、普通の鹿とは明らかに違う容姿に釘付けになります。

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交通事故で生涯を閉じた悲運の白鹿

突然変異なのか、奈良公園でも稀に白鹿が誕生すると言います。

メラニン色素が欠乏する遺伝子疾患(アルビノ)が原因と思われる白鹿ですが、その希少性故に神性を帯びた鹿として尊重されてきました。人間から見れば ”より神に近い鹿” なのかもしれませんが、鹿の世界では異質なものと映るようです。そのため、鹿仲間からは仲間外れにされることも度々で、野生の環境で生きて行くのは難しいようです。

白ちゃんと子鹿

在りし日の白ちゃんと子鹿。

この子鹿が白ちゃんが生んだという子鹿なのかもしれませんね。

普通の雌鹿は3才頃に初産を迎え、以降は毎年一頭ずつ生んでいくようです。しかしながら、白ちゃんの初産はなんと9才の時でした。しかも、後にも先にも子供を産んだのはこの時だけだったと言います。

白ちゃんの解説パネル

白ちゃんの解説パネルが掲げられていました。

頭の中央に冠状の白毛をつけたメスジカで「白ちゃん」の愛称で親しまれていました。

1954年(昭和29年)8月20日に誕生、9才の時にただ一度だけ出産しましたが、その仔ジカを交通事故で亡くし、また「白ちゃん」も1972年(昭和47年)7月11日に交通事故で18才の生涯を終えました。

母子共に交通事故で命を落としていたんですね。

なんとも悲しいお話ではないでしょうか。奈良の鹿愛護会の活動の一環には、鹿の交通事故防止があります。毎年数多くの鹿たちが交通事故で命を落としている現状に目を向けなければなりません。記録によれば、2015年度の総交通事故発生件数は145件で、その内93頭が尊い命を失っています。

奈良の鹿愛護会事務所

奈良の鹿愛護会の事務所。

奈良の鹿は神鹿と仰がれ、国の天然記念物でもあります。

そんな鹿を万一車で引いてしまったら気が動転してしまうのも分かるような気が致します。しかしながら、無闇に罰金を徴収されるわけでもないようですので、まずは愛護会に連絡して少しでも助かる命は助けるのが先決です。そのまま放っておいては致命傷にもなりかねません。

吉事の前兆と「著(しろ)し」という言葉

古来より白鹿や白猪は神の化身とされました。

白い聖獣は清浄と神性のシンボルでもあったのです。奈良時代以降、白い生物が出現すると吉事の前兆と受け止められました。古事記や日本書紀などにも、白雉、白鷹、白狐、白亀、白鼠などの記述が見られます。

鹿苑の鹿

出産時期の母子鹿や傷ついた鹿を保護する鹿苑

古語辞典を紐解けば、「白し」は「著し(しろし)」に通じるとも書かれています。古代人たちははっきりして明るい様子を「著し(しろし)」と表現していたようです。際立って目に付く、他のどの色よりも目立つ色が白だったのかもしれません。

白は特別な色です。

現代社会でも純潔をイメージさせる白は婚礼衣裳などでもおなじみの色です。春日大社の御祭神も白鹿に乗ってやって来たと言い伝えられます。吉事の前触れであるはずの白鹿だったのですが、こと現実の世界においてはそう上手くはいかないようです。

奈良の鹿ビデオ鑑賞

愛護会事務所のビデオ鑑賞ルーム。

奈良の鹿に関するビデオが放映されていました。この部屋の片隅に掲げられているのが・・・

白ちゃんの剥製

白ちゃんの剥製です。

生来は穏やかな性格の白ちゃんでしたが、子鹿を亡くしてからというもの、近づいて来る人に前足を上げて攻撃するようになったと言われます。親子の絆を引き裂かれた白ちゃん・・・その心の傷はいかばかりのものだったのでしょうか。

白ちゃんの白黒写真

白ちゃんの白黒写真。

冠のような白毛が実に印象的です。こんな姿をした白鹿が、かつて奈良公園で生活していたとは思ってもみませんでした。

実は白ちゃんのお母さんも悲しい死に方をしているそうです。

お腹の中にあった、石のように固まったビニール袋が原因で命を落としています。防ぎようはなかったのか?人間の不注意によってこの世を去る鹿たち。その悲しい連鎖を白ちゃんを中心とする三世代に見ることができます。

鹿の胃の中から出てきたゴミ

鹿の胃の中から出てきたゴミ。

鹿苑のパネル展示コーナーに展示されていました。

こんなにたくさんのゴミを食べてしまっていたのですね・・・奈良公園は言わずと知れた観光地です。日本のみならず、世界中から多くの観光客が押し寄せる場所なのです。そこで生活する鹿たちへの配慮を決して忘れてはなりません。

足を失くした鹿

こちらは交通事故で足を失くした鹿ですね。

実に痛々しい写真です。

改めて肝に銘じなければなりません。

「奈良のシカ」交通事故多発地帯マップ

2015年版「奈良のシカ」交通事故多発地帯マップ。

私自身も車でよく通る道がワースト1位になっています。これはショックですね、他人ごとではありません。

春日大社一の鳥居前を含む県庁東交差点~福智院交差点の範囲が特に危険地帯のようです。ワースト2位が県庁前に当たる県庁東交差点~東向交差点と案内されていますが、概ねどこも観光客や車が行き交う賑やかなエリアであることが分かります。

愛護会の方にお伺いしたところ、時間帯としてはやはり夕暮れ時が一番多いようです。一般的に交通事故の多い時間帯ですが、鹿たちがねぐらへ帰る時間帯とも重なるようです。一頭が道路を横断し終えて安心してはいけません!次々と立て続けに横断する可能性があるのです。

白ちゃんの剥製

悲しいかな、白ちゃん自身も交通事故で亡くなっています。

鹿のおやつである鹿せんべいを与える場所にも注意が必要ですね。道路近くで鹿せんべいを与えてはいけないそうです。鹿せんべいをもらうために必死で道路を渡ろうとする鹿がいるのだとか・・・これは大きな盲点ではないでしょうか。

そうは言っても、道路近くに鹿せんべいの販売所が存在します。観光客が鹿せんべいを購入するや否や、待ち伏せしていた鹿たちが観光客に押し寄せるといったシーンをよく見かけます。鹿せんべいの販売場所に関しては、もう少し再考の余地があるのではないかなと思います。

奈良公園の白鹿

真っ白に漂白されたような白鹿。

実に鮮やかなホワイトですね、こんなにはっきりした白鹿が実在していたのでしょうか。白ちゃんの体色はどちらかと言えばオフホワイトですが、この写真の白鹿は明らかにホワイトです。

奈良公園の白鹿

こちらは鹿苑での風景でしょうか。

白鹿を産み落としたお母さん鹿も、最初はやはり驚くんでしょうね。でも、そんな思いを抱くのもほんのわずかなのでしょう。自分がお腹を痛めて産んだ子は、何ものにも代えがたい宝物であるはずです。

鹿苑の白鹿

今年度の子鹿公開中の鹿苑で、やや体色の白い鹿を見つけました。

手前のお腹の大きい鹿と比べてみると一目瞭然です。白鹿と呼ぶには大袈裟なのかもしれませんが、ちょっと気になるところではあります。

白ちゃんの剥製

またいつか、白ちゃんのような鹿が生まれてくるのかもしれません。

今度こそは「吉事の前兆」となるように、私たち人間の側で準備できることはあるはずです。白鹿誕生は神のみぞ知る匙加減に委ねられています。神様の使いである鹿と人間の関係が良好な時に、また新たな白鹿がこの世に解き放たれるのかもしれませんね。

シカの白ちゃん
シカの白ちゃん