残りえびすの2月7日、湯立神楽(ゆたてかぐら)を見学するために三輪坐恵比須神社に足を運びました(2013年度)。
立ち込める湯気の中で執り行われる神事に、思わず息をのみました。
神がかりを感じさせる湯立巫女。
楚々とした綺麗な巫女さんが、笹の葉を手にお湯を振り撒きます。御湯(みゆ)の神事とも呼ばれる伝統行事ですが、間近で見るのは今回が初めてでした。
湯煙に包まれる巫女!無病息災のご利益に授かる神事
初体験の湯立神楽を前に、その鬼気迫るド迫力に圧倒されました!
鯛引き行列のタイ。
向こうに福娘の姿が見えますね。
宵えびすの2月5日に、恵比須神社の周辺を子供たちが鯛を引いて練り歩きました。六日市とも呼ばれる2月6日の本えびすを経て迎えた最終日の2月7日。残り福に授かる7日には、湯立神楽の他にも、真剣による居合を披露する柳生新陰流奉納演武、景気太鼓、ごくまき等が行われます。
凛とした美しいパフォーマンスが繰り広げられます。
パフォーマンスなどと言ったら失礼になるのかもしれませんが、そう感じさせるほどの凛々しいお姿を拝見致しました。湯立神楽のお湯に掛かれば、無病息災のご利益があるとも言われます。動きにも無駄が無く、研ぎ澄まされた表情も手伝ってか、益々御湯の神事に引き込まれていく自分に気付きます。
湯立神楽を前に、お湯が焚かれる釜。
拝殿前に合計八つの釜が二列に並びます。
湯立(ゆだ)てとは、神前で湯気を立ち込めさせて行う占いの一種であり、昔は「問い湯」という言葉で表現されていました。巫女を神がかりの状態にさせ、託宣をうかがう神事として知られます。三輪坐恵比須神社には言葉を授け、インスピレーションを与える神様が鎮まります。神意を問う湯立てには、この上なくお似合いの神社ではないでしょうか。
いよいよ湯立神楽が始まります。
厳かな儀式の始まりに、拝殿前が緊張感に包まれます。
湯立神楽に使われる道具。
左から塩、米、お酒が中に入っているのでしょうか。
巫女さんの「巫」という漢字に興味を覚えて調べたことがあります。
「人」と「人」の間にある「工」という字には、神を呼び降ろす呪具という意味合いがあります。神事に用いられる呪具を表す「工」。神様と人の間に立って、神様からのメッセージを伝える役目を担うとされる巫女さん。道具を通して神との接触を図る。そんな構図が頭の中に浮かびます。
湯立神楽を前に、本殿に向かって祈りが捧げられます。
「巫」の音読みは「フ」で、訓読みは「かんなぎ」となります。
神和ぎ(かんなぎ)とは神に仕えて神楽を奏し、神意を慰め、神降ろしをする人のことを意味します。
塩、米、酒を煮えたぎるお湯の中に入れていく巫女さん。
これらの食材はやはり神饌なのでしょうか。
神酒を注ぎ入れる巫女さん。
神を呼び降ろす呪具を意味する「工」ですが、私たちが普段何気なく使っている「左」という漢字にも「工」の字が含まれています。
一説によれば、「工」を左手に持つから「左」なんだとも言われています。そう言われてみれば、湯立神楽の導入部分で、紙垂の付いた棒のようなものを左手に重心を置いてお持ちになられていますね。
その「工」を左右の手で奉じ仕えるのが「巫」、左右を重ねて神の所在を尋ねるのが「尋」だと言います。
そこで、気になるのが「右」という漢字。
「右」に含まれている「口」には、これまた神事に使われる重要な意味合いがあります。
「口」は神への祈りの文(ふみ)である祝詞を入れる容器だというのです。蓋の付いた器、それが「口」だと言われています。確かに二画目の横棒によって、器に蓋をする形を表しています。
「工」と「口」が横に並んで、神の所在を尋ねる「尋」になるのでしょうか。
何とも意味深な漢字の成り立ちに触れたような気が致します。
塩、米、酒を入れた後、笹の葉でお湯を振り撒く前に、どうやら最後にお湯の中を混ぜでいらっしゃるようです。それぞれの行為にも意味がありますが、ここでは省略致します。
笹の葉が登場すると、にわかに参拝客の方々がカメラを用意し始めます。
まだまだ肌寒い節分明けの境内に、”舞台のスモークマシン” を思わせる湯気が立ち込めます。
いよいよ舞台は整いました。
古代史の中で輝きを放つ邪馬台国の女王卑弥呼も、神がかりをするシャーマンだったと言われています。巫女さんの決意にも似た表情を拝見し、なぜか卑弥呼のことが頭をよぎります。
四方に向き直りながら、巫女さんの神事は続きます。
巫女さんの掛けて下さった有り難いお湯に感謝しながら、シャッターを切り続けます。
お湯が撒かれた直後は、目の前が真っ白になります。
何も見えない、そこがまた霊気の漂いを感じさせます。
両手を広げて、立ち止まります。
飛翔を思わせるポーズに、神聖な鳥の姿が重なります。
古代の絵画土器には鳥の格好をした巫女がよく描かれていますが、その絵柄を思わせる立ち姿です。恵比須神社の鳥居を背に、聖なる鳥になって神意を問います。
全てが終わり、薄い布を羽織って退場する湯立巫女さん。
まるで天女のように立ち去るシーンも格別です。たくさんのお湯を掛けて頂き、歴史に残る見事な神事を見学することができました。
湯立神楽の後に、釜の中に残されたお湯が参拝客に振る舞われました。
振る舞い酒ならぬ、振る舞い湯といったところでしょうか。ほんのり塩味、そしてちょっぴりお酒の味がしてとても美味しかったです。釜の周りは水浸し状態でしたが、神様が今までここに居た。なぜか理由もなくそんな気が致しました。
御湯の神事が終わり、釜の中を確認してみました。
固形物が見えていますが、神事の中で使われたお米だと思われます。
灯台もと暗しなのか、地元に住んでいながら初めて見学した恵比須神社の湯立神楽。実に素晴らしい伝統行事です。奈良に来られる観光客の方にも是非おすすめしたいと思います。