枕詞の春柳(はるやなぎ)は「葛城山」に掛かります。
昔の人は、新緑の美しい春の柳を折って鬘(かづら)にする習慣がありました。
上代、草や木の枝を髪飾りとして利用していたわけですが、その鬘(かづら)と同音の葛城(かづらき)山が重なり合います。
奈良県葛城市の新庄駅近くに鎮座する柿本神社。
その拝殿左手奥に万葉歌碑が建っていました。
柿本人麻呂の万葉歌
万葉歌人の柿本人麻呂が祀られる柿本神社。
人麻呂ゆかりの地といえば、天理市櫟本の歌塚や、橿原市の近鉄大和八木駅近くの人麿神社を思い起こしますが、ここ葛城市内にも人麻呂の足跡を色濃く残すお社が鎮まります。
柿本神社境内の万葉歌碑をご案内致します。
春柳 葛城山に 立つ雲の 立ちても居ても 妹をしぞ思ふ
歌の解釈はこんな感じです。
葛城山に立つ雲のように、立っても坐っても、ひっきりなしに愛しいあの人のことばかり思っているよ。
古語における葛(かづら)はつる草の総称です。髪飾りや呪術にも使われていた葛(かづら)。まるで蔓草(つるくさ)のように、意中の人への想いを断ち切れないでいる様子が見て取れます。
万葉歌碑の傍には歌塚もありました。
右手前にはタケノコも生えています(笑)
影現寺(ようげんじ)のお堂の傍には、柿本人麻呂公民館がありました。
表札にコミュニティセンターと書かれていましたので、地域の方々の交流に利用されているものと思われます。
「影現寺」という名前にも心惹かれるものがあります。
木造人麻呂像が安置される影現寺。
影現寺は ”柿本人麻呂の御影堂” に例えることができるのかもしれませんね。唐招提寺の御影堂には鑑真和上像が安置されています。まるで生き写しのような鑑真和上像は、私たちにあたかも現し人(うつしびと)であるかのような錯覚を起こさせます。
影現寺の木造人麻呂像は、夜になるとはめ込み式の首が月の出る方向を向くと伝えられます。夢か現(うつつ)か、その境目が分からなくなるような神さびた雰囲気が柿本神社には漂います。