餞(はなむけ)の語源を解説致します。
旅立つ人の馬の口を取って、旅立つ方向に向けてやったことから、旅立つ人や別れる人に贈る品物・詩歌の類を餞(はなむけ)・餞別(せんべつ)と言いました。お見送りの際の「馬の鼻向け」がはなむけの語源とされます。
馬の餞(はなむけ)。
毎年4月に催される大神神社の若宮神幸祭。
時代行列が街中を歩いた後、三輪坐恵比須神社へと入って行きます。その間、若宮神幸祭の馬たちは恵比須神社隣の三輪公園で休憩を取ります。そして、その休憩が終わると、再び大神神社を目指すことになります。「はなむけの語源」に特に関係するわけではありませんが(笑)、昔のはなむけの様子を切り取った写真を入手することは不可能ですので、こちらの写真で今回はご案内致します。
苦労が予想される旅立ち
馬の鼻を進行方向に向ける「鼻向け」。
一種のオリエンテーション(Orientation)と言えなくもありませんね。東の語源の記事でもご案内致しましたが、遠い昔、太陽が昇る東の方角を向くことはスタンディングポジションでもありました。馬のはなむけほどの決意は必要ありませんが、目標を定める際の立ち位置として、会社などで行われている現在のオリエンテーションにも通じています。
馬の餞(はなむけ)は東のみならず、北、南、西の方角にも向けられたものと思われますが、オリエンテーションと違って、そこには悲壮な決意と別れが付き物でした。
恵比須神社の玉垣前で馬から降りる神職。
昔の旅は今の旅とは比べものにならないほど、苦しくて大変なものでした。
英語のトラベル(travel)が、苦しみを語源にしていることからもそのことがうかがえます。苦労や骨折りのことを、英語で travail と言います。travel と travail が同系語であることをここに記しておきます。馬の鼻を進行方向に向ける旅立ちの際、見送る側も見送られる側も今生の別れを覚悟していたのではないでしょうか。
三輪公園で草を食む馬。
餞(はなむけ)は花を手向けるから「はなむけ」ではないのです。
間違えやすい言葉ではありますが、”馬の鼻向け” に由来していることを覚えておきましょう。
大和言葉というのは面白いものです。「花」も「鼻」も、言葉の起源としては同じ根っこを持っています。大和言葉では、著しく目立つものを「はな」と表現しました。自然界に咲く花は、その華やかさから目立ちます。顔の真ん中で高くそびえる鼻は、もうただそれだけで目立ちますよね。「端(はな)から調子を上げる」などの端(はな)もルーツは同じです。
日本のコメディアンに「ハナ肇(はじめ)」さんという方がいらっしゃいました。ハナ肇とクレージーキャッツはジャズバンドとしても名を馳せましたが、ハナ肇という芸名は実に縁起が良さそうです(笑) 吉相と思しき大きな鼻をしておられましたが、その鼻に由来する「ハナ肇」だったのでしょうか。
大神神社の結婚披露宴会場「料理旅館大正楼」。
結婚式のスピーチで頭を悩ましておられる方も多いことでしょう。そんな時に、まずは基本に立ち返って「はなむけの由来」から切り出してみるのもいいのではないでしょうか。苦難も待ち受けているであろう二人の結婚生活は、旅立ちの際のはなむけにぴったり合致しています。
最初から最後まで華やかな結婚生活をエンジョイできるわけではありません。
とは言っても、まずは端からつまずくことのないように、心のこもったメッセージを贈ってあげたいものです。