正暦寺の福寿院客殿。
江戸時代初期に再建された本堂の木鼻(きばな)が展示されていました。
木鼻にも色んな種類がありますが、動物の象を象った象鼻(ぞうばな)と呼ばれる建築意匠です。
かつての正暦寺本堂にあった象鼻。
渦巻紋様から牙が伸び、眉毛のような装飾も見られますね。
社寺建築の木鼻とは、柱を貫通する頭貫(かしらぬき)・肘木・虹梁(こうりょう)から突き出た部分を言います。色んなデザインがあり、象鼻の他にも獏鼻(ばくばな)、拳鼻(こぶしばな)などが知られています。
端っこを飾るデザイン!部品としての掛鼻
旧正暦寺本堂の象鼻は、どうやらパーツの分かれた掛鼻(かけはな)のようです。
一本の柱(横材)の端を彫ったものではなく、独立した部品として横材に固定された木鼻です。いずれにせよ、横長の木の端っこを飾る装飾です。横材の両端にくっ付けたものであることは、接合部分を見れば明らかです。
こんな感じ。
お互いに背を向ける格好で、旧本堂の軒下に一対で飾られていました。
木鼻でいつも思い出すのが、「はな」という音の世界です。
人の顔にも付いている”鼻”と、植物の”花”は同じ語源を持つと言います。象の鼻などは顕著ですが、顔の一番先っちょに付いています。植物の花も一番上の方、先っちょに付きます。「端(はな)から」「初っ端(しょっぱな)」など、物事の初めを意味する言葉にも”はな”が付きます。
そして、この象鼻も横材の突き出た部分、つまり端っこを飾ります。”はな”を飾る意匠は、その位置からもよく目立っています。
現在の正暦寺本堂。
軒下には蟇股や木鼻の意匠が施されます。
少し話は逸れますが、韓国語で「ひとつ、ふたつ、みっつ」は「ハナ、トゥル、セッ」と言うようです。一番最初の数字1に当たるのがハナなのです。大陸とのつながりからも、偶然とは思えません。
かつての正暦寺の寺域を示す絵図。
宗教都市「菩提山」の中で福寿院だけが残りました・・・そう記されています。長い年月を経て、今も残る象鼻は貴重ですね。
正暦寺の福寿院客殿。
借景庭園や孔雀明王像を拝観することができます。
象鼻の解説文。
かつての本堂は、天保6年(1836)に焼失しているようです。
焼失を免れた象鼻。
少し朽ちてしまっているのでしょうか、接合部分が痛々しく思えます。
三重塔、薬師堂、経蔵などが描かれています。
山全体に広がる堂宇から、かつての正暦寺の寺勢を感じます。
本物の象の鼻はもっと長いかもしれません。
少しデフォルメされているのでしょう。
今は動物園に行けば、巨大な象を見ることができます。しかし、昔の人はどうだったのでしょうか。そうやすやすと実物を目にすることはなかったかもしれません。もちろん、テレビも無い時代ですからまだ見ぬものへの畏怖の念は少なからずあったはずです。
象と言えば鼻。
端っこを飾るには、この上ない素材だと思います。