近代陶芸の巨匠・富本憲吉の企画展が奈良県立美術館に於いて開催中です。
「憧れのうぶすな」と題する今回の企画展示。
産土(うぶすな)とは、生まれた土地のことを意味します。生まれた土地の守護神のことを産土神(うぶすながみ)と言ったりしますが、人は誰しも「うぶすな」を持ち合わせています。多かれ少なかれ「うぶすな」から影響を受けているのが私たちですよね。
企画展~生誕130年~富本憲吉「憧れのうぶすな」。
開催期間は8月5日(金)から9月25日(日)までとなっています。入館料は一般大人400円ですが、65歳以上の高齢者は無料観覧することができます。奈良県立美術館1階のギャラリーでは、同時開催として安堵町による連携展示(観覧無料)も行われていました。
テイカカズラ文様の風呂敷を記念購入
1階ギャラリー手前のミュージアムショップにて、今回も記念品を購入致しました。
前回の影絵展示では、三輪山のポストカードを購入しましたが、今回は少しグレードアップして風呂敷にしてみました。美術館で鑑賞した ”そのままの感動” を手元に収めます。
テイカカズラ文様の風呂敷。
家に帰って来て、中庭を背景に撮影(笑)
本来は五弁花のテイカカズラですが、富本憲吉の独創によって四弁花の連続模様が生み出されています。
「模様より模様を造るべからず」
安易な模倣を戒めた富本憲吉の言葉として伝わります。様々な創作模様を造り出した彼は、自然の中の模様にもオリジナリティを求めました。その代表的なものがテイカカズラをモチーフとした四弁花(しべんか)模様であり、羊歯(しだ)の葉を菱形に収めた羊歯模様だと言われます。
テイカカズラ文様の風呂敷に入っていた説明書。
安堵町出身で近代陶芸の巨匠文化勲章受章 人間国宝第一号の富本憲吉先生が 本来五弁花である町の花「テイカカズラ」を四弁花に抽象図案化した文様の風呂敷です 奈良県安堵町
人間国宝第一号という輝かしい称号が紹介されていますね。
お値段880円で購入したテイカカズラ文様の風呂敷。
安堵町の花に指定されるテイカカズラですが、漢字に直せば「定家葛」となります。
まるで風車のように花びらが交差する珍しい花です。テイカカズラと言っても、あまりピンとこない方もいらっしゃるのではないでしょうか。富本憲吉の独創的なデザインを生み出した花ですが、広辞苑の解説をここに引用しておきます。
キョウチクトウ科の常緑木質藤本。我が国の山地にごく普通。気根で他の樹木や岩石にはい上がる。葉は小さく革質で光沢あり、若い葉には普通白斑がある。初夏、芳香ある白色の合弁花をつけ、花冠は五裂。花後、円筒状の袋果を結び、成熟後開裂して有毛の種子を飛ばす。観賞用として栽培。古名まさきのかずら。
自然の中からヒントを見つけ、オリジナルデザインを生み出した富本憲吉。
あくまでもそっくりそのまま真似るのではなく、少しデフォルメされて新たな模様が生み出されています。
オリジナルしおり作成体験@奈良県立美術館1階休憩室
富本憲吉の独創的なデザイン。
今回のイベントで出会った二つの模様を、真っ白なしおりにスタンピングする体験コーナーが用意されていました。場所は奈良県立美術館の入口を入ってすぐ右手の休憩室です。自動販売機も置かれており、普段は美術鑑賞の後に一息つくコーナーです。
奈良県立美術館の外観と大看板。
四弁花模様と羊歯模様の磁器が道行く人の視線を集めていました。
県立美術館のすぐ西側には奈良県文化会館があります。コンサートなども開かれる会場で、この日も大勢の人が集っていました。
オリジナルしおりを作成すると、このような冊子がもらえます。
15ページにわたる小冊子で、出品リストなども網羅されており、今回の企画展をおさらいするにはこれ以上にない授与品です。皆さんも是非、しおりの体験イベントに参加してみて下さい。
『磁器 色絵紫四弁花 角飾筥』
1958(昭和33)年 文化庁蔵の作品です。
富本自身は「能登産の特別なマンガンで、花に濃淡二色の紫を用いて成功した例」と語っているそうです。
オリジナルしおり。
スタンプのデザインは、四弁花と羊歯の二種類でした。サイズは何種類か用意されていますので、好きな大きさのスタンプを好きな場所に押印していきます。押し終わったらウェットティッシュでインクを拭き取るようにしましょう。もう何度も使われているためか、ちょっぴりインクの色が濁っていました(笑)
最後に日付けも押印して、県立美術館の来館記念とします。
こちらは、『磁器 赤地金銀彩羊歯模様 蓋付飾壺』。
磁器に金と銀を同時に焼き付ける金銀彩(きんぎんさい)は、富本憲吉が編み出した技法として知られます。
磁器の地に、金や銀を直接焼き付けることは難しいそうです。そこで、富本はまず赤絵の具で模様を描いて焼き付け、その上をぴったりなぞるように金銀を乗せて、もう一度焼き付けるという方法を取りました。
奈良県立美術館2階の序章エリア。
羊歯模様の磁器が展示されていますね。
館内の写真撮影は許可制で、遠目からであればOKのようです。
富本憲吉は陶芸の道に入る前から、文字そのものを模様として捉える目を養っていたようです。いわゆる Signature みたいなものでしょうか。文字に曲線美を加え、全体として一つのデザインになるように工夫されています。
第1展示室の入口付近に展示されていた 『磁器 色絵四弁花更紗模様 六角飾筥』。
放射状に広がる四弁花模様は、見ているだけで躍動感が伝わって参ります。
バリエーション豊富に色付けされ、その用途の広さを思わせます。
この作品は最も目を引いたものの一つです。見方によっては蝶々が飛んでいるようにも見えてきますね。
館内にはガイドの方が常駐なさっていますので、ご興味をお持ちの方は色々聞いてみるといいかもしれません。
ガイドの方の言葉に導かれるように、また新たな世界が広がっていくのではないでしょうか。
竹林月夜模様。
四弁花や羊歯の他にも、富本憲吉が好んで用いた題材があります。この竹林月夜模様(ちくりんげつやもよう)もその内の一つだと言われます。竹林に囲まれた倉の上空に、雲がたなびき月が輝いている・・・そんな夜の風景が描かれています。
親友のバーナード・リーチと共に写生したという思い出深い風景です。
大正5年(1916)頃の風景描写で、安堵村にあった富本の仕事場から東へ200~300m離れた辺りの風景なんだそうです。この竹林月夜模様も毎回同じデザインというわけではなく、何度も描かれる内に少しずつ変化していく様子が見て取れます。柔軟性に富んだ富本憲吉の創作姿勢が感じられますね。
曲る道模様。
富本憲吉の故郷・安堵村の何気ない風景がモチーフになっています。何も特別なことはない、日常生活の中で出会うものの中に光を当てていく富本憲吉。想像を膨らませる Winding Road が大皿の中で広がりを見せています。
『磁器 色絵四弁花模様と大和川急雨模様 角瓶』
富本憲吉はよく大和川で釣りに興じていたと言われます。
釣りの最中に通り雨に遭い、物陰で雨宿りをする富本憲吉。雨にけむる風景を見て、また新たな着想を得ることになります。
うぶすなの郷TOMIMOTO 蘇る富本憲吉の家
かつて広島大仏で知られる極楽寺の近くにあった富本憲吉記念館。
すでに閉館してしまった記念館ですが、2017年1月に新たに『うぶすなの郷TOMIMOTO』としてオープンが予定されています。陶芸工房の他にも、富本憲吉の精神と陶芸の文化を肌で感じる古民家ホテル、大和野菜のレストランなども併設された複合施設が誕生します。
うぶすなの郷TOMIMOTOの案内チラシ。
富本憲吉が作品のモチーフとした「身近な自然」を感じさせる庭園も整備されるようです。
ご存知のように、安堵町は法隆寺や太子道にも程近い観光拠点です。うぶすなの郷TOMIMOTOに宿泊して、法隆寺を観光するという流れも定着しそうですね。
奈良県は観光地でありながら、宿泊施設数が全国一少ないことでも知られます。
意外に思われることも多いのですが、人気観光地の京都や大阪に近いことが一因にあるようです。京都、大阪どちらへも1時間ほどで移動が可能な奈良。昼間に奈良観光を楽しんで、夜になれば京都や大阪で宿泊するという流れが人気を呼んでいるようです。しかしながら安堵町もそすですが、奈良県内には数多くの観光スポットがあります。とても一日では回り切れないのが実情です。ゆっくり時間を取って奈良観光を楽しんで頂くためにも、奈良県内で宿泊する意味は決して小さくはないでしょう。
平たい箱に収納されたテイカカズラ文様の風呂敷。
開ける時は胸がときめくものですね。
入館する際に、アンケート用紙を手渡されました。
そこに割引引換券が付いています。利用期間内であれば、次回訪れる際は団体割引料金(一般大人300円)にて入館できるようです。
当館も桜井市内で宿泊施設を営んでいます。
昨今は外国人旅行客の増加に伴い、宿泊客の国籍にも幅が見られるようになりました。ここ1,2か月だけを見ても、ブルガリア、スウェーデン、ポーランド、カナダ、アメリカ合衆国、フランス、スペイン、中国、韓国、台湾等々と実に様々です。
まだまだ旅行の目的地は奈良市内が中心ですが、少しずつ桜井市内の観光スポットにも目を向けて頂けるようになって参りました。それこそ産土(うぶすな)ではありませんが、私の生まれ育った桜井市に興味を持って頂けるのは嬉しいことです。
館内には子供用解説シートが置かれていました。
”子供用” とは名ばかりで、大人でも十分に参考になる資料です。
手に取って鑑賞の手助けにされることをおすすめ致します。
家の形をした箸置きも展示されていました。
これ、何だかいいですね。思わず欲しくなってしまいました(笑)
富本憲吉のうぶすなである安堵町。
そこは富本にとって憧れの地でもありました。
人は誰しも、その心を故郷に発しています。憧れのうぶすなは人それぞれに、今もなお育まれ続けているのです。テイカカズラ文様の風呂敷を広げてみると、そこには果てしなく深遠な世界が広がっていました。
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