奈良の一年を締め括る伝統祭事として知られる春日若宮おん祭。
12月17日に催されたお渡り式を見学して参りました。
お渡り式第十番に登場した野太刀。
馬の行列が続いた後に、一際その異彩を放つ野太刀に釘付けになります。
野太刀に続く数槍!露店で賑わうお渡り式
場所はJR奈良駅から続く三条通り。
平安時代から江戸時代までの様々な時代装束を目の前で楽しむことができる春日若宮おん祭は、奈良を代表するイベントとして人気を集めています。
野太刀の前を行く将馬(いさせうま)。
時代行列の馬上には人の姿が見られたのですが、なぜかこの馬の背中にだけは誰も騎乗していません。その理由は、大和の大名家から神に献じられた馬を引いた名残にあると言われます。
神様に献上するために馬を引く。
純真無垢を表す白装束に、魔除けを感じさせる赤い飾り付け。かつては結婚式の引き出物にも馬が使われた歴史があります。神馬(しんめ)の存在にも、馬の重要性がうかがえますよね。
野太刀が春日大社一の鳥居へと向かいます。
鳥居をくぐれば、すぐ右側に影向の松(ようごうのまつ)が控えます。
頭屋児(とうやのちご)が見守る中、松の下式と呼ばれる儀礼的な所作が披露されます。お渡り式のメインの舞台と言ってもいいのではないでしょうか。一の鳥居前は国道169号線にも続いており、大変交通量の多い場所です。信号や横断歩道もあるのですが、交通整理に追われる警察官の姿があちこちに見られました。
それにしても大きな太刀です。
5.5mの長さを誇る野太刀の後には、中太刀・小太刀・薙刀・数槍(かずやり)が続き、第十一番の大和士(やまとざむらい)へとバトンが渡されます。
昔の武士たちは、馬上から長い刀身の野太刀を使ったそうですが、タイムマシーンにでも乗ってその迫力あるシーンを是非目の当たりにしてみたいものです。さすがに実際に使われた野太刀は5.5mもなかったものと思われますが、これだけ長ければ振り回す必要もなく、ただただ馬を走らせながら敵を討取っていったのではないでしょうか。
野太刀の若者が着る法被に、春日大社の神紋が見られます。
由緒ある下がり藤の紋ですね。
こちらは野太刀の前を行く馬長児(ばちょうのちご)の従者です。
笹竹を手にし、頭上には龍の飾り物が見られます。腰からは一足の木履がぶら下がります。
従者とはいえ、華やかな出で立ちをしていますね。
野太刀の後に続く中太刀、小太刀、薙刀、数槍の列。
普段は観光客の行き交う三条通ですが、この日ばかりは春日若宮おん祭の見物客で賑わいます。
お渡り式の行列は奈良県庁前広場を出発して、近鉄奈良駅、JR奈良駅、さらには三条通を通って春日大社のお旅所へと向かいます。お渡りのルートで言えば、ちょうどこの辺りは終盤ということになるでしょうか。
何年か前にも春日若宮おん祭を見物させてもらったことがありますが、その時に陣取った場所は県庁前でした。出発前の緊張感が伝わって来る場面でしたが、今回はその緊張も解きほぐれている頃ではないでしょうか。
春日大社大宿所でスタンバイする野太刀と数槍。
お渡り式当日の朝、餅飯殿商店街にある大宿所を訪れると野太刀が立て掛けられていました。
野太刀の隣に見えるのは数槍ですね。辞書で調べると、数槍とは ”大量に作られた粗製の槍” と解説されています。おん祭りの数槍が粗製の槍なのか否かはよく分かりませんが、野太刀に比べればやはり見劣りする感は否めませんね。
こちらが松の下式を通過する数槍です。
参勤の順番も野太刀の後ろを行きます。
野太刀に比べればインパクトに欠けますが、勇ましい姿であることに変わりはありません。
春日若宮おん祭の公式パンフレットにも ”お渡り式第十番「野太刀他」” と案内されており、きちんと名前の出ていないところが少し寂しい限りです。
お渡りの行列がお旅所へと入って行きます。
お渡り式の行き着く場所が、このお旅所です。春日大社参道の途中左手にあり、14時30分から御旅所祭が催されます。深夜の23時まで続くお祭りで、参道を挟んで向かいにある特別桟敷席で観覧することができます。
春日大社の摂社「若宮」の祭礼は、12月15日の大宿所詣から始まります。今思えば、餅飯殿商店街の大宿所に立て掛けられていた太刀こそが、野太刀だったことが分かります。
野太刀と数槍が仲良く立て掛けられています。
おん祭の風流行列の中でも、一際その偉観で見物客の目を釘付けにします。
猿沢池の周囲には露店が建ち並びます。
この光景を見ると、春日若宮おん祭が奈良市内を上げてのお祭りであることがうかがえます。平日にも関わらず、数多くの小中学生の姿が見られます。おん祭当日は小中学校も休校になるのかなと思って調べてみると、どうやら市内の公立小中学校は短縮授業のようです。
春日若宮おん祭のお渡り式当日は、奈良市民にとっては特別な日のようです。
影向の松の近くで松の下式を検分する頭屋児(とうやのちご)。
この後、児(ちご)たちによる流鏑馬も披露されます。児(ちご)たちのお母様方なのでしょうか、正装された御婦人方の姿もあちこちで拝見致しました。
勇ましい野太刀に可愛い児(ちご)、時代を感じさせる装束に神様の空気をまとった馬の行列が延々と続きます。春日若宮おん祭は1136年に始まり、毎年欠かすことなく開催されている伝統の祭事です。
遠方から見学に訪れる価値は十分にあるでしょう。