宇陀市榛原区笠間の高台にある御陵。
第97代後村上天皇の中宮・源顕子こと新陽明門院の陵を訪れました。
花山塚古墳を見学した後、県道198号線を榛原方面へ向かって歩きます。
実は嶽山古墳を見に行きたかったのですが、その途中にあった山稜に足を延ばすことになりました。後村上天皇は室町時代初めの天皇で、父親はかの有名な後醍醐天皇です。即位前は後醍醐天皇の命により、陸奥地方に派遣されていました。後醍醐天皇崩御後に即位した後村上天皇。その中宮に当たる人物を埋葬したのが笠間山稜とされます。
新陽明門院笠間山稜。
源顕子とは一体誰なのか?その出自が気になりますね。実は後村上天皇の補佐役であった南朝の重鎮・北畠親房の娘に当たる人物ではないかと言われています。
後醍醐政権の屋台骨として活躍した北畠親房ですが、南北朝時代の騒乱で敗色濃厚となり榛原福西の灌頂寺で没したと伝わります。あの室生寺にも伝・北畠親房の墓があるそうです。
景色良好!笠間山稜からの眺め
笠間山稜の眺望は見事に開けています。
その景色を楽しむために訪れてもいいぐらいです。遥か彼方の山々の連なりを眺めながら、ゆっくりと時間を過ごして参りました。
笠間山稜からの絶景。
家々と山並みが見事に調和しています。
長閑な風景ですね。こんな素敵な場所に葬られた新陽明門院も、きっと幸せに感じていることでしょう。
笠間山稜の制札(せいさつ)。
宮内庁による禁止事項が記されていました。
制札から一段高い場所に瑞垣が設けられています。
私の立っている場所には、安全を確保する囲いは何もありません。足元に注意しながら眺めを楽しむことにしましょう。
こんな感じに切り立っています。
90度にストンと落ちていますので、くれぐれもご用心を。
笠間山稜へ向かう参道。
その手前の石標に「陽雲二十一世・・・」と刻まれています。
この向かい側に、曹洞宗の陽雲禅寺(よううんぜんじ)というお寺がありました。
県道から北を望みます。
わずかに笠間山稜の鳥居が見えていますね。
ここは笠間(かさま)。
谷間(たにあい)の村落によく見られる「笠間」という地名ですが、実際に旧室生村にも大字上・下笠間があります。
笠間山稜への石段。
集落の間を抜けて坂道を上がって行くと、左手に山稜へと続く階段がありました。周辺に駐車場は見当たりません。徒歩で向かわれることをおすすめします。
陽雲禅寺の伝如意輪観音
笠間山稜へ足を向けると、期せずして静かなお寺にも出くわしました。
禅寺のようですが、境内はとても小さく、仏像を安置しているであろうお堂が建っていました。
石段を登ると右手に現れるお寺。
「曹洞宗 鳳凰山 陽雲禅寺」と書かれた寺号標です。
小さな山門の手前には案内板がありました。
奈良県指定文化財 陽雲寺 木造菩薩坐像(伝如意輪観音)
陽雲寺は鳳凰山陽雲禅寺と号する曹洞宗のお寺で、菩薩坐像(伝如意輪観音)を本尊としています。詳しい創建の年代は明らかではありませんが、寺伝では平安時代といわれています。
後村上天皇の中宮・源顕子(北畠親房の子)の山稜横にあり、寺と山稜の密接な関係も推定されます。
中世にはかなりの寺勢があったことをうかがい知ることができ、徳治(とくじ)2年(1307)、永享(えいきょう)元年(1429)等の奥書がある「大般若経六百巻」も伝えられています。
本像は如意輪観音として祀られていますが、造立当初の尊像名及びその伝来は明らかではありません。榧の一木造の彫刻で両手首を別材で矧(は)いでいます。髻(もとどり)が大きく、耳朶(じだ)が外に反り、頬の肉どりが引き締まり、上唇をやや突き出して結ぶ口元などの表情は、個性的な容貌です。腕を太く造り、肘を外に張って構え、背筋を伸ばし、膝を高く造って足を組む姿勢は、平安時代初期の緊迫感のある表現を表しています。
本像は9世紀後半の制作と推定され、奈良県下では数少ない平安初期彫刻の逸品として貴重なものです。
1996年(平成8年)~1997年(平成9年)には、永く保存をはかるために本格的な修理を行いました。
大きな髻(もとどり)に、外に反り返る耳朶(じだ)。
特別拝観のタイミングは訪れるのでしょうか。
もちろん、今回はこちらの如意輪観音様を拝むことはありませんでした。
山門前に建つお堂。
おそらく観音堂でしょう。
その扉は固く閉ざされていました。
この中に陽雲禅寺の御本尊が祀られていることでしょう。
それにしても、陽雲禅寺と新陽明門院笠間山稜にはどのような関係があるのでしょうか。お互いの立地からも無関係とは言えないような気がします。
御本尊は奈良県内では珍しい、平安初期の仏像彫刻です。いつか拝観してみたいですね。
笠間山稜の神明鳥居。
宮内庁管轄の御陵ですから、立ち入りは禁じられています。
振り返って眼下に広がる景色を望みます。
これといって見所があるわけではありませんが、この景色を眺めるだけでも十分です。澄み切った真冬の空気に包まれて、遥か遠くに展開する山並みを心ゆくまで楽しみました。