鳥見山公園の勾玉池畔に鳥見社というお社があります。
神武東征ゆかりの場所に鎮まる神社です。ツツジの名所として知られる鳥見山公園ですが、こんな神さぶるお社が存在していたとは知りませんでした。
鳥見社本殿へと通じる石段。
短い階段ではありますが、どこか室生寺の鎧坂を思わせる雰囲気を纏います。
長谷寺から上手へと続く坂道を車で走り、坂を登り切った所を左に曲がります。そこからまた左折し、延々と続くヘアピンカーブの急坂を登って行きます。対向車が来ないことを祈りながらのアクセスでした。
皇祖天神を御祭神とする鳥見社
鳥見山公園の無料駐車場に車を停め、石鳥居をくぐって上手の勾玉池へと向かいます。
池の畔にツツジが咲いていましたが、残念ながら見頃は過ぎてしまっていたようです。歌碑も幾つか見られ、ここが歴史にその名を残す観光スポットであることをうかがわせます。池の畔を歩きながら、ぐるっと右へ回り込んだ際に朱色の明神鳥居が視界に入ってきました。
鳥見社の本殿。
どうやら三柱の神様が祀られているようです。
相殿中央に、皇祖天神(みおやのあまつかみ)が祭祀されています。
相殿右が大山祇御祖命(おおやまつみみおやのみこと)、相殿左には神日本磐余彦尊(かんやまといわれひこのみこと)が祀られます。イワレヒコと言えば、神武天皇のことですよね。
三間社流造に千木や勝男木も見られ、新緑の緑に朱色の社殿がよく映えます。
真正面から本殿を拝みます。
入口両脇には榊が供えられ、聖なる場所に結界が張られています。
実に静かです。
駐車場奥の石鳥居の傍には、お弁当を広げて談笑する女性グループがいらっしゃいましたが、その声も届いてこないほどの静けさです。何かこう・・・サムシンググレートにでも支配されたような空間が広がっています。
鳥見社の明神型鳥居。
勾玉池の方に向いて建つ鳥居です。
鳥居をくぐって参道を進みます。
木漏れ日が差し込み、神さびた中にも明るい雰囲気を漂わせています。
真正面に本殿が見えていますね。このアプローチが神社参拝の醍醐味でもあります。少しずつ神様の御前に進み出る一歩一歩が、自分への問い掛けを深めていくような気がします。
木立に囲まれた美しい本殿。
秋の紅葉シーズンもきっと綺麗なんでしょうね。
奈良県内には自然と一体化した神社仏閣がたくさんあります。昔から変わらずそこにあり、人や自然と共生してきた歴史が刻まれています。一朝一夕には作り得ない、時間によって醸成された広がりのある贅沢空間です。テーマパークには真似が出来ませんね。
現在の本殿は、飛鳥の社を明治時代に移築したものと伝わります。
明治41年3月に墨坂神社境内社の天神社が西峠堂ノ上(天ノ森付近)より合祀され、その後にこの地に分祠されたのではないかと言われます。鳥見社の歴史を辿れば、南方の墨坂神社との関係が見え隠れしてきます。
神武天皇は墨坂峠から大和入りを果たしています。墨坂神社も神武天皇ゆかりの地であり、イワレヒコの足跡を辿ればそこには様々な伝説が残されていることに気付かされます。
緑に包まれる初夏は、朱色の鳥居が美しく映える季節ですね。
今回の参詣では見過ごしてしまいましたが、鳥見社の境内隅に降神石という磐座のようなものもあるようです。次回の訪問では、忘れないように見ておこうと思います。
鳥見山公園の見所であるツツジや展望台(見晴台)には数多くの観光客が押し寄せます。
しかしながら、勾玉池の畔にひっそりと佇むこのお社には目もくれない方々も多くお見受けしました。鳥見社の本殿背後には、鳥見山公園の見晴台へと続く道が付けられています。今見て来たばかりの絶景の素晴らしさを語り合う人々の声が聞こえてきます・・・。
喧騒からかけ離れた場所に、宇陀の歴史を紡ぐお社が鎮まります。