日本史の教科書で学習した記憶のある唐古遺跡。
当時は「唐古遺跡」と学んだように思いますが、昨今の観光ガイドブックには「唐古・鍵遺跡」と案内されています。日本の弥生時代を代表する集落遺跡としてその名を知られます。
唐古・鍵考古学ミュージアムに展示される楼閣模型。
国史跡に指定される唐古・鍵遺跡のシンボルといえば、国道24号線からも見える復元楼閣です。唐古池の南西隅に復元された楼閣が目印になっているわけですが、この建物は唐古・鍵遺跡から出土した楼閣絵画土器を元に推定復元されています。渦巻き状の屋根飾りが印象的ですね。
田原本青垣生涯学習センターに併設された土器見学の宝庫
唐古・鍵考古学ミュージアムは田原本青垣生涯学習センターに併設されています。
考古学ミュージアムの他にも、図書館や公民館、それにイベントホールなども備わっています。私は以前、ここの図書館カードを作ってよく出入りしていました。とても綺麗に整備された図書館で、私の中ではお気に入りです。ビデオ鑑賞やパソコンの閲覧も出来ますし、全面ガラス張りの向こうに中庭を望みながら雑誌を読みふけることも出来ます。
唐古・鍵の弥生世界第1室に展示される女性シャーマンの模型。
シャーマンといえば神がかりをする人間です。
邪馬台国の女王・卑弥呼もシャーマンであったと伝えられます。
一種のトランス状態に陥って、神が憑依するのを待ちます。鳥の格好をしたシャーマンがとても印象に残りました。弥生時代中期に最も多く描かれた絵画土器には、両手を広げたシャーマンの姿がよく見受けられます。弥生時代は稲作文化が発展した時代です。雨乞いを祈願するシャーマンも数多く居たのではないでしょうか。
動物の描かれた絵画土器。
出土した土器の破片から全体像が浮かび上がります。
抽象的に描かれていますが、この動物は一体何なのでしょうか。鹿でしょうか、猪でしょうか?
絵は国境を越え、時代を超えてメッセージを伝えてくれる道具です。文字よりも直感的に私たちに訴えかけます。唐古・鍵考古学ミュージアムの近くにある桜井市立埋蔵文化財センターでも絵画土器を見学しましたが、表面に描かれた人物や動物には愛着さえ覚えます。
絵画土器に描かれた動物の下の三角形も気になりますよね。
田原本青垣生涯学習センター。
2004年に竣工した建物ですので、まだ清潔感を感じさせます。
この建物の二階に唐古・鍵考古学ミュージアムが併設されています。夏休み期間中とあってか、数多くの小中学生の姿が見られました。大学受験を控えた高校生と思しき皆さんも、図書館のデスクで一生懸命に勉強なさっていました。
考古学ミュージアムから退出して分かったのですが、どうやら玄関口左手の四角く突き出た部分が唐古・鍵考古学ミュージアムのようです。
近鉄田原本駅からだと、東へ徒歩20分ほどの距離になります。
広い無料駐車場が完備されていますので、車でアクセスするのが便利だと思われます。
田原本青垣生涯学習センターに収容されている全施設です。
唐古・鍵考古学ミュージアム、田原本町公民館、田原本町立図書館、弥生の里ホールが案内されています。
看板の向こうに見えている丸いドームが気になりますよね。あれは図書館内にある幼児用の憩いスペースです。私も子供が小さい頃、何度か中に入ったことがあります。ちょっとした読み聞かせもできるスペースだったと記憶しています。
玄関先のオブジェ。
う~ん、何を意味しているのでしょうか(笑)
楕円形のスペースに小石が敷き詰められ、その上に不思議なオブジェが建っています。見学当日は雨がぱらついていたのですが、屋根上の樋から落ちて来る雨水を受けているようでした。玄関先のT字路を西へ行くと、国道24号線の阪手北交差点に出ます。国道に出れば鏡作神社などもすぐ近くですので、ついでに足を向けてみるのもいいですね。
田原本青垣生涯学習センターの1階に展示される蓋形埴輪。
「蓋形埴輪(きぬがさがたはにわ)」と読みます。古墳時代の埴輪で、貴人に差し掛ける日よけの笠をモチーフにしています。大相撲の土俵入りにおける太刀持ち・露払いのように、昔は偉い人の背後に、日除けの笠を持った従者が付き従ったのです。その笠をイメージした埴輪のようです。
蓋形埴輪から振り返ると、「弥生時代最大級の大柱はこちら」と案内が出ていました。
写真は撮り損ねてしまいましたが、確かに巨大な柱の跡がケースの中に展示されています。窓の外は芝生の敷き詰められた中庭で、柔らかい光が館内に差し込んでいました。ちょうどこの向かい側が図書館になっています。
二階部分はこんな感じです。
ウッドデッキの回廊が楕円状に渡されています。なかなかオシャレな建築物ですよね。
柱の下部には放射状に木が組まれ、腰を下ろして読書を楽しむこともできます。
緩やかな風に吹かれながら、忙しい日常を忘れて寛げるスペースが用意されています。
いいですね、遥か東の彼方には三輪山が望めます。
二階の回廊に出たのは今回が初めてだったのですが、こんなに綺麗に三輪山が拝めるとは思いもしませんでした。
再び中へ入って、唐古・鍵考古学ミュージアムの入口へと辿り着きます。
「考古学」を英語に翻訳すると、archaeology になります。ミュージアムの表札には、英語で KARAKO-KAGI ARCHAEOLOGICAL MUSEUM と記されています。屋根飾りが可愛らしい復元楼閣が、入口表札にもデザインされています。
ミュージアムの入口右横に展示されていた土器。
流水紋の弥生土器と案内されていました。
唐古・鍵遺跡から出土した土器で、流れる水のような模様がデザインされています。
弥生時代の土器です。
稲作文化の中で生き抜いた弥生人たちを思えば、水がどれだけ貴重であったかが想像されます。自然界からもたらされる水は、神にも匹敵する有り難いものであったはずです。果たしてこの模様が水を表しているのか否かは定かではありませんが、いかにも弥生土器を感じさせるデザインではないでしょうか。
弥生人の生活を思い描く考古学博物館
集落遺跡の唐古・鍵遺跡。
唐古・鍵遺跡は、居住域の周囲に幾重にも大きな溝を巡らせた環濠集落です。
その広さで唐古・鍵遺跡は他を圧倒しています。環濠を含めた大きさは42ヘクタールにも及び、日本最大級の環濠集落と言われています。
田原本町阪手にある唐古・鍵考古学ミュージアムですが、西に寺川、東には大和川が流れる場所に位置しています。古来より穀倉地帯であった田原本町周辺は、陸運・水運の要衝として栄えてきました。
古墳時代の馬形埴輪。
流水紋の弥生土器に並んで、馬の頭を象った土器も展示されていました。
ミュージアム内には重要文化財の牛形埴輪も展示されていましたが、古来より牛や馬は人の生活に無くてはならないものであったことがうかがえます。
こちらは和鏡ですね。
室町時代の和鏡(洲浜双草双雀文鏡)と案内されていました。
鏡の上部に二羽の雀が確認できますね。
田原本町の十六面(じゅうろくせん)にある薬王寺遺跡から出土した鏡のようです。
十六面(じゅうろくせん)という地名は以前から気になっていたのですが、どうやら旧大字の富本(とんもと)に由来しているようです。十六面は富本から分村した地域なのですが、「とむもと」が「とむもて」に転訛して、これに「十六面(とむもと)」の文字を当てたのではないかと伝わります。
唐古・鍵のキャラクター楼閣くん。
ミュージアムの入口手前にせんとくんと居並びます。
くるっと丸まった屋根飾りが可愛いですね。
当館大正楼では、お祝い料理に「如意巻き」をよくお出ししているのですが、先っぽのくるっと丸まったデザインを見ると、なぜか ”意のままに願いを叶えてくれる” という「如意」を思い出してしまうのです。背中を掻く道具である孫の手なども、この如意に由来していると言います。寺社建築の欄干に見られる如意宝珠の「如意」にも通じていることを思うと、弥生人たちの先見の明に頭が下がります(笑)
唐古池片隅の復元楼閣では、このくるっと丸まった屋根飾りを藤蔓で表現しています。
見れば見るほどワラビの先っぽにも似ています。まさしく早蕨(さわらび)そのものですよね。それもそのはず、お神輿の屋根にも見られるこの手の意匠は蕨手(わらびて)と称されます。蕨手刀の柄(つか)にも同じようなデザインが見られます。不思議な共通点を見出しながら、空想の世界が広がっていきます。
ミュージアム内の模型展示。
高床式倉庫のような建物に、刻み梯子が架けられているのが分かります。
唐古・鍵考古学ミュージアムの中は、3つのスペースに分けられています。第1室「唐古・鍵の弥生世界」、第2室「唐古・鍵の弥生世界」、第3室「田原本のあゆみ」の三部構成です。写真の建物の模型は第1室唐古・鍵の弥生に展示されていました。よく観察してみると、高床式建物の屋根にも「如意」を思わせる屋根飾りが付いています。
唐古・鍵遺跡を象徴する楼閣は、12.5mの二階建てに復元されています。
現在復元されている場所ですが、戦前の発掘調査の際に弥生時代の生活遺構が完全に失われてしまっていることが判明しました。そのため、遺跡の保存上問題がないと判断されたため、唐古池の片隅に復元楼閣が建てられることに相成りました。
楼閣の描かれた絵画土器の屋根には、逆S字状の3本のラインが見られます。
このラインを渡り鳥と解釈し、6羽の木製鳥が復元楼閣にも取り付けられています。
建物の前には捕えられた猪らしき動物が横たわっています。
魚や木の実なども見られますね。
鳥のように羽を広げ、天を仰ぐ女性シャーマン。
神との交信は、まずは格好からだったのでしょうか。貫頭衣には鹿のような動物も描かれています。
30代の女性と見られるようですが、足元に注目してみます。
鳥の足を葉で表現しているようです。鳥のくちばしを模しているだけでもなかなかの入れ込みようですが、足の先までも鳥に成り切っている様子がうかがえます。
女性シャーマンの右横には、勇ましい姿の男性弥生人が展示されています。
武器を手に身構えます。同じく足元を見てみると、鳥の足をデザインした刺青のようなものが見られます。よっぽど鳥になりたかったのですね(笑) 古代人たちにとって、空を自由に駆け回る鳥は異界の生物だったに違いありません。自分もあんな風になりたいという願いが芽生えても不思議ではありません。
神社の鳥居にも、どことなくそんな影響が感じられます。
鹿の角を両手に持って空を見上げます。
昔の人は鹿の骨で占いをしたという記述も見られますが、鹿も大変身近な動物であったようです。
こちらは第2室唐古・鍵の弥生世界。
楼閣模型の展示される第1室のさらに奥にあります。
八角形の展示台の上に、弥生人たちの生活様式がうかがえる人形模型がディスプレイされています。
額に汗して働いていたのでしょうね。
土器や石器、木器、青銅器などの製作過程を示す遺物なども展示され、よりリアルな弥生時代が浮き彫りにされます。
スッポン絵画のモチーフ。
亀も身近な動物だったようですね。亀にしては足が長いような気も致しますが、そのあたりはご愛嬌といったところでしょうか(笑)
大型の三面スクリーンに唐古・鍵ムラの全容が映し出されます。
様々に工夫を凝らし、皆で力を合わせて生活していた様子が分かります。なんだか生き生きしていて、現代人たちも見習わなければならないなと思わせます。
刻み梯子も展示されていました。
足を掛ける部分が狭いようにも思えますが、当時としては階上へ登る手段として定着していたようです。唐古・鍵考古学ミュージアムを訪れる前に、実際に復元楼閣を見学して来ましたが、復元楼閣の階下にも刻み梯子が見られました。
楼閣の柱は四本です。
復元楼閣には太さ50cmのヒバ材が使用されています。茅葺きの屋根を、放射状に広がる丸太で固定しています。壁は外面が網代壁、内面には板壁が施されています。
弥生時代にどっぷりとつかれるひと時。
ボランティアガイドの方も館内にいらっしゃいますので、聞いてみたいことがあったらどんどん質問してみてはいかがでしょうか。教科書では学べない貴重な学びが得られること請け合いです。
<唐古・鍵考古学ミュージアム>
- 住所 :奈良県磯城郡田原本町大字阪手233-1
- 休館日 :毎週月曜日(祝休日の場合、その次の平日)、12月28日~1月4日
- 開館時間:午前9時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
- 観覧料 :一般200円、高校生・大学生100円、15歳以下は無料