長谷寺本堂の北東裏手に、初瀬の里を守る三社権現が祀られています。
瀧蔵三社とも呼ばれ、瀧蔵権現(たきのくらごんげん)を中心に祀られる地主神。牡丹や十一面観音が見所の長谷寺境内にあって、訪れる人も少ないお社ではありますが、初瀬詣での際には是非おすすめしておきたい場所の一つです。
長谷寺の三社権現。
お地蔵さんの斜め後ろに、三つの社殿が並んでいます。中央に滝蔵権現(たきのくらごんげん)、向かって右側に石蔵権現(いわくらごんげん)、向かって左側には新宮権現(しんぐうごんげん)が鎮座しています。三つを総称して「滝蔵権現」と呼びます。
滝蔵権現は虚空蔵菩薩が仮の姿である老父の格好で出現すると云われます。
そう言えば、山の辺の道の途上にある弘仁寺にも瀧蔵神社が祀られています。弘仁寺には虚空蔵菩薩が祀られていることからも、そこにはよく似た経緯がうかがえます。
2月上旬に行われる三社権現綱懸祭
本堂裏手の小高い場所にある三社権現が一番賑わう日、それは旧暦1月11日に執り行われる三社権現綱懸祭(さんしゃごんげんつなかけさい)の日ではないでしょうか。
長谷寺界隈の藤原氏直系男子とされる講衆が集い、神殿に注連縄を張って祭りが営まれます。上之郷(萱森、中谷)が第一殿、中之郷(吉隠、榛原の柳、角柄)が第二殿、下之郷(柳原、出雲)が第三殿に奉仕して、それぞれに綱掛を行います。刀の形をしたお餅や五段重ねのお餅が供えられ、厳かに祭りが進められます。
三社権現の案内板がありました。
天平5年聖武帝の勅命により徳道上人創建 慶安3年(1650)3代将軍家光公再建せられる
東社 石蔵権現(地蔵菩薩) 中社 滝蔵権現(虚空蔵菩薩) 西社 新宮権現(薬師如来)
と、案内されています。
老父の姿で現れる瀧蔵権現ですが、石蔵権現は地蔵菩薩が比丘の姿で現れ、新宮権現は薬師如来が柔和な女性の姿で現れると伝わります。
真ん中の瀧蔵権現。
天平5年(733)に滝蔵権現が現れ、長谷寺の開山である徳道上人に「本堂を守る」と告げた場所。まさしくそこに三社が建てられています。長谷寺の御本尊である身の丈三丈三尺の十一面観音を安置する本堂を守る守護神こそが、長谷寺の地主神である瀧蔵権現なのです。
仁王門の前にかざして、いざ長谷寺拝観に出発です。
石垣の上の一段高い場所に三社権現は祀られています。
初夏を彩るツツジの花が開花していました。
今では菅原道真に地主神の座を譲っていますが、長谷寺の歴史を語る上では欠かせない三社です。
牡丹と登廊の風景。
飛白(かすり)の入った紅白の花が開花の時を待ちます。
威風堂々、といった趣です。
平安時代中期になって、与喜山天満宮(菅原道真)に地主神の座を譲りはしましたが、今もなお元地主としての信仰を集めています。
三社権現の前にあった建物。
横にベンチも置いてあったりして、ちょっとした休憩所として利用できそうですね。三社権現綱懸祭の日には、ここに講衆が集うようです。
南西方向に本堂を見下ろし、邪悪なものの侵入を拒んでいるようです。
幾度もの火災に遭いながら、今もなお数多くの参拝客で賑わう長谷寺。その長谷寺を長い年月に渡って見守り続ける三社権現の存在を忘れてはなりませんね。奈良の長谷寺に三社権現あり、そう思わせるに足る立派な建物が並び建ちます。