山の辺の道の弘仁寺境内に滝蔵神社が祀られています。
「滝」という字が名前に付くだけでも、なぜか神秘的な空気が漂います。古来より禊の場として知られる瀧には、その文字を見るだけで背筋が伸びる思いがします。漢字の構成を見ても「さんずい偏に龍」と書きますが、日本に深く根ざしている龍神信仰を連想させます。
弘仁寺の滝蔵神社。
本堂向かって左手に静かに鎮座しています。
弘仁寺の鎮守社であった滝蔵神社。弘仁寺の造営に当たり、滝蔵権現の神力を得て無事に完成したことから、弘法大師自らが御神体を刻んで鎮守の神としました。小高い丘のような虚空蔵山に建立された弘仁寺。創建時の元号にちなんで命名された弘仁寺の歴史には、滝蔵権現の聖なる力が深く関わっていました。
三社殿が並び建つ虚空蔵町滝蔵神社
こぢんまりした滝蔵神社の境内には、三つの祠が並んでいます。
左側から滝蔵神社、大国神社、三社神社と続きます。
一番左側の滝蔵神社の祠。
立派な千木の見られる祠です。
奈良県内で瀧蔵神社と言えば、桜井市の長谷寺を守護する地主神を思い出します。山深い地に鎮まる長谷寺鎮守の瀧蔵神社へも足を運んだことがありますが、あまり人気(ひとけ)の感じられない神秘的な場所でした。虚空蔵山中の弘仁寺にも似たような空気が流れていますが、特に本堂左脇の滝蔵神社周辺には聖域に居ることの緊張感を感じさせられます。
瀧蔵神社。
祠の前に木札が掛かっていました。
滝蔵神社方面から弘仁寺本堂を見ます。
堂内には知恵の神様と仰がれる、弘法大師空海作の虚空蔵菩薩像が安置されています。子供に知恵を授ける十三詣りは、年中行事として毎年4月13日に執り行われます。
滝蔵神社境内には、狛獅子の姿も見られます。
なぜか柵の中に収まっています。
京都へ行けば、猪や猿、ネズミといった様々な動物が狛犬の代役を担っていますが、奈良県内では獅子以外の動物をあまり見かけません。ふとそんなことが頭をよぎりました(笑)
滝蔵神社の右横、三つ並んだ祠の真ん中には大国神社が鎮座します。
大国主命と事代主命が祀られています。
三輪坐恵比須神社の神主さんに、大国主と事代主は親子の関係にあることを教えて頂いたことがありますが、この祠を見てそのことを再確認致します。
事代主神と案内されています。
恵比須神社に祀られる神様ですね。
弘仁寺本堂に掲げられた奉納絵馬。
虎や富士山が題材にされているようです。弘仁寺といえば、奉納絵馬の一種である奉納算額が有名です。先日の新聞紙面でも紹介されていましたが、東大寺大仏殿にも算額が奉納されたようです。東大寺参拝の際には、江戸時代の和算の難問に挑戦してみるのも一興ではないでしょうか。
現代社会において、インドが算数や数学の教育立国として知られます。九九を覚える段階からその桁数が違うわけですから、いかに早い時期から数字に対する興味を子供たちに植え付けるかが肝要です。
向かって一番右側には天照大神が祀られています。
こうやって見ると、真ん中の大国神社の祠が一番小さいのが分かります。
一番右側に鎮まる三社神社。
天照皇大神、天児屋根命、品陀別命が祀られています。
天照皇大神と書かれていますね。
弘仁寺は元亀3年(1572)、松永久秀の兵火などによりその大部分を焼失しています。滝蔵神社もおそらく、その時の火災によって一時は焼失してしまったのではないかと思われます。
石の玉垣に「虚空蔵町滝蔵神社」と刻まれています。
滝蔵神社の御祭神は、天忍穂耳命(あめのおしほみみのみこと)です。吉野山の勝手神社にも祀られている神様ですね。
弘仁寺の中でも特に神聖な場所。
そんな雰囲気を漂わせています。
山の辺の道ハイキングの疲れを癒してくれるスポットを、また一つ見つけたような気が致します。