古事記ゆかりの畝尾坐健土安神社。
香具山山麓北西に鎮座する式内社で、その御祭神は健土安比売命(たけはにやすひめのみこと)とされます。
香具山山中のミステリーストーンとして知られる月の誕生石、蛇つなぎ石を見学したその日に、鄙びた雰囲気の畝尾坐健土安(うねおにいます たけはにやす)神社にお参りして来ました。
畝尾坐健土安神社。
鳥居の横に石灯籠、その奥に拝殿、さらにその奥には本殿が祀られていました。
古来、香具山の土は神聖視されてきましたが、畝尾坐健土安神社に祀られる御祭神は土の神とされます。
伊邪那美の糞から生まれた神様
御祭神の健土安比売命は、古事記における波邇夜須毘売神(はにやすびめのかみ)とされます。
土の神である波邇夜須毘売神は、イザナミの糞から生まれた神と伝えられます。火の神・カグツチを生んで大火傷を負い、病床に伏すことになったイザナミ。それでもなお、イザナミは自身の尿や糞、嘔吐から新たな神々を生み続けています。
健土安(たけはにやす)と刻まれた社号標。
左手奥に見えているのは、瑞垣に囲まれた本殿です。
拝殿から本殿を見ます。
色鮮やかな絵馬が奉納されていますね。
畝尾は香久山の別名で、その山裾のウネリに名前の由来があります。畝尾(うねび)と発音することもあるようですが、神社の呼称としては畝尾坐(うねおにいます)とすることの方が多いようです。畝尾坐健土安神社は泣沢女神を祀る畝尾都多本神社にも程近く、古事記におけるイザナミの死の場面にその由緒を求めます。
左右対称の美しい明神鳥居ですね。
高天原から地上に帰り、次々と子供を作り続けた伊邪那岐と伊邪那美。
淡路島をはじめ、八つの島々が生み出され、ついには「大八島(おおやしま)の国」と呼ばれる日本列島が出来上がります。島々を生み終えた後も、石・土・砂の神、家の神、海や河口の神を次々に産み落としていきます。
いよいよ子作りの最終段階に入ると、イザナミは鳥のように天がける舟の神・天鳥船(あめのとりふね)、偉大な食物の神・大宣都比売神(おおげつひめのかみ)、そして燃えしきる火の神・火之迦具土神(ひのかぐつちのかみ)を生みます。この火の神であるヒノカグツチが問題だったのです。
境内に「下八釣」と書かれた掃除道具が置かれていました。
畝尾坐健土安神社のすぐ西側に、八釣山地蔵尊があります。神社の住所は奈良県橿原市下八釣町のようです。
カグツチを生んだ時、イザナミはひどい火傷を負い、病の床に伏してしまいます。
イザナミは病床にあってもなお、鉱山、土器、灌漑、農業、食物の神を生み続けましたが、ついに黄泉の国へと旅立ってしまいました。病床にあったイザナミの糞から生まれた神こそが、健土安比売命(タケハニヤスヒメノミコト)なのです。
本殿左横に庚申石碑が祀られていました。
左の石には「愛宕山」の文字が見えます。
愛しい妻の命が、一人の子のために奪われてしまった。
愕然とした伊邪那岐(イザナギ)は、イザナミの枕元で嘆き悲しんだと伝えられます。イザナギの流す涙から、香具山の畝尾の木本に鎮まる泣沢女(ナキサワメ)という泉の女神生まれました。そして、悲しみに暮れたイザナギは、イザナミの死の原因になった火の神・カグツチの首を斬ることになります。
カグツチの飛び散った血からも、実に様々な神が生まれています。
畝尾坐健土安神社からも程近い御厨子神社に祀られる石析神や根析神も、斬られたカグツチの血から生まれています。
瑞垣と本殿。
カグツチの「カグ」は輝くの意味です。香具山の呼び名にも通じる「カグ」という音。
呪力伝説が伝わる香具山の土。
土の神様が祀られる畝尾坐健土安神社は、香具山山麓に無くてはならないお社なのかもしれません。
畝尾坐健土安神社へアクセスするには、香具山西麓の観光駐車場に車を停めて徒歩で向かうのがおすすめです。少々歩きはしますが、周辺の奈良文化財研究所「藤原宮跡資料室」や畝尾都多本神社、八釣山地蔵尊、天香山神社などに立ち寄ることができます。
香具山周辺の散策に、土の神様・畝尾坐健土安神社参詣をおすすめ致します。