「ひ」という字には霊性が感じられる。
以前にも棺という言葉の意味を解説致しましたが、「ひ」という音には実に不思議なチカラが宿っています。男女の仲を結ぶ、「結び」という言葉の中にもスピリチュアルな雰囲気漂う「霊(ひ)」の音が隠されています。結びの語源は、「生す(むす)」「霊(ひ)」にあります。
大阪の坐摩神社境内に鎮まる瀧丸大明神の神紋。
稲穂が丸くデザインされており、稲作文化の栄えた日本の「おむすび」を連想させます。
苔生す生命の誕生から生まれた言葉
結びの「び」が「霊(ひ)」であるとすれば、「むす」は何を意味しているのでしょうか。
「むす」は「苔生す(こけむす)」や「料理を蒸す」などの「むす」を意味しており、温暖多湿の気候風土の中から生命が生まれてくる過程を表しています。
湿っぽい環境の中から生命が誕生する。映画「もののけ姫」にも登場する鬱蒼とした森の中を想像します。天地・万物を産みなす神霊、むすびの神のことを産霊(むすひ)と言います。天照大神と共に、高天原の至上神とされる高皇産霊神(たかみむすひのかみ)や神皇産霊神(かみむすひのかみ)の名前にも「むすひ」という言葉が見られます。
こんもりと苔が生しています。
息子という言葉のルーツは「産す子(むすこ)」であり、娘のルーツは「産す女(むすめ)」であることを確認しておきましょう。
披露宴の水引。
「結ぶ」という言葉には、実に様々な意味が込められています。
男女の仲を結ぶ、おみくじを結ぶ、庵を結ぶ、像を結ぶ、水を掬ぶ(むすぶ)。
昔の人は今のおみくじに似た習慣を持っていたのか、誓いをかけたり契りを結んだ印として松の小枝を結びました。万葉集にも、「磐代(いはしろ)の野中に立てる結び松」という歌が出てきます。
大阪御霊神社の茅の輪。
唐草文様や雷文模様なども、その連続性から結びの一種とされます。
安倍晴明の五芒星なども、一筆で描き切ることのできる終わりなき図形です。吉水神社の北闕門にも、セーマンの図形が描かれていたことを思い出します。永続性を願う五芒星の印にも、「結ぶ」気持ちが表れていることを知ります。