棺の意味

平仮名の「ひ」には霊性が感じられます。

古代の大和言葉は耳から入ってくる ”音” そのものでした。漢字が伝来するよりも以前に、私たち日本人に根付いていた言葉。言霊の幸ふ国に根付いていた「ひ」という音に迫ってみたいと思います。

日本武尊白鳥陵

日本武尊白鳥陵(やまとたけるのみこと しらとりりょう)。

かの有名な「大和は国のまほろば」の歌を詠んだヤマトタケルノミコトの陵です。梅雨時の紫陽花と共に、御所市冨田の地にひっそりと佇んでいます。

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霊魂を継ぐ棺

平仮名の「ひ」に当てる漢字には、実に様々なものがあります。

日、火、氷、碑、毘、陽、妃、樋、檜等々、すぐに思い付くだけでも二桁に届きそうな勢いです。日、火、氷(水)などはどれも人の生活には欠かせないものばかりです。それだけ「ひ」というものが、古来大切にされてきたことが分かります。

大徳寺の千躰地蔵塚

大徳寺の千躰地蔵塚。

死者を納める棺桶の棺(ひつぎ)には、霊魂を継ぐという深い意味が込められています。

霊力や霊魂を意味する「霊(ひ)」と、継続を表す「継ぎ」で「霊継ぎ(ひつぎ)」という言葉が生まれています。魂を永遠に繋いでいくため、一旦納めておく受け皿こそが棺なのです。

黒塚古墳

奈良県天理市の黒塚古墳。

皇位を表す言葉に「日嗣ぎ(ひつぎ)」があります。

天皇は現人神ですから、生まれながらに霊性を備えています。その天皇の位を「ひつぎ」と言うわけです。皇位を継ぐべき皇太子のことを「日嗣ぎの御子(ひつぎのみこ)」と表現します。現代では「棺(ひつぎ)」と言えばあまり縁起のいい言葉ではありませんが、天皇の位が「ひつぎ」であることを知ると、見方も変わってくるというものです。

石舞台古墳

明日香村の石舞台古墳。

奈良県内を見回してみても、檜原神社や樋口神社など、霊性を感じさせる「ひ」の付く神社が鎮座しています。

当館大正楼でも、長年に渡って御縁を頂いた考古学者の樋口清之先生。樋口先生の「樋(ひ)」にも、興味深いものが感じられます。

堰き止めた水の出口に設けられた戸を「樋(ひ)」と言います。開閉して水を出入りさせるわけですが、水分(みくまり)のような役割を果たす樋口は、古代の人々にとっても重要なポイントであったことが想像できます。

箸墓古墳

桜井市箸中の箸墓古墳

邪馬台国の女王・卑弥呼が亡くなった時にも、魂の再生を願う儀式が行われたのではないでしょうか。

卑弥呼の霊力を後世に継いでいくため、三角縁神獣鏡を使って太陽の光を反射させ、無事に儀式が終わった後に鏡を割ったのではないか・・・そんな風に思うのです。卑弥呼という名前は中国側から見た蔑称です。元来、卑弥呼は「日巫女(ひみこ)」ではないかと言われています。

西国浄土へ繋がる仏教思想に近いものが、既に卑弥呼の時代にも存在していたのではないかと思われます。

棺の言葉の由来は、「霊(ひ)継ぎ」にあることを確認しておきたいと思います。

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