新鮮でありさえすれば、料理の幅が広がります。
まさか深海のアンコウを、生に近い状態で食べられるとは思ってもみませんでした。これも産地直送の上をいく、漁港直送のお陰ですね。深海トロール漁の漁師さんをはじめ、戸田漁港関係者の皆様方、どうもありがとうございました。
キアンコウの黄身寿司。
白い身を乗せているのがキアンコウの黄身寿司です。右側の寿司ネタは、ミシマオコゼ科のアオミシマです。寄せ木人参の酢漬けと菜の花を添えて供します。
酢締めにする雌のキアンコウ!大和芋と合わせる黄身寿司
ざるの上にキアンコウの身を乗せ、多めの塩を振りかけます。
まずは魚の水分を抜くのですが、塩をする時間は2時間余りにしました。
鯖寿司を作る際にも言えることですが、何時間臭味抜きに当てるかは状況次第です。あまり長く塩を当てすぎても良くないでしょう。塩で水分を抜いた後は、酢締めの工程が待っています。酢締めの時間もまちまちですね。自分で色々試してみて、ちょうどいい締め具合を探ってみて下さい。
でっぷりとしたキアンコウ。
冬が旬のアンコウですが、4月に入れば値の方も落ち着いてきます。あんこう鍋が定番料理ですが、新鮮な状態であれば刺身でも頂けます。
食用になるアンコウは全て雌なんだそうです。
雄は驚くほどに小さく、雌にくっ付いて一生を終えます。雌から栄養分を吸い続けながら、繁殖の時だけ役目を果たし、その後は吸収されて最期を迎えるようです。えっ、そんな生き方ってあるの?とにわかには信じ難い事実を知ります。
キアンコウの皮はどぶ汁にして頂きました。
”あんこうの七つ道具”に含まれる皮は、鍋の材料に向いています。そのため、お寿司にする身は皮無しです。なんだかのっぺらぼうな感は否めませんが、それなりの味を楽しんで頂けるのではないでしょうか。
ぬめりを身に纏うキアンコウ!
まずは束子でゴシゴシぬめりを洗い落とす作業から始まります。
キアンコウがこんな一皿になるとは。
自分で作っておきながら、ちょっと意外な展開でした。
この白さも変化球ですね。
今回はすし飯を使わずに、大和芋と合わせた”黄身寿司仕立て”です。白と黄では色の対比がぼやけてしまいますので、また機会があれば、紅くるり大根のエキスを使ってみるのも面白そうです。鮮やかな紅白の大和芋寿司になるはずです。
さっぱりと頂けるアンコウ料理。
コクのあるどぶ汁とはまた違った味わいです。
あんこう特有の誘引突起。
先っぽに付いたものをユラユラさせながら、獲物を引き寄せます。騙されて近づいて来たものをパクっと一息に呑み込みます。巧みな誘導作戦、深海魚の智恵は計り知れませんね。
可食部の多いアンコウ。
歩留まりの優等生と言ってもいいでしょう。
同じ底生魚でも、キホウボウなどとは比べものになりません。
奈良の歴史は深いですが、深海にも歴史が紡がれています。遥か昔から、人の手の及ばない所で生き続けている未知の深海魚もいることでしょう。昨今のヨコヅナイワシの発見は話題になりましたよね。
地中を掘れば何かが出てくる奈良。
それと同じように、まだまだ深海にも可能性が眠っているような気がしてなりません。