新鮮な黄鮟鱇(きあんこう)が入荷しました。
アンコウ目アンコウ科キアンコウ属のキアンコウ。大きな胸びれの後部に鰓穴が見られ、上から押しつぶしたような体形が実にユニークです。肝や胃袋など、七つ道具を使ったあんこう鍋にして頂きました。
ぷるんぷるんのキアンコウ。
今回のキアンコウは戸田漁港の直送便です!とても新鮮なアンコウを送って頂き、どうもありがとうございました。新鮮な状態で料理するため、さっそく処理に取り掛かります。まずはぬるぬるした体表をたわしで擦り、水洗いへと移ります。
あんこうの肝、えら、皮、とも、ぬの、水袋、やなぎ肉!珍重される七つ道具
あんこうの七つ道具。
淡白な白身より、さらに美味とされるアンコウの部位を「七つ道具」と称します。
あん肝の名で通る肝を筆頭に、鰓(えら)、皮、とも(尾びれ)、ぬの(未熟卵巣)、水袋(胃)、やなぎ肉(頬肉)などの総称です。普通の魚なら食べられないエラまで可食部になります。魚のエラと言えばザラザラした食感を思い浮かべるのですが、不思議とアンコウのえらはトロッとしていました。
アンコウのどぶ汁。
とても美味しいあんこう鍋に仕上がりました。
手順は至って簡単です。まずは土鍋を用意して肝を炒り付けます。十分に火を通したら酒を加え、味噌も投入します。後は湯通しした七つ道具やあらを放り込み、あり合わせの野菜類も加えます。蓋をして10分ほど煮込めば出来上がりです。ちなみにどぶ汁に水は不要です。七つ道具や野菜から出る水分で煮ていきます。
ド迫力のキアンコウ!
あんこうの捌き方はネットで検索すれば、ある程度は理解できると思います。
「アンコウの吊るし切り」をイメージする人も多いですが、基本的に大型のアンコウでない限り”吊るし切り”にする必要はありません。まな板の上で捌けますので、皆さんもトライしてみましょう。
まずは胸びれや尾びれを切り落とします。次に口周りに切り込みを入れて、尾の方へ向かって皮を引っ剥がします。表も裏も同じように皮を剥ぐのですが、鋭い歯で怪我をしないように注意が必要です。皮を剥いだら、肛門から腹へ向かって包丁を入れ内臓を取り出します。
キアンコウの肝。
あんこう鍋の肝心かなめ、文字通り”肝”になる部位です。血管が通っていますので、血抜きしてから湯通しします。臭味抜きの処理は怠らないようにしましょう。
キアンコウの鰓(えら)。
一旦湯通しした後のエラです。へぇ~、これも食べられるのかと感心しきり(笑)
キアンコウの「ぬの(未熟卵巣)」。
薄い膜に覆われていました。
キアンコウの水袋(胃)。
弾力があり、噛み応えのある部位です。
胃袋を開けると、大量のヒゲナガエビやツノナガチヒロエビが入っていました!しかも、まだ食べられるのでは?と思わせるほどの新鮮な海老たち。未消化の状態から察するに、トロール漁で海面へ上がってくる途中に爆食いしたのではと思いました。
胃袋は裏返して、包丁でしっかりとぬめりをこそげ取ります。どうやら吊るし切りの際は、胃袋に水を溜めてから捌くようです。
キアンコウを真上から。
テカり具合がいいですね。
湯通ししたキアンコウのあら。
キアンコウの体を貫く太い中骨は食べることができます。
普通の魚であれば、体の中枢を成す中骨は硬くて食べられませんよね。ところがアンコウの場合、太くて食べられそうにない中骨ほど柔らかいのです。噛むとぐしゃっと潰れます。独特の歯応えに少し驚きました。
胸びれの骨は細いですが、硬くて食べられません。あんこうの七つ道具に胸びれが入っていないのも納得です。「とも」と呼ばれる尾びれはゼラチン質に富み、骨も気になりませんでした。
骨関係で言えば、頭部の小骨もさすがに断念しました。口の中に含みながら、食べられる骨とそうでないものを分けるといいでしょう。
あり合わせの野菜を投入します。
トマトを入れたのも正解でした。個人的見解ですが、どぶ汁にトマトは必須ですね。トマトの旨味が、ほどよくあんこう鍋に溶け込みます。
あんこう特有の誘引突起。
背鰭の第一棘が竿のように伸びています。先端に付いているのが皮弁で、小魚のようにヒラヒラ動きます。海底でゆらゆら動く皮弁で、獲物を引き寄せるのです。Angler fish と呼ばれる所以ですね。
あんこうは動きの鈍い魚です。
自ら動き回ることはなく、じっと待ち伏せをする戦法です。”あんこう”という名前ですが、遅い動きを意味する「暗愚魚(あんぐうお)」に由来しているようです。
皮を剥ぎ取り内臓を取り出したら、いよいよ腹膜を切って身を取り出します。
腹膜を頭部へ向かって切り進めると、ちょうどアンコウが万歳するような格好になります。アンコウを捌く際、最大の難関になるのが頭部の解体でしょう。下顎に切り込みを入れると、パカッともう一つの口が開いたようになります。口の中にも鋭い歯がありますので、細心の注意を払いながら作業を進めましょう。歯以外にも目は食べられませんので、処理の際に取り除きます。
以下、キアンコウの内臓や皮、鰭の写真を並べておきます。
戸田漁港直送の深海魚ボックス。
西伊豆の港から直送便が届きました!
どの魚も新鮮ピチピチの状態です。トロ箱の主役はキアンコウですが、他にも珍しい魚が目白押しです。ヒメ、オキナエビ、シロカサゴ、ユメカサゴ、ヨロイイタチウオ、アオミシマ、ミミイカ、ミズダコ、ヘリダラ、ニギス、トゲヒラタエビ、ミノエビ、ヒゲナガエビ、ツノナガチヒロエビ等々がラインナップ!
キアンコウを食べ尽くす!一物全体の極意
あんこうを捌くのは初体験でした。
やったことがないからと、最初は尻込みしていました。
しかしながら、何でも物は試しですね、2回目、3回目とチャレンジしてみたくなりました。初回よりも上手に捌けることは間違いないでしょう。フグのように特別な免許は必要ありません。まずは気軽にトライすることから始まります。
余すところなく食べられるアンコウ。
マクロビオティックの理念に「一物全体(いちぶつぜんたい)」があります。その考え方は野菜などにも当てはまり、皮や根っこ、種までも大切に頂きます。捨てるところが無い。
歯に触るから嫌だ、硬いだの苦いだのと、色んな理由で捨てられていく部位。
果たしてそうだろうか?食品ロスの問題が突き付けられる昨今、人間の都合で毛嫌いしていたものを見直すいい機会ですね。
湯気に煙ります。
ぐつぐつと美味しい音を立てながら、”キアンコウの全て”が鍋の中で踊ります。
食材から教えられることは多いものです。
始めるのに遅すぎることはありません。
数多のビジネス書で目にする言葉ですが、料理にも通じています。初めての食材に初めての料理法、どんどんチャレンジしていけばいいのです。失敗の数ほど上達していきます。
食べやすい食材にばかり目が行きがちですが、新しい世界を見てみるのも面白いことでしょう。