深海魚の沖ギス。
ソトイワシ目ギス科の魚で、正式名称を「義須(ぎす)」と言います。水深200m以深に棲息し、その柔らかい身質から高級蒲鉾の材料として使われています。沖ギスが入荷したら、まずは真薯(しんじょ)で試してみようと思っていました。念願叶って新鮮な沖ギスが入荷しました。
沖ギスと大和芋の真薯。
真薯とは魚のすり身に山芋や卵白、出汁などを加えたお料理です。
海老や蟹で作ることも多いのですが、白身魚にも合った調理法です。今回は同時入荷のヨロイイタチウオも、すり身の中に加えてみました。沖ギスの身質はアイナメなどにも似ています。しっとりと水分を含み、実に瑞々しい白身魚でした。
黄金の浮袋!沖ギスの蒸し物料理
沖ギスの魚体を見て、まず感じたのが”胸びれと腹びれの開き”です。
魚類の中で最も繁栄しているスズキ目の魚は、おしなべて胸びれと腹びれの距離が近いことで知られます。その観点から言うと、より原始的な魚なのかもしれません。
西伊豆・戸田漁港直送の深海魚。
上からトウジン、沖ギス、ヘリダラ、カゴカマスと並びます。この写真からも分かるように、沖ギスの腹びれは体のほぼ中央に付いています。
ヒゲナガエビと菜の花を添えます。
本吉野葛で溶いた生姜餡を掛け、さっぱりと仕上げます。
真薯の淡いグリーンですが、「生命の木」と言われるモリンガを加えています。
沖ギスの腹の中から黄金の浮袋が!
魚の浮袋と言えば乳白色、白が一般的です。それなのになぜ金色!?理由はよく分かりませんが、まるで『西遊記』の觔斗雲(きんとうん)を思わせるフォルムに一瞬たじろぎました(^-^;
黒い腹膜に覆われるように、金色の浮袋が付いています。
不思議ですね、深海魚は。
新緑の季節を控え、日本料理にも「映える緑」が求められます。
ところで、蒲鉾の産地として有名な小田原市では、正月用に沖ギスの蒲鉾が作られるようです。そのお値段ですが、なんと1本1万円にもなるそうです。これは驚きですね。
実際に真薯にして食べてみましたが、独特の弾力があります。混ぜる大和芋や昆布出汁の分量にもよると思いますが、”沖ギスを使えばこそ”の味わいでしょう。
こうして見ると、見た目は地味な魚です。
トウジンと並べれば、どんな魚も地味に見えるよと聞こえてきそうですが(笑)
今回はモリンガで色付けしてみましたが、もちろん茶葉でもいいでしょう。
見た目にそぐわぬ滑らかな舌触り、しっとりとした身質は沖ギスの武器とも言えます。
それにしても摩訶不思議。
この色付けは創造主の戯れでしょうか。もちろん、腹の中ですから他の魚介類からは見えません。海の中では神秘のベールに包まれているのです。何かの意図があるとしか思えませんが、案外どうでもいいことなのかもしれませんね。
金運アップにご利益がありそうで、「金の成る魚」なのかも(笑)
沖ギスは蒸し物料理が合うでしょう。
太刀魚のように「焼き目酒蒸し」にしても美味しいのではないでしょうか。ヨロイイタチウオは昆布締めが定番ですが、沖ギスも昆布と相性が良さそうです。色んなことを感じた沖ギスとの出会いでしたが、これから長い付き合いになりそうです。