見た目の綺麗な深海魚が入荷しました。
ヒメ目ヒメ科に分類される姫(ひめ)。深海に棲息するお姫様です。
トラギスかなと思ったのですが、模様が少し違います。ヒメならではのオレンジ色の斑紋が実に鮮やかです。視界に飛び込んでくる美しさから、料理法は”姿造り”に即決します。
ヒメの姿造り。
新鮮なヒメを捌きながら、柔らかくて甘い白身を想像します。皮目を活かしてこそと、焼霜造りにしてみました。底引き網に掛かっても、そのほとんどが捨てられてしまうそうです。もったいない、こんなに美味しい魚を!
小骨を骨切り!脂鰭を持つ原始的な魚
ヒメには脂鰭(あぶらびれ)が付いています。
鮭やヤマメ、アユなどにも見られる特殊なヒレで、背びれと尾びれの間にあります。柔らかく小さなヒレで、鰭条は無く膜のような質感です。脂鰭の役目が何であるかは定かでありませんが、スズキなどと比べても原始的な魚のようです。
美しい模様のヒメ。
ヒメの下にはヘリダラ、ミシマオコゼが並びます。
深海魚にしては珍しく、ヒメの体表には薄いながらもしっかりと鱗が付いていました。
古代食の調査によると、古代人たちは鮎やアワビを食していたと言います。鮎にも脂鰭があり、どこかでヒメともつながっているのかもしれません。地中を掘れば、何かが出てくる奈良県。今もなお、地中深くには歴史のロマンが広がります。陸と同じく、深海にも未知の世界が広がっているのでしょう。深海に多く棲息するという古代魚・・・一見無関係のようですが、奈良と深海とのひょんな繋がりを感じた次第です。
ヒメの舟盛り。
ヘリダラと鰤、イクラなども盛り込みます。
ピンとV字状に伸びた尾びれも綺麗ですね。尾びれの先に至るまで芸術的な魚です。
鋭く長い背ビレにも模様が入っています。
ヒメが流通しない最大のポイントは小骨が多いことでしょう。
主に頭に近い方に集中していましたが、さほど気になるものでもありません。今回は刺身でお出しするため、骨切りをしてから皮目をバーナーで炙りました。20cmほどの割と小さな魚ですので、炙る時間は短めがいいでしょう。あまり長く炙ると、火が入ってしまいます。
戸田漁港直送のヒメ。
水揚げされた港から、直接当館まで送って頂きました。
この頭部を見ていると、丸ごと唐揚げにしても美味しいだろうなと思わせます。
ヒメの焼霜造りとヘリダラの刺身。
手前の白身がヘリダラですが、見た目に似合わずとても淡白で美味しかったです。
キアンコウも入荷しました。
キアンコウの右で口を開けているのはシロカサゴです。その下に頭だけ覗かせるのはユメカサゴです。ヒメの周りには大衆魚のニギスの姿も確認できます。
内臓を取り出した後の魚体。
さすがに新鮮なヒメだけあって、とても綺麗な内臓でした。
和歌山市雑賀崎には「とんとん」というヒメの名物料理があるようです。ヒメのウロコを取り、細かくたたいて甘辛く煮ます。それをすし飯に乗せて「とんとんずし」として出しているようです。小骨対策として編み出された料理ですね。
骨があるから魚は食べない。
小骨の多い魚は敬遠される、骨なしの切身の方がよく売れる・・・色んな事情があるかと思いますが、これも人間サイドの勝手な思い込みですよね。実際にヒメを刺身にしてみて、さほど骨は気にならないと感じた次第です。少々の骨はよく噛んで食べればいいのです。
秋刀魚や鰯が不漁になり、かつての大衆魚が高級魚になりつつある時代です。
海の資源は有限です。底無しにあるわけではない、そう思えば何でも有難く頂くのが私たちの努めではないでしょうか。草の根レベルの話ではありますが、一人一人の心がけがSDGsの動きにもつながっていくことでしょう。
さざ波胡瓜や寄せ木大根を添えて供します。
いつかまた、ヒメが入荷した際には干物にして頂こうかと計画しています。