桃の美味しい季節です。
大神神社結婚式の前日、黄桃系の滝の沢ゴールドが入荷致しました。白桃系の桃に比べて硬い品種ではありますが、桃とくればやっぱりコンポートです。滝の沢ゴールドは酸味の少ない品種と聞いていましたので、白ワインをベースにコンポートに仕上げてみました。
カットした滝の沢ゴールド。
果肉が鮮やかな黄色をしています。まずはグラニュー糖を表面にコーティングして、その身から甘い水分を引き出します。いや~、見るからに美味しそうです。
桃は果実の中の果実
お中元にも喜ばれる桃。
お盆シーズンが近づくと、百貨店などでは贈答用の桃が箱詰めで売られます。
小玉ではありますが、見た目も美しい滝の沢ゴールドは高い人気を誇ります。
桃は神話にも語られ、魔除けのパワーを持つ不思議なフルーツです。
当館近くの桜井市立埋蔵文化財センターには、纒向遺跡から大量に出土した桃の種が展示されています。古代の桃と言われる毛桃(けもも)に近い桃の種が大量に発見されたのです。魔除けのパワーにあやかって呪術に使われていたのかもしれません。
滝の沢ゴールドのコンポート。
神代の昔、食料のことを「ケ」と表現しました。御饌(みけ)の饌(け)ですね。
その後歴史は流れて、食料の「ケ」に「毛」を当てるようになり、二毛作などの言葉が生み出されました。
「ケの中のケ」が桃であると言います。
どういうことなのか?食料の「ケ」に「毛」の字を当て畳語化したところ、平仮名の「も」と片仮名の「モ」が共に万葉仮名の「毛」に由来していることから、「毛毛」がモモ(桃)と呼ばれるようになったのではないかと推定されます。
大神神社の結婚披露宴会場・料理旅館大正楼。
そもそも、神様の「カ」は「ケ(気)」の音韻が交替した形とされます。気は命であり、生命力を維持していくための食物そのものにも通じます。
朝餉(あさげ)、夕餉(ゆうげ)という言葉からも分かりますが、食物や食事を表す「ケ」に普段から私たちは接しているのです。毎月デザインの変わる石上神宮の御饌絵馬(みけえま)にも、その月の神饌が描かれています。御饌の「け」も同じく食物を表しているのです。
黄色が鮮やかな滝の沢ゴールド。
畑の語源にも、食物の「ケ」が関係しています。
田の端(はし)でケとなるものを栽培するから畑(はたけ)なのです。
万葉集を紐解いてみると、食物を入れる容器も「笥(け)」と呼ばれていたことが分かります。
ケの中のケである桃。
何だかそれだけでとても尊い食物であるように思えます。
結婚披露宴にはファーストバイトという演出があります。
新郎様から新婦様へは「一生食べ物には困らせないように誠心誠意働きます」といったメッセージが込められ、新婦様から新郎様へは「一生美味しいものを作り続けます」といった想いが込められます。
「食」という漢字を分解すると、「人を良くする」と書きます。
食はその人そのものであり、人間性をも形成していくと言っても過言ではありません。そのケの中のケこそが、桃であるという古代からのメッセージがどこかで感じ取れます。
不思議ですよね。
黄泉の国から逃げ帰るとき、イザナギは魔除けパワーを持つという桃を、あの世からの追手に投げつけて難を逃れます。桃、この不可思議なチカラ。
滝の沢ゴールドに触れながら、改めて桃に思いを寄せることとなりました。