古語に「あらたま(荒玉・新玉)」という言葉があります。
改まるという言葉にも通じる、どこか清新なイメージを抱かせる言葉です。私は日常生活の中での「改善」をモットーとしています。日々繰り返される平凡な毎日の中で、微調整を常に心掛けています。少しずつでいいから、日々是新たにという精神を大切にしたいと思っています。
「あらたま」は薬井戸で知られる狭井神社にも祀られています。大神神社に参拝する際、参道真正面の拝殿を通して三輪山を拝む参拝客が多いと思います。あの場所には和魂(にぎみたま)が祀られています。そして、三輪山登山口のある狭井神社には荒魂(あらみたま)が祀られているのです。
「あらたま」の祀られる狭井神社。
新年には是非お参りしておきたいパワースポットです。なぜ新年なのか?年が改まる新年には、やはり「新玉(あらたま)」の祀られる狭井神社がふさわしいと思うのです。
「洗う」にも通じるアラタマ
あらたまの「あら」は漢字に直すと、荒・粗・新などが当てられます。どの漢字も「あらたま」の特徴をよく表しています。磨く前の宝石を粗玉などと言ったりしますが、まさしく「あらたま」は粗雑で荒々しいのです。ダイヤモンドの原石とでも言ったらいいでしょうか。あらたまは成熟する前の青二才でありながら、その清新なパワーを内に秘めています。
あらたまの「あら」は「洗う」にも通じています。私たちは日常生活の中で、汚れた手を洗ってご飯を食べたり、汚れた体を洗い流して就寝したりしています。洗うことによって、また新たに生まれ変わっているのです。そう、洗うことで蘇生しているのです。
大神神社の手水舎。
神社参拝の折には、手水舎で身を清めます。穢れを洗い流して、神様の前に進み出ます。
大神神社の蛇が巻き付いている珠(たま)は如意宝珠でしょうか。あらゆる願い事を「意の如く叶えてくれる宝珠」です。私たちは荒魂と和魂の両方の魂を持ち合わせていると言います。荒魂が成熟すると、和魂になります。戦闘モードの時には荒魂、協調性を高める時には和魂が働きます。子供から大人になるに連れて、徐々に協調性が備わってくるのとよく似ていますよね。
狭井神社の社号標。
「あらたま」は枕詞にもなっています。
「年」「月」「春」「経(へ)」「来経(きへ)」などに掛かる枕詞として、万葉集などにも散見されます。新たな年、新たな月への期待感がそこには詰め込まれます。まだ若くて荒々しくはあるけれども、はち切れんばかりのエネルギーが感じられます。
新春の「春」という字には、晴(はる)・張(はる)・懇(はる)などの意味が込められています。陰鬱なイメージのある冬から春へ移ろうと、人の心は晴れやかになるものです。万葉文化館でも見たコブシの冬芽は、春が近づくにつれて張ってきます。今はまだ芽吹きを控えた冬芽ですが、まさしく「あらたま」と化していくのではないでしょうか。
狭井神社へ通じるくすり道の手前にある大神神社儀式殿。
大神神社の結婚披露宴会場にもなっている当館大正楼ですが、毎年年度初めの1月になると、数多くのカップルが大神神社挙式のための下見見学にご来館されます。お料理の写真や会食会場をご案内しながら思うのですが、やはり年の改まった月にお客様の動きが見られるのは「あらたま」に起因しているのかもしれませんね。
大神神社祈祷殿の杉玉。
大神神社には「たま」がたくさんあります(笑) こちらは酒の神様を象徴する杉玉ですね。拝殿には巨大な「志るしの杉玉」が掲げられています。毎年11月14日に催される醸造安全祈願祭の前日に、真新しい杉玉に掛け替えられます。
初詣で大神神社に詣でる方も多いことでしょう。
狭井神社のあらたまの御前に進み出て、心を改め、新たな年を祈願してみられることをおすすめ致します。