大和への思慕を謳った日本武尊の有名な歌。
大和は国のまほろば たたなづく青垣 山ごもれる 大和しうるはし
たたなづくとは、山並みが幾重にも重なって続く様子を表していますが、この「たたなづく」の「たた」は、畳の「たた」と同じ意味を持ち合わせています。現代語でも畳み掛けるなどと言ったりしますが、連続して続く様を表します。服を畳むなどの表現にも、折り重なって畳まれる服が想像されます。
12月を迎え、畳の入れ替えの時期がやって参りました。
当館の奥座敷の畳を入れ替えるために、業者の方にお越し頂きました。玄関先に古い畳を運び出して、イグサの香りのする新しい畳へと入れ替えます。積み重なることを表す「畳む」という言葉ですが、折り返して重ねられ、時にはまとめて取り片付けられることもあります。閉店することを「店を畳む」などと表現しますが、この言葉はあくまでも将来を見据えた折り返し地点を意味するのかもしれませんね。連続性をイメージさせる「畳む」という言葉には、永久(とこしえ)に続いていく様子が重なります。
新年を迎える前に行われる畳の入れ替え作業。
旅館の繁栄も、大和の山々と同じくたたなづくものであってほしいと願います。
たたなづくは枕詞なのか
自動詞の「畳(たた)なづく」を枕詞とする説もあります。
青垣山や柔膚(にぎはだ)の形容として用いられている言葉ではないか、そんな考え方もあるようです。
女性の柔らかな肉体を形容して「たたなづく柔膚(にぎはだ)」と歌ったのは、柿本神社に祀られる万葉歌人の柿本人麻呂です。女性が持つ曲線美を、見事なまでに美しい言葉で表現しています。
たたなづく三輪山の風景。
四方を山に囲まれる大和盆地は、どの方角を見ても連なる山々が目に付きます。
日本の古称を秋津島(あきづしま)と言いますが、トンボが連なって飛んでいる様を想像させるところから、蜻蛉島(あきづしま)とも表記されます。交尾しながら飛ぶトンボの情景が、そのまま日本の古称になっているのです。
柔らかになびきながら、終わることなくループ状に続いていく。そんな様子を女性の肉体に重ね合わせて表現した柿本人麻呂は、さすがに歌聖と呼ばれるだけの力量を持ち合わせていたということでしょうか。
冒頭の歌を残した日本武尊の陵が、奈良県の御所市にあります。
帰りたくても帰れなかった大和の地。
ヤマトタケルの無念が伝わってくる場所です。
師走を迎え、大正楼中庭にはツワブキの花が咲いています。
古語の意味を理解するのは、なかなか難しい時もあります。しかしながら、「たたなづく」と畳を結び付けてイメージすれば、なんとなく分かったような気がしないでもありません。いにしえの奈良を表現する際に、度々使われる日本武尊の冒頭の歌。たたなづくという言葉の意味も、現代に結び付けて連想すれば、遊びながらではありますが、どんどんイメージが広がっていくのを感じます。