客室の床天井(とこてんじょう)に、麻の葉文様が見られます。
古来、日本の文様に使われてきた麻の葉。
六角形を基本とした幾何学模様で、大正楼館内でも客室や欄間、応接間などに見られます。実際に目にしたことはないのですが、その形は大麻の葉に似ているようです。
床天井(鏡天井)の「麻の葉文様」。
床天井には通常、竿縁(さおぶち)や格縁(ごうぶち)が見られません。天井を支えるような格好で、一本の床柱が立っていますね。
子供の成長を願った麻の葉文様
伝統的和柄の麻の葉デザインは、六角形状に六つの菱形が重なります。
まじまじと見つめていると、無数の立方体がピラミッドのように積み重なっているようにも見えてきます。
麻はとても丈夫で、スクスクと真っ直ぐに伸びます。そのため、子供の産着の文様に用いられる風習があったそうです。一口に「麻の葉文様」と言っても、少し崩した形の「崩れ麻の葉」、松皮菱にも似た「松皮麻の葉」、葉の中心を捻じった「捻じ麻の葉」等々があります。
立体的に映りますね。
飛び出す絵本ではありませんが、天井から飛び出してきそうな気配を感じます。
ひとつの文様をつなぎ合わせて、平面を充填する文様を「繋ぎ(つなぎ)」と言います。床天井を覆い尽くすこちらの麻の葉デザインは、そのつながりからも「麻の葉繋ぎ」だと思われます。
床の間の瓢箪の掛軸。
夏らしい色合いです。
北山杉の床柱でしょうか。
縦に波状の皺(しぼ)が付いた絞丸太(しぼりまるた)ですね。絞丸太には北山杉や吉野杉がよく使われるようです。
幹に付けられた ”皺” が顕著です。
フクロウの置物が何だか意味深(笑)
少し網代模様も入っているでしょうか。
厳密に言えば、「網代麻の葉(あじろあさのは)」なのかもしれません。
御所車を描いた屏風。
襖もそうですが、布張りの重厚感があります。
玄関口の石畳。
右手には、「水」と書かれた手水石が控えます。
床の間の天井を見上げてみると、新たな発見があるものです。
宿泊する部屋の隅々に、職人の心意気が感じられます。
広縁(ひろえん)の天井。
右側が広縁の天井で、細い竹が規則正しく組まれています。
左手が客室で、竿縁天井の設えです。床の間に向かって90度の方向に竿縁が伸びていますね。これは和室の御法度に触れない造りを踏襲しています。床の間に向かって真っすぐに伸びる竿縁は、”床の間を刺す” ことを連想させます。縁起でもない「床差し」は禁忌とされ、長い間タブー視されてきました。
床の間は家の中心です。
床の間に真っ直ぐ向かうことは、無礼な作法だったのでしょう。