大物主命を祀る大神神社。
三輪山を御神体とする大神神社でも、毎年6月30日に夏越の大祓が催されます。大祓の日に先立って登場する、拝殿前の茅の輪をくぐって参りました。
大神神社の茅の輪は三つ横に並んでいるのが特徴です。地名の「三輪」をもじっているのかと思いきや、大神様の和魂、幸魂、奇魂それぞれの霊力を受けて祓い清めるためのものだそうです。茅の輪のくぐり方には作法があって、八の字を描くようにくぐり抜けるのが慣わしです。
杉の霊木が取り付けられた茅の輪。
3つ並んだ茅の輪の中でも、一際大きい真ん中の茅の輪です。注連縄に人形(ひとがた)と紙垂が垂れ下がっています。向こうに見えるのは重要文化財の大神神社拝殿ですね。
杉は大神神社の御神紋のモチーフにもなっている霊木です。当館の客室にも杉板天井を設えるなど、私も普段から何かと杉を意識する傾向にあります(笑) 三輪山麓を散策していても、その表札に杉田・杉山などの苗字が散見されます。
杉の語源は、その真っ直ぐ天に向かって伸びる性質から、「直ぐ(すぐ)の木」にあるとも言われます。杉を「椙(すぎ)」と表記することもありますが、「昌」には「繁昌」などの言葉を見ても分かるように、盛んな様子が見て取れます。いずれにせよ、成長のエネルギーを秘めた縁起の良い木であることに間違いはなさそうです。
素戔嗚尊が求めた旅の宿に由来する茅の輪神事
茅の輪神事の歴史を紐解けば、スサノオノミコトの逸話に行き着きます。
旅の途上にあった素戔嗚尊(すさのおのみこと)。
宿を求めて蘇民将来(そみんしょうらい)・巨旦将来(こたんしょうらい)兄弟の元を訪れます。弟の巨旦将来は、豊かな生活をしていたにも関わらず、その申し出を断りました。一方の兄の蘇民将来は貧しい暮らしをしていましたが、素盞鳴尊をお泊めして、厚いもてなしをしたそうです。
何年か後に、素盞鳴尊は再び蘇民将来の家を訪れてこう言いました。「もし悪い病気が流行することがあったら、茅で輪を作って、それを腰に付けていれば病気に罹らないですむでしょう」。
このエピソードが元になって、茅の輪にお祓いの意味が込められるようになりました。最初は腰に付けるサイズだった茅の輪が、いつの間にか巨大化して、今では神社の拝殿前に設えられた茅の輪をくぐるようになったというわけですね。暴れん坊のイメージの強いスサノオノミコトですが、人の恩に報いる慈愛の心も持ち合わせていたようです。
そのスサノオノミコトが生まれたのも、父である伊邪那岐命の禊(みそぎ)によるものであることを忘れてはなりませんね。
大神神社の茅の輪くぐり。
真ん中に杉、向かって右手に松、向かって左手には榊の霊木を仰ぎます。茅の輪くぐりには潜る順番があります。杉→松→杉→榊→杉の順序で八の字を描くようにくぐり抜けます。
向かって右手の松の茅の輪。
松という言葉にも深い意味が隠されています。松は待つに通じるとも言います。そう、神様が現れるのを待つのです。「待つ」という日本語には、神様との関係が見え隠れします。
こちらは向かって左側の、榊の取り付けられた茅の輪です。
神社での祈祷の際、玉串拝礼が行われますが、そこにも榊の木が使われていますよね。大神神社拝殿斎庭に入る所の鳥居にも榊が取り付けられています。ここから先は神様の領域であるということを示す結界、そこに榊が見られます。榊は「境木(さかき)」を意味しているのかもしれません。
茅の輪の足元は、緩やかな板のスロープになっています。
平安時代の奥儀抄に、昔から三つの茅の輪が作られていたことが記されています。
この三輪の明神は社もなく祭の日は茅の輪を三つ作りて岩の上におきてそれをまつる也
岩の上に置いていたとは、いかにも大神神社らしいなと思われます。
神様の依代としてある磐座。古来より磐座信仰の根付く三輪さんならではの茅の輪スタイルではないでしょうか。平安時代のスタイルで、茅の輪神事を復活させても面白いのかなと少々不躾なことを考えてしまいます(笑)
祈祷殿前で、祭典準備中の茅の輪。
6月30日の15時より、祈祷殿前斎庭において夏越の大祓が執り行われます。数年前に祭事に参加させて頂きましたが、数多くのご神職や巫女さん、それに参列者で斎庭はいっぱいになりました。
巳の神杉に並行するように建てられた三つの茅の輪。
三輪大明神縁起には、「杉、松、榊の三木は神霊の宿り給う霊木である」と記されています。その三霊木を掲げた茅の輪をくぐれば、上半期に溜まった穢れをきれいさっぱり払い落とせるのではないでしょうか。
三つの茅の輪の背後には、これまた三つ並んだ三ツ鳥居が鎮まります。三輪山伝説に見る糸の話もそうですが、大神神社は何かと三という数字に縁が深いようです。
夏越の大祓に際し、茅の輪守というお守りも売られていました。
家の門口や車のハンドルに取り付けて、無病息災・災難除けを祈念します。
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