石灯籠に注目してみるのも一興です。
灯りを点す道具である石灯籠ですが、元来は仏様に捧げる意味合いが強かったものと思われます。その証拠に、東大寺大仏殿の八角燈籠などは建物の真ん前に立っています。こちら般若寺の石灯籠は、本堂向かってやや右寄りに建てられていました。
般若寺の石燈籠。
「般若寺型石灯籠」と呼ばれる名灯籠です。
全体的にバランスが取れ、装飾に富んだデザインが目を引きます。
火袋にデザインされた唐獅子や鳳凰
奈良で灯籠といえば、参道に延々と居並ぶ春日大社の石灯籠が有名です。
特に臥鹿型燈籠(ふせじかがたとうろう)などは、縁結びスポットとしても人気を集めています。
どんなものにも歴史があり、その大元となる ”本流” が存在するものです。石灯籠の世界にも「般若寺型」と称するカテゴリーがあることを初めて知りました。
火袋に彫られた孔雀?でしょうか。
灯籠の火を点す箇所を火袋(ひぶくろ)と言います。般若寺型石灯籠の火袋は六面構成で、その内の二面が火口になっていて穴が開けられています。残りの四面に装飾が施され、唐獅子、牡丹、鳳凰、孔雀が浮彫りにされています。
特筆すべき最古の般若寺型石灯籠は、現在東京の椿山荘にあるようです。鎌倉後期の逸品で、この型の原作と言われます。つまり、般若寺型石灯籠と名付けられてはいるものの、本歌はあくまでも椿山荘に現存するもののようです。
般若寺境内の案内板。
鎌倉時代の花崗岩製で、総高は3.14mとされます。
古来「般若寺型」あるいは「文殊型」と呼ばれる著名な石灯籠。竿と笠部分は後補であるが、基台、中台、火袋、宝珠部は当初のもので、豊かな装飾性を持つ。火袋部には鳳凰、獅子、牡丹唐草を浮彫にする。
蓮の蕾を表した宝珠も、鎌倉時代からそのまま残されているようですね。
笠の部分は明治時代に造られていますが、くるっと丸まる ”蕨手” の意匠が光ります。
灯籠の右手奥に見えている建物は、般若寺の一切経蔵(重要文化財)です。
中台のデザインも見事です。
左右対称の、美しい花菱文が描かれています。
「文殊型」とも呼ばれる石灯籠。
豪華な蓮台や宝珠など、細部に至るまで実に精緻に造られています。
こちらは唐獅子でしょうか。
勢いよく後ろ脚を跳ね上げていますね!
どうやら本家本元は椿山荘にある燈籠のようですが、その流れを忠実にくんだ作品と言えるでしょう。
名灯籠であることに変わりはありません。
境内を縫うように通路が設けられていました。
左奥に二基並んでいるのは、重要文化財の笠塔婆です。思い起こせば、日本最古の石燈籠も奈良県内にありました。葛城市の当麻寺です。珍しい八角形の石燈籠で、覆い屋に守られていたのを思い出します。
本堂前に咲くコスモス。
般若寺を訪れたなら、本堂前の石燈籠にも着目してみましょう。