猿石も二面石である。
言われてみれば確かにそうなんですが、橘寺の二面石の陰に隠れて見過ごされがちです。
飛鳥の猿石は、近鉄飛鳥駅近くの吉備姫王墓に安置されています。複製ではない本物の猿石を見るためには、吉備姫王墓に足を運ぶ必要があります。ただ一点残念なのは、二面石である猿石の背面を見ることができないのです。猿石の背中を確認するには、飛鳥資料館がおすすめです。
飛鳥資料館前庭に展示される猿石のレプリカ。
猿石女の背面には、インド神話に伝わる神鳥・ガルダが!おそらく間違いはないでしょう、仏教の守護神・迦楼羅天(かるらてん)にもつながる異国の神様が刻み込まれています。
国際色豊かな女・山王権現・僧・男
吉備姫王墓には計四体の猿石が置かれています。
向かって左側から女、山王権現、僧(法師)、男の並びです。飛鳥資料館のレプリカの位置取りは、決してその通りではありません。それぞれが適当な距離を保って展示されています。観覧者は猿石の間をジグザグに回り込みながら見学することができます。
猿石女を真正面から見ます。
口角を上げた表情がとても印象的ですね。
この猿石の背中に、鋭い顔をしたガルダが彫られているのです。世界を維持するというヴィシュヌ神が跨(またが)るのがガルダです。ガルダはガルーダとも呼ばれ、蛇を退治する聖鳥として崇拝されています。
飛鳥資料館近くの石神遺跡は、海外からのお客様をもてなした饗宴の場とも伝わります。この辺りはインターナショナルな空気に包まれた場所だったのでしょう。
猿石僧(法師)のレプリカ。
手を組んだポーズに注目してみましょう。
イースター島のモアイ像も、同じような格好をしていると言います。
私たちがよく目にするモアイ像は、そのほとんどが肩から上の部分ではないでしょうか。実は地中深くに埋もれたモアイの全身像を確認すれば、この猿石と同じように手を組んでいるものもあるようです。
日本の飛鳥の地に伝わる猿石ですが、世界中からの影響を感じずにはいられませんね。
こちらは山王権現のレプリカ。
男性の象徴がはっきりと見て取れますね。
吉備姫王墓ではその背中を確認することができませんでしたが、飛鳥資料館に来れば自由に見学できます。
山王権現の背面。
何とも不思議な神様?が彫られています。
子供の落書き帳にでも出てきそうな、とてもユーモラスで自由な発想が感じられます。お腹を抱えるような手の格好は共通していますね。右奥に見えている石造物は須弥山石です。
こちらは亀石の背面。
実物の亀石では、ここまではっきりと裏側を確認することは出来ません。石を削り取った時の断面なのか、模様のようなものが浮き出ています。
猿石の男にも背面があったようなのですが、今回は撮り忘れてしまいました。
表裏一体なのか、はたまた全く別々のものなのか。
二面石の表と裏には関連性があるのかないのか、ちょっと気になるところですよね。橘寺の二面石は善悪二面相とよく言われますが、それとて定かではありません。実は二面石は八角形を成す石造物の一部に過ぎず、本当に善悪二面を表しているのかどうかすら分かりません。
謎が謎を呼ぶ飛鳥の石造物。
飛鳥資料館の片隅に置かれていた不思議な石造物。
うん?これは一体何を表しているのでしょうか。
前庭に渡された橋を渡り、川沿いに左方向へ歩いて行くと、今まで見たこともないような石造物が二体置かれていました。展示されていると言うよりは、無造作に放置されているといった趣です。すぐ横には、関係者以外立ち入り禁止のロープが張られていました。この石造物の手の格好にも、他の石造物との類似性が認められます。
猿石の背中にもロマンが詰まっています。
高取城址の猿石の背面にも、今は欠けていますが何かが彫られています。表側にだけ目が行きがちですが、実はその背面にこそ深い意味が込められているような、そんな謎掛けをしてくるのが飛鳥の地です。
猿石を見る機会があったら、是非次回はその背中にも注目してみましょう。