春日若宮おん祭の芸能舞台となるお旅所。
毎年若宮様をお迎えするために、この場所に仮の本殿が造営されます。11月中旬頃から12月16日まで行われる「御假殿(おかりでん)造営」にスポットライトを当ててみようと思います。
春日若宮おん祭の御假殿。
手前右側に写っているのはお旅所のだ太鼓です。
御假殿の屋根は松葉で葺かれています。行宮は赤松の木で造られていますが、仮のお宮ということで、皮を剥かない黒木が用いられているようです。
10月1日に行われる御假殿の起工式
毎年10月1日を迎えると、お旅所に建てる御假殿の起工式が執り行われます。
若松の雌松と縄で屋形が組まれ、神職の祈りと共に縄棟祭(なわむねさい)が厳かに行われます。松が使われていることからも、神様を ”待つ” 心持ちが伝わって参りますね。
おん祭参拝所。
御假殿を正面から撮影することは禁止されています。これがなかなか難しいのですが、少し角度を付けて撮影させて頂きました。神様の正面に入ることは失礼に当たります。よく鳥居をくぐる際にも、真ん中ではなく左隅から入ることが推奨されていますが、同じような考えに基づくものと思われます。
奈良国立博物館の看板にも、若宮様が鎮まる御假殿(おかりでん)が描かれていました。
昔は全ての工程が手作業でしたが、現在の御假殿造営にはクレーン車も登場します(笑) 人力で運ぶには重い材木も、機械の力を借りながら作業が進められています。御假殿には菰が敷かれますが、毎年決まって大和郡山市椎木町から納められているようです。
かつては毎年新たな建材で建て替えられていましたが、昨今では毎年同じ建材が使われているようです。
毎年繰り返される解体や組立工事のことを考えれば、確かにその方が合理的ですね。
お旅所の様子。
12月17日に行われるお渡り式の後、午後2時30分からお旅所祭は始まります。
松の下式で申楽を奉納した金春大夫が、柴垣に結ばれた白紙を解く金春の埒あけで祭りの火ぶたは切って落とされます。その後、御假殿の前に設けられた芝舞台の上で、延々と様々な芸能が奉納されていきます。
日本語の慣用句に「埒が明く」というフレーズがありますが、はかどる・かたがつく等の意味を持つこの言葉の語源とされるのが、何を隠そう金春の埒あけなのです。また芝居の語源も、御假殿前の芝舞台にあるとかで、普段私たちが使っている日本語の由来をあちこちに見ることができます。
春日若宮おん祭の特別桟敷席。
造営された御假殿の前に、お旅所前桟敷席が設けられています。受付所の方にお伺いすると、もう既にチケットは売り切れてしまったようです。お旅所祭の特等席となる桟敷席ですが、正午12時に開場して13時から22時30分までの長丁場となります。設置席数は約160席で、全席当日指定となっています。
入場料が気になるところですが、桟敷席の料金は5,000円で特に子供料金は設定されていません。付録としておん祭解説書や簡易カイロが手渡されます。また専用機器(貸し出し)による音声ガイド案内のサービスもあるようです。
こちらがお旅所前桟敷席です。
御假殿から参道を挟んで正面に設置されています。高い位置から春日若宮おん祭の様々な芸能鑑賞ができるようになっています。
何かこう、原始的な雰囲気を漂わせる建物ですね。
正面には扉が見当たりません。
それもそのはず、若宮様に芸能を楽しんでいただくための仮宮ということで、正面には御簾(みす)が掛けられ、その上部には鏡が三つ取り付けられています。
おん祭に奉仕する神馬。
競馬の行われるコースをゆっくりと歩いて行きます。
係の方がお召しになられている法被には、春日大社の紋が描かれていますね。
下がり藤の御神紋を見ると、春日大社の砂ずりの藤を思い出します。見頃を迎えるGWシーズンは外出もままならないのですが、今年は久しぶりに出かけてみたいと思います。
お旅所祭が明けた18日の後宴能では、芝舞台の上に能舞台が取り付けられます。
若宮様は既にお戻りになられていますので、能舞台で演じられる能や狂言は人間相手ということになりますね。この日には奉納相撲もあり、特設土俵が朝一番で設営されます。子供の部から成人の部まで盛り上がる奉納相撲も、春日若宮おん祭の見所の一つになっています。