喜光寺の本坊には写経道場があります。
仁王像が立つ南大門を抜けると、境内案内図が掲示されていました。どうやら拝観料は本堂裏手の本坊で納めるようです。普通は南大門、あるいは本堂脇で納めるのが習わしですが、ちょっと変わったお出迎えに面喰らいます(笑)
本坊拝観受付横の写経道場。
広くて新しい写経道場です。約60畳のスペースが本坊一階に設けられていました。こんな素敵な場所で写経に勤しむことが出来れば、いかなる邪念も吹き飛ぶことでしょう。
日本人の心の原点『いろは歌』の写経
喜光寺では般若心経を写経するわけではありません。
写経の対象は、日本人なら誰もが唱えたことのある『いろは歌』です。
”色は匂へど散りぬるを我が世誰ぞ常ならむ有為(うゐ)の奥山今日越えて浅き夢見じ酔ひもせず” 手習歌で知られる伊呂波歌ですね。
本坊拝観受付で500円の拝観料を納め、係の方に写経道場にお通し頂きます。テーブルの上には文鎮で固定された伊呂波歌の写経がずらりと並んでいました。そして、会場前方の舞台上には黄金に輝く仏様たちが!地味なイメージのある写経道場ですが、喜光寺のそれは全く違っていました。まさしく圧巻の光景です。
いろは写経の前方に、千佛(せんぶつ)と釋尊成道像を仰ぎます。
この場に居るだけで、有難味がじわじわと湧き上がってきます。
いろは歌は『涅槃経』を元にして、奈良時代に今様の四十八文字にまとめられた替え歌です。「色は匂へど~浅き夢見じ酔ひもせず」で47文字になりますが、そこに「ん」または「京」を加えて全部で48字となります。喜光寺の案内によれば、いろは歌は行基菩薩の作と伝えられているようです。
喜光寺本坊。
玄関入って左手の、ガラス張りの会場が写経道場です。
玄関先には絵葉書が販売されていました。
下段右端の写真が、喜光寺本尊の阿弥陀如来坐像ですね。
絵葉書の手前に置かれているのは、蓮の花托を模したものでしょうか。手作りだと思われますが、随分手の込んだ作品です。
こちらは喜光寺の御朱印ですね。
開基の行基菩薩、本尊の無量寿殿がそれぞれデザインされています。本坊へ足を運ぶ前に、境内の行基堂にも立ち寄りました。威厳ある行基菩薩坐像が安置されており、ちょうどそのお姿に感銘を受けたところです。
喜光寺へ足を運ぶことが出来ない方は、自宅でも写経ができます。
返送用の封筒が同封されており、書写した写経を喜光寺に郵送します。平仮名の写経ですから、小さい子供でもトライすることができます。老若男女を問わず、家族そろっての写経もおすすめですね。
精神を統一して、心静かに取り組みます。
奉納した写経は、喜光寺南大門に永代に渡り祀られるようです。これも嬉しいご褒美ですね。写経に必要な納経料の2,000円は、喜光寺復興と行基菩薩ご遺徳顕彰のための浄財に充てられます。
いろは写経の文字列。
諸行無常 是生滅法 生滅滅己 寂滅為楽。
これは涅槃経第十三聖行品の偈(げ)とされます。これらの意味を和訳したものが、いろは歌となっているのです。順を追って理解しながら、かつ飽きることのないように組み立てられていますね。
移り変わる世の中。
人の心も絶え間なく上がり下がりを繰り返していきます。そんな環境の中にあって、果たして真理はどこにあるのでしょうか?何が本当なのか、何が絶対なのか。少なからず青年時代の私自身も悩んだテーマではあります。
悩み多き若者にこそ取り組んでもらいたい気もしますが、人生経験がまだ浅く、その只中にいる当人にとってみれば理解しがたい内容なのかもしれません。分からなくてもいいから書いてみる。その体験こそが、後の糧になるものと思われます。
道場の片隅に立てられた淡墨桜の屏風。
係の方のお話では、ご住職の故郷にある巨木なんだそうです。
お茶を頂きました。
ガラス戸の向こうに行基堂を望みます。その手前には、蓮の鉢が並んでいました。
幼少時に興じた探偵ごっこ。
「いろはにほへと ちりぬ るをわかよ 探偵!」と、探偵役を決めたものです。今思えば、言葉の意味も分からずに闇雲に唱えていたのですね。区切りの箇所も適当だし(笑)
道場の正面壁には、白鳳時代に信仰された千佛(せんぶつ)が祀られています。
この千佛は、三重県名張市の史跡「夏見廃寺跡(なつみはいじあと)」より出土した三尊塼仏(さんぞんせんぶつ)を元に鋳造されたブロンズ像なんだそうです。
釈尊像の後ろと両側にズラリと並ぶ千佛。
実に煌びやかです。
悟りを開き、成道の域に達したお釈迦様共々、荘厳な空間を創出しています。
ひな祭りの飾り物ですね。
おそらく蛤が使われているのでしょう。
千佛永代供養の結縁も受付中とのことです。
独尊佛一躰(10万円)、三尊佛一躰(30万円)の寄進となります。勧進にご興味をお持ちの方は、是非喜光寺さんにお問合せ下さい。
般若心経の写経が海龍王寺なら、いろは写経の奉納は喜光寺です。今回初めて知ったいろは写経ですが、写経ブームの火付け役になるかもしれませんね。