初成りカボチャを供える風習が残る薬師堂。
子授け祈願の楢神社の北方に、「かぼちゃ薬師」と慕われる瑠璃光薬師如来が祀られています。JR櫟本駅周辺の散策ついでに立ち寄ってみることに致しました。
天理市楢町に佇むかぼちゃ薬師のお堂。
平成11年に薬師堂は全面改築されています。昔の鄙びた雰囲気は感じられませんが、右手前には往時を偲ばせる石標が建っていました。何と読むのでしょうか。
目や耳の病にご利益!薬壺と円光の薬師如来坐像
薬師堂安置の仏像は三尊形式です。
御本尊は厨子の中に納められた瑠璃光薬師如来で、向かって左側の脇侍仏が役行者坐像、右に弘法大師坐像が祀られています。御本尊のかぼちゃ薬師は、目や耳の病にご利益があると言われます。
左手に薬壺、背には円光を背負います。
興願寺(こうがんじ)。
ブロック塀を隔てて、かぼちゃ薬師の薬師堂と向き合います。
かぼちゃ薬師を納める薬師堂は、かつて興願寺の脇侍堂だったようです。
今回、私は楢神社にお参りした後、かぼちゃ薬師を目指しました。楢神社から北へ向かうと、かぼちゃ薬師の道標が見えて参ります。そこを左折すると、太陽光発電システムが姿を現します。
ソーラーパネルを左手に見ながら進んで行くと、また道案内がありました。
このポイントを左折するようです。
櫟本高塚公園のすぐ傍にあった鬼子母神社も案内されていますね。
見えて参りました!
行く手に見えるお堂が、かぼちゃ薬師を祀る薬師堂です。
ぐるりと回り込みます。
小さなお堂ですね。
薫風吹く初夏とあって、初成り南瓜が供えられているかとも思ったのですが、残念ながらお供えのカボチャを見ることはできませんでした。
薬師堂の縁起
この薬師堂は興願寺の脇侍堂です。
興願寺は興福寺の寺務所領として権勢をふるっていましたが、享保2年正月の大火で全焼しました。火災で文書が焼失したため薬師堂の創建時代は詳らかではありませんが、言い伝え等から鎌倉時代中期の創建と考えられています。
爾来幾度か修復を重ねて来ましたが、平成11年檀家信徒の篤志により全面改築し、今日の堂宇が復興しました。
御本尊 厨子入り瑠璃光薬師如来
右脇仏 役行者
左脇仏弘法大師 をお祀りしています。
脇侍仏の位置ですが、それぞれ御本尊からの位置が示されています。
参拝者から見れば、役行者は向かって左側に祀られていました。
興願寺はかつて、興福寺の寺務所領だったのですね。ちなみに興願寺は融通念仏宗のお寺のようでした。
真正面から。
私の立つすぐ後方が興願寺の境内です。
歴史を感じさせる石標の横面をチェック。
「弥右衛門」と刻まれているようです。
五色幕が薬師堂の前に下がります。
おや?右手前に小さな石仏が見えますね。
お地蔵さんでしょうか。
赤い前掛けをしているところを見ると、やはり地蔵石仏だと思われます。
薬師堂前の踏み石。
参拝者の ”踏み台” として設けられているようです。
「薬師堂」の扁額。
まだ真新しいためか、木目が綺麗に出ています。
かぼちゃ薬師の由来
御本尊薬師瑠璃光如来は、現世利益の仏様として厚く信仰されています。
昔、「癪」の病に苦しんでいた人が「百日参り」の願をかけて平癒を祈ったところ、快癒したのでお礼参りにかぼちゃをお供えしました。
この話を聞いて目を患っていた人が、同じように願をかけてお参りしご利益を頂いたので、同じようにかぼちゃをお供えしました。
このような言い伝えから、いつの頃からか健康、長寿の霊験あらたかな「かぼちゃ薬師」と親しんで参詣されるようになりました。
霊験あらたかな「かぼちゃ薬師」に供養礼拝の徳を積まれるようご案内致します。
カボチャは甘くて美味しいですよね。
舶来の野菜ですが、すっかり日本の食卓にも馴染んでいます。デザートの材料にもなり、用途の広さも人気の一因ではないでしょうか。
冬至南瓜は古来より健康と結び付き、大変有難いものとして定着しています。初成り南瓜もいいですよね、その種の柔らかさには驚かされます。
興願寺の紫陽花
かぼちゃ薬師に手を合わせた後、すぐ背後の興願寺にも足を延ばしてみます。
融通念仏宗のお寺です。
「楢興願寺」のプレート。
所在地の楢町を冠しているようです。
迫り出した向拝がお見事です。
本堂でしょうか、結構どっしりとした構えです。
巨大な鉢の中に蓮の葉が浮かんでいます。
盛夏には綺麗な花を咲かせることでしょう。
ブロック塀を背に、墓石が並んでいました。
この塀の外側にかぼちゃ薬師が祀られています。
紫陽花ですね!
季節の花を見ると心が和みます。
観光ガイドブックではかぼちゃ薬師にばかり目が行きがちですが、その歴史に興願寺の存在があることを忘れてはなりませんね。
屋根の形が左右対称で美しい。
民家の間の細い道を通って辿り着くかぼちゃ薬師。
喧騒から離れてひっそりと佇みます。観光客がどっと押し寄せるような場所ではありませんが、それ故に私たちを惹き付ける何かを持ったお堂です。