紅色の華やかな衣装で目を引く田楽座。
春日若宮おん祭のお渡り式では、猿楽に続く芸能集団です。
華のある田楽座ですが、身に纏う時代衣装を退紅(たいこう)と言います。聞き慣れない言葉ですが、元は染色の名前だったようです。退紅とは褪色、つまり色褪せた紅色のことを指します。そこから転じて、薄紅色の狩衣のことを退紅と言うようになったようです。
退紅を着る花笠持(はなかさもち)。
奈良一刀彫の起源とも伝わる人形が飾られます。後ろに建つ鳥居は春日大社の鳥居でしょう。お渡り式を前に、TVカメラの前で取材を受けておられました。大きな花笠は注目の的なのでしょう、物珍し気に多くの観光客が取り囲んでいました。
五色幣の退紅が先導する田楽
お渡り式の順番では、田楽座は第五番目に当たります。
日使(ひのつかい)、巫女(みこ)、細男・相撲(せいのお・すもう)、猿楽に続いて行列を進みます。花笠持が手にする花笠側面には、春日大社の紋・下がり藤がデザインされていました。
春日大社の参道でもよく目にする御神紋ですね。
花笠の直径は80cm、その重量は3kgにもなるそうです。
退紅は身分の低い人が着た衣装だと言います。中世以降、雑役に従う僕(しもべ)のことを仕丁(じちょう)と言いました。履物や唐笠などを持ち従った退紅(仕丁)ゆえ、どこかに親しみを覚えるのかもしれません。
大名行列が興福寺五重塔の方へ向かいます。
実際のお渡りルートではなく、予行演習前の風景です。
正午から始まるお渡り式に向け、これから五重塔前で最終調整に入ります。紅葉が残っていて綺麗ですね。
巨大な幣!
こちらも退紅が手にする五色幣です。
松の下式の芸能奉納の際には、頭屋の児の前に押し立てられる幣として知られます。お渡りでは、花笠の前を二つの五色幣が先導します。既にスタンバイの時から、お渡り行列の順に並んでいたのが印象的です。
正面に回り込んで、五色幣を撮影。
立派な御幣ですね。
南大門交名の儀(きょうみょうのぎ)。
興福寺南大門跡で進められるお渡り式の準備風景です。
テレビカメラが花笠に向けられます。
奈良テレビのカメラでしょうか。
田楽座は興福寺と深い関係を持つ芸能集団です。前日の16日には、既に本社および若宮社への宵宮詣も済ませています。
大和士の宵宮詣に続いて催行され、神の御前で田楽が奉納されました。お渡り式の松の下でも披露されますが、「中門口」「刀玉(かたなだま)」「高足(こうそく)」が演じられ、神様をねぎらいます。
出発に備えて動き出す田楽座の面々。
道路の北に見えているのは奈良県庁です。
お渡り行列は県庁前がスタート地点です。早々とこの時点で松の下式に陣取ってもいいのですが、あまりオススメは出来ません。お渡りが出発して約20分後ぐらいに影向の松付近へ行きましたが、まだ見物場所はたくさん残っていました。その年にもよるでしょうが、正午前後なら県庁前がおすすめです。出発前の風景を楽しんでから、その足で松の下や競馬が行われる場所へ移動しても十分に間に合うでしょう。