十二柱神社の武烈天皇社

奈良県桜井市出雲地区に鎮座する十二柱神社。

十二柱神社の名前は、合計で12の神様を祀ることに由来します。神代7代、地神5代の神を祭神とするお社で、牡丹で有名な観音霊場長谷寺の近くに鎮まります。

十二柱神社拝殿

十二柱神社拝殿。

拝殿の前にたくさんの石灯籠が建っています。

十二柱神社が鎮座する出雲という地名ですが、島根県の出雲との関係から国号地名ではないかと思われます。奈良県内には出雲以外にも、但馬、吉備、筑紫、長門、備後等々の国号地名が見られます。出雲という地名には、古代社会における大和との交流が偲ばれます。

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武烈天皇泊瀬列城宮跡

十二柱神社の拝殿向かって右側に小さな社殿が見られます。

第25代武烈天皇を祀る武烈天皇社です。

武烈天皇社

武烈天皇社

第24代仁賢天皇から第33代推古天皇までの十代にわたる天皇については、その系譜しか語られていません。欠史十代と言われる所以です。古事記には第23代の顕宗(けんぞう)天皇までの話が詳細に伝わっていますが、顕宗天皇の兄に当たる仁賢(にんけん)天皇以降の欠史十代に関しては系譜のみなのです。そして推古天皇を最後に、神代からの古事記の物語は終焉を迎えることになります。

武烈天皇を含めた欠史十代の天皇たち、並びにその後の物語は日本書紀に詳しく書かれることになります。

泊瀬列城宮

泊瀬烈城宮(はつせのなみきのみや)伝承地と記されています。

野見宿禰顕彰会発行の ”大和出雲パンフレット” には、烈城宮を「列城宮」と表記しています。「烈」でも間違いではないのでしょうが、概ね「列」とする場合の方が多いようです。案内板には、「日本書紀による武烈天皇の皇居のあったのはこの付近といわれている」と書かれています。

武烈天皇社

武烈天皇社の祠の前に狛犬が陣取ります。

平たい顔をした愛嬌のある狛犬です(笑)

武烈天皇と言えば、真偽のほどは定かではありませんが、その暴君ぶりが今に伝えられます。

武烈天皇の数々の悪行は、王朝交代説の唱えられる第26代継体天皇の優位性を語り継ぐための嘘であるとも言われます。武烈天皇の系統が途絶え、その次にバトンタッチされた継体天皇の系統が残ったことを再確認するための作り話ではないかとされます。つまり、日本書紀の編者によって作為が加えられたというのです。日本書紀の編者は天皇家を万系一世にすることを願います。その力が働いたのではないかとする考え方です。

何はともあれ、日本書紀に記された武烈天皇の悪行を見てみましょう。

武烈天皇はあろうことか、妊婦の腹を割いて中にいる胎児を見たと伝えられます。何という悪趣味でしょうか、人の命を弄ぶ暴君ぶりが伝わってきます。さらには、人の爪を剥いで芋を掘らせたり、頭髪を抜いて木に登らせ、その木を切り倒して殺したりもしたそうです。

人を池の排水路に流して、出てきたところを三叉の矛で刺し殺したりもしました。

さらには女性を裸にして平板の上に座らせ、馬を引き入れ面前で交尾をさせ、陰部が濡れている女は殺し、濡れていない女は奴婢として楽しんだと伝えられます。武烈天皇と馬にまつわる逸話は様々な場面で語り草になっていますが、改めてその暴虐ぶりに戦慄を覚えます。

武烈天皇泊瀬列城宮跡

武烈天皇泊瀬列城宮跡の石碑。

武烈天皇は相撲好きの天皇としても有名です。

出雲ゆかりの野見宿禰は、相撲の祖とも仰がれます。桜井市の相撲神社には、野見宿禰の勝利の聖碑が建っています。野見宿禰が相撲を取った場所が相撲神社で、ここ出雲の地は野見宿禰の出身地とされます。

なお、泊瀬列城宮は十二柱神社付近から東方一帯に広がっていたと伝えられます。

紫陽花とブランコ

武烈天皇社の東側には小さな公園がありました。

紫陽花がちょうど見頃を迎えています。

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野見宿禰五輪塔は桜井市指定文化財

十二柱神社を参拝するときに困るのが駐車場です。

国道165号線を長谷寺方面へ向けて走っていると、左側にコンビニが見えて参ります。道路を挟んだコンビニの前はガソリンスタンドですので、目印としては比較的分かりやすいと思います。

コンビニでコーヒーブレークをしながら、店員さんに十二柱神社への行き方を尋ねます。コンビニの裏側にあって、ここから歩いて数分という情報をキャッチします。駐車場の有無を尋ねると、残念ながら十二柱神社には駐車場が無いとのことです。店員さんにコンビニの駐車場に車を停めさせてもらってもいいかどうかを確認すると、快く承諾して下さいました。ご好意に甘えて、いざ十二柱神社へと向かいます。

十二柱神社の鳥居

十二柱神社の鳥居。

両脇には狛犬が居座ります。相撲にまつわる神社らしく、計8体の力士像が各々の表情で頭上の狛犬を支えています。

野見宿禰五輪塔

野見宿禰の五輪塔

鎌倉時代に建立された、高さ2.85mの立派な五輪塔です。

この五輪塔は「力のパワースポット」として知られます。昔からお相撲さんたちがパワー注入のためにお参りに来ると言われています。相撲神社には元横綱北勝海の八角親方が来られましたよね。あの大鵬や柏戸も、相撲神社に於いて土俵入りを奉納しています。十二柱神社に詣でておられるお相撲さんの四股名が知りたいところです(笑) やっぱりビッグネームがあると宣伝効果も期待できます。

野見宿禰五輪塔の由来

「相撲開祖野見宿禰五輪塔由来」と題し、長々とその由緒が案内されています。

旧伊勢街道から初瀬川を隔てた南の山腹に、今も野見宿禰塚跡碑があります。十二柱神社からだと、国道165号線を挟んで南東方向に当たります。野見宿禰塚は明治16年に発掘された野見宿禰のお墓なわけですが、直刀、勾玉、土器、埴輪などが出土しています。様々な埋蔵品が発掘され、この時の大量の赤い朱(鉱物)により、初瀬川が三日三晩赤く染まったと伝えられます。

この五輪塔は野見宿禰塚の上にあったものです。明治16年に十二柱神社境内に移され、今に至っています。

野見宿禰五輪塔

何やら文字が刻まれていますね。

四面に単独梵字仏(20体)と、地輪(じりん)に1字1石経(23)がおさめられている全国でも珍しい古塔です。村の古文書によれば、ここから島根の出雲まで50町ごとに、小さいながらも同型の五輪塔が建っていたと伝えられます。

十二柱神社

道路に面した十二柱神社の参道。

左側には「村内安全」と刻まれています。

初瀬まつり

コンビニから十二柱神社へ向かう途中、民家の壁に「初瀬まつり」のポスターが貼られていました。

10月に催される與喜天満神社の例祭のようです。長谷寺近くの菅原道真を祀るお社ですね。

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ダンノダイラの磐座伝説

十二柱神社にはその昔、神殿が無かったと伝えられます。

十二柱神社から北方1,400mほどの所に、ダンノダイラと呼ばれる場所があります。今から約1,500年前に、出雲地区のご先祖様が暮らしていた場所とされます。三輪山連山の中ほどに位置しており、西端に三輪山、東端中腹に長谷寺、中間に白河谷のある辺りです。6世紀~12世紀に渡る土器破片が出土したことから、古代出雲人が住んでいたと言われます。

ダンノダイラの東端には注連縄の張られた磐座が鎮座しています。

ダンノダイラの磐座は、御神体として出雲地区の信仰を集めるパワースポットとして知られます。

出雲人形の里

十二柱神社の社号標に出雲人形が案内されていました。

「野見宿禰とつながる土人形」と記されています。

昔は偉い人が亡くなると、生きた人や馬を一緒に埋める風習がありました。その風習を変えるために考え出されたのが、野見宿禰考案の出雲人形だったのです。

野見宿禰は出雲国から土師部(はじべ)を呼び寄せ、赤くて粘っこい埴土で人や馬を作り、土人形を生きた人の代理としました。垂仁天皇にそのアイディアを進言し、その後の埴輪の定着にもつながっていきました。数多くの人を救った宿禰のアイディアには感服致します。

現在、出雲人形の伝統を守るのは、神社近くに窯元を構える水野家一軒のみとされます。

桜井市消防団初瀬分団出雲部

十二柱神社の向かって右隣りには、桜井市消防団の機具庫がありました。

これは神社にとっても心強いですね(笑)

十二柱神社の御祭神

十二柱神社の御祭神です。

神世七代の神として、国常立神(くにとこたちのかみ)、国狭槌神(くにのさづちのかみ)、豊斟淳神(とよくもぬのかみ)、泥土煮・沙土煮(うひじに・すひじに)の神、大戸之道・大苫辺(おおとのじ・おおとまべ)の神、伊邪諾・伊邪冊(いざなぎ・いざなみ)の神、面足・惶根(おもたる・かしこね)の神と書かれています。

さらには地神五代の神として、天照大神(あまてらすおおみかみ)、天忍穂耳尊(あめのおしほみみのみこと)、瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)、彦火日出見尊(ひこほほでみのみこと)、彦波瀲武鸕鶿草葺不合尊(ひこなぎさたけうがやふきあえずのみこと)と続きます。

全部で十二柱の神様が祀られます。

十二柱神社拝殿

十二柱神社拝殿。

村の古老の言い伝えによれば、三輪山連山の尾根の嶺上にある磐座を拝んでいたという十二柱神社。

ダンノダイラと磐座

十二柱神社は「出雲ムラ」の村社と題し、ダンノダイラに関する記述が見られます。

以下、抜粋させて頂きます。

大昔は神殿が無く、「ダンノダイラ」(三輪山の東方1,700mの嶺の上にあった古代の出雲集落地)の磐座を拝んだ。明治の初めごろまで、年に一度、全村民が「ダンノダイラ」へ登って、出雲の先祖を祀り偲んだ。一日中、相撲したり遊んだり、食べたりした(出雲ムラ伝説)
西脇弥之吉氏(当時83才)より聞く。1964年(昭和39年7月)

十二柱神社とダンノダイラとの深い関係が浮かび上がります。

十二柱神社の北東山手には、出雲城跡も見られます。ダンノダイラもそうですが、出雲集落の山手にはまだまだ隠れた名所があるようですね。出雲城築城の引き金となったのは、当時大和の支配を進めようとしていた松永久秀の初瀬・宇陀攻めであったと伝えられます。

十二柱神社

これは椿の実でしょうか?

鳥居の手前に見られる光景です。

十二柱神社

出雲村は西国八番札所の長谷寺より西へ、3㎞ほどの場所にあります。

約100戸の農村集落で、歴史風情を感じさせる旧伊勢街道に位置しています。

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狛犬を支える力士がユーモラスな十二柱神社

日本全国広しと言えども、ここでしか見られないものがあります。

十二柱神社の見所の一つにもなっている力士像です。

力士像の居る場所はどこなのか?参拝した人なら誰でもすぐに見つけられる場所です。

十二柱神社の狛犬

狛犬の下なんです。

狛犬の背後に見えている建物は、出雲農村集落センターです。

十二柱神社の力士

狛犬を支える力士像

まわしに付いている「さがり」のようなものも見られます。1体の狛犬に対し、その四方を支える4体の力士像が確認できます。

正確に言えば、狛犬を支えているのではなく、狛犬の立つ台座を支えています。これらの力士像は狛犬も含め、文久元年(1861)の土師部(埴輪造り)の作品とされます。

十二柱神社の力士

狛犬の横から踏ん張る力士像を捉えます。

その向こうには手水舎が見えています。

十二柱神社の手水

手水舎には亀が居ました。

頭部がもげてしまっていますね。水も出ておらず、今はもう使われていないようです。亀甲文様の亀の甲羅だけが寂しく佇みます。

十二柱神社

境内から鳥居方向を望みます。

夜になると、高い位置に灯りが点されるようです。

遠くからだと狛犬を支える力士像は確認できませんね。お参りの際は、是非狛犬の足元に近付いてそのユーモラスな姿を目に焼き付けてみて下さい。

十二柱神社本殿

十二柱神社の本殿

拝殿から連なる廊下越しに朱色の本殿が見えました。

銅葺一間社春日造りの美しい本殿です。

十二柱神社本殿

拝殿向かって右後方から、さらに至近距離で本殿を捉えます。

何重にも瑞垣に囲われ、十二柱神社の御祭神が祀られています。

十二柱神社

金刀比羅神社と厳島神社。

本殿向かって右側に鎮まる境内社です。今回写真に収めることはできませんでしたが、左側には同じく境内社の愛宕社と金山彦社が鎮座しています。

十二柱神社の武烈天皇社

拝殿向かって右側に祀られる武烈天皇社。

実に素朴な感じのする一木造の祠です。

武烈天皇泊瀬列城宮伝承地

「武烈天皇泊瀬列城宮伝承地」と題する桜井市教育委員会の案内板。

武烈天皇は、小泊瀬稚鷦鷯天皇(おはつせのわかささぎのすめらみこと)とあり、仁徳天皇の大鷦鷯と対の名を持つ。これは、仁徳の皇系が武烈天皇で絶えるため、仁徳を聖帝・武烈を暴君として描くのと同じ考え方であろう。武烈があまりの悪政非道な政治をしたから、仁徳の皇系は絶えたことを記紀では強調しているが、実際のところは分からない。壇場(たかきみくら)を泊瀬列城に設けたとあり、初瀬谷の中央、この出雲の地あたりかと考えられている。

十二柱神社は武烈天皇の伝承地でもあります。

十二柱神社の紫陽花

十二柱神社横の公園に紫陽花の花が咲いていました。

三輪から長谷寺方面へ向かう際、出雲の手前に黒崎という地名が見られます。黒崎は万葉集発祥の地として知られる白山神社の鎮座する場所です。第21代雄略天皇の泊瀬朝倉宮跡伝承地にもなっており、この辺りには歴代天皇の残り香があちこちに感じられます。

十二柱神社の五輪塔

野見宿禰五輪塔の前に、白い花が咲いていました。

垂仁天皇の御前で行われた、巻向の里カタヤケシでの天覧相撲。

怪力自慢の当麻蹴速と戦うために、出雲国から即日呼び寄せられたと伝えられる野見宿禰。島根県の出雲から、その日の内に大和入りすることは不可能です。そのため出雲村では、自分たちの住む大和国出雲村こそが野見宿禰の出生地であると言い伝えています。

天覧相撲の勝者である野見宿禰。

敗者となった当麻蹴速ゆかりの葛城市には、葛城市相撲館けはや座などの相撲関連施設が充実しています。一方の勝者であるはずの野見宿禰ゆかりの桜井市には、行きたくなるような相撲関連施設の無いことが気に掛かります。相撲発祥の地として、さらなるPRが待たれるところですね。

野見宿禰顕彰碑

参道脇に建つ野見宿禰顕彰碑

顕彰碑の裏側には顕彰会の由緒書があり、この場所が野見宿禰の発祥地であることを再確認します。

長谷寺から出雲地区へは徒歩30分ほどの道のりです。

時間に余裕のある方は、長谷寺参拝のついでに、のんびりと歩いてアクセスしてみるのもいいのではないでしょうか。

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