山の辺の道の中継地点としておなじみの長岳寺。
杜若が見頃を迎える5月半ばに訪れた時にも、数多くの観光バスが駐車場に停まっていました。
長岳寺境内に佇む弥勒大石棺仏。
身の丈は2mほどあるでしょうか。
大師堂の傍の茶所の前を通り、山道に連なる階段を上がって行くと、鎌倉時代の作とされる弥勒大石棺仏が姿を現します。高さ2.4mの板状凝灰岩に、綺麗な曲線を描く光背と共に彫り込まれています。古墳の石材である蓋石を利用して造られており、見事な再利用が実現しています。
長岳寺へんろ道を歩く~触地印を結ぶ石棺仏
長岳寺の大石棺仏は、境内裏手の山の中に立っています。
御本尊の阿弥陀三尊に満足してしまい、つい見過ごされがちな石像です。あらかじめ情報を押さえておけば、迷うことなくお参りできます。是非皆さんも大石棺仏に手を合わせておきましょう。
長岳寺に隣接する天理市トレイルセンターの駐車場に車を停めます。
山の辺の道の全行程を歩くのはさすがに時間が掛かるので、ほぼ中間地点にある長岳寺から歩き始めるハイカーも多いのではないでしょうか。天理市トレイルセンターには自動販売機も設置されていて、屋内でゆっくり休憩できるスポットとして人気を集めています。山の辺の道で見られる野鳥や草花も写真付きで紹介されていて、ちょっとした学習コーナーとしても利用することができます。
後方に大師堂を控える拝堂。
長岳寺は弘法大師空海の創建と伝わるお寺です。拝堂の中を覗き込んでみると、「南無大師遍照金剛」の文字が見えました。境内に数多く見られる石仏の赤い前掛けにも、南無大師遍照金剛と書かれています。
拝堂の斜め向かいに、今はもう利用されていないお茶処があります。
その前を通り過ぎ、山の中へと入って行きます。「長岳寺へんろ道」と書かれていますね。ここから先は、いよいよ長岳寺の奥の院といった趣です。
大石棺仏へと続く階段。
手すりの付いた階段を上がって行きます。
1,2分登った所に姿を現す弥勒大石棺仏。
しなやかな指が印象的な右手には施無畏印を結び、一方の左手では悪魔を退散させる触地印(そくじいん)を結びます。
左右で対照的な印相を結んでおられます。
畏れることは何もないよと、仏の慈悲を感じさせる施無畏印に対し、地面に触れることで大地の神を呼び起こし、近寄って来る悪魔を退散させる目的で結ばれる触地印。降摩印とも呼ばれる触地印には、悟りを開いた仏の決意が見て取れます。
さらに上へ登り、弥勒大石棺仏の背後を窺います。
長岳寺へんろ道に数多く見られる石の祠に入ったお地蔵さんですね。私の中では、長岳寺を象徴する風景の一つでもあります。
放生池に開花する杜若(カキツバタ)。
毎年5月中旬から下旬に掛けて見頃を迎えます。
古墳の蓋石で造られている弥勒大石棺仏ですが、明日香村にある鬼の雪隠なども古墳の蓋石だと言われています。姿を変えながらも、連綿と歴史の生き証人として生き続ける姿に感銘を覚えます。
拝堂から長岳寺へんろ道を通って大石棺仏へと続いているわけですが、その参拝ルートを通らずに、拝堂から十三重塔、大師像、鐘堂、そして放生池の周りを巡って出発地点の鐘楼へと戻る参拝客の姿を多く見掛けます。
これは勿体無い。
山道ではありますが、わずかな所要時間で弥勒大石棺仏を拝観することができます。長岳寺参詣の折には、是非足を運ばれることをおすすめします。
参拝を終えた帰り道。
長岳寺肘切門の手前に、かろうじてツツジの花が残っていました。
弘法大師空海創建の釜口大師・長岳寺の住所は、奈良県天理市柳本町508です。