姿形の美しい糸撚鯛(いとよりだい)。
本州中部以南で獲れ、関西地方ではよく消費される魚として知られます。その淡いピンクと黄色の模様から、観賞魚かと見紛うほどの美しさを持ち合わせます。晩秋に行われた大神神社披露宴の席に、旬を迎えたイトヨリが入荷致しました。
もちろん、味の方もお墨付きの魚です。
英名を Golden threadfin-bream と言います。thread は英語で「糸」、fin は「鰭(ひれ)」、そして bream は「鯛類の魚」を意味しています。直訳すれば、黄金の糸ひれを持った鯛ということになりますね。
数年前にイトヨリのお刺身をお出ししたことがありますが、その際に ”黄金の糸ひれ” を写真に収めました。
当館中庭にかざした上の写真に目を移せば、ちょうどこめかみの後ろ辺りに赤い模様が見えていますが、この赤い模様もイトヨリを特徴付けるものです。
淡白で美味!イトヨリの身
糸撚(イトヨリ)の身はもちっとして柔らかく、その扱いには注意が必要です。
真鯛などはしっかりした身をしていますが、イトヨリの身はどちらかと言うと鰆のように柔らかいので身割れの危険性があります。手洗い三枚おろしはご法度です。水洗いの段階から丁寧な作業を心がけます。
今回はイトヨリの赤蕪蒸しを作ってみました。冬に旬を迎える甘い蕪に、淡白なイトヨリを合わせて供します。煮付けで頂くことの多いイトヨリですが、蒸し物にしても絶品です。
こめかみ後方の赤い模様がよく分かりますね。
体表を覆う鱗は比較的薄く、出刃包丁でも十分に取ることができます。骨は細いですが、なかなか頑丈に出来ています。熱を通してもあまり縮まないため、蒸し物料理にも適していると思われます。
魚は概して産卵前が美味しいわけですが、イトヨリもご多分にもれず産卵前に当たる秋から冬が旬とされます。イタリアやスペインなど、西洋料理の食材としても好まれる魚ですが、日本においてはお祝いの席によく似合います。
二股に分かれる尾びれ上方から長~く伸びる軟条が、大海を泳ぐ際に旋回します。残り香と申しますか、尾びれの先に残像を残しながら泳ぐその姿は優美そのものです。和歌山地方ではテレンコの愛称で親しまれているそうです。テレンコとは反対や逆を意味する方言で、体の動きと糸状に伸びる何条の動きが真逆になることに由来しています。
高砂席の両脇に披露宴会場を彩る花をセッティングします。
金屏風の背後に見えている鷲像は、母方の祖父が趣味で製作したものです(笑) 引出物等は紙袋に入れて用意しておきます。
安納芋のパンナコッタ。
糸撚鯛は延縄漁で獲れるようですが、漁獲高はどのぐらいなのか気になるところです。
大切な海の資源ですから、枯渇させることなく消費していきたいですね。見た目も美しい糸撚鯛ですが、その皮には独特の甘みが感じられます。皮を生かしてこそ、イトヨリ料理は成立すると言っても過言ではありません。
数年前までは雑魚と呼ばれていた魚にもスポットライトが当たる時代です。
食べてみれば意外に美味しい魚もまだまだいるようです。流通ルートに乗らなかった魚は知る人ぞ知る魚だったのかもしれません。漁師さんの間では当たり前でも、私たち庶民の目にはなかなか触れなかった魚たちにも違った意味で可能性を感じます。
マトウダイ、ゲンゲ、ヤガラ等々の姿形が特徴的な魚も目白押しですね。
魚大国ニッポンの底力を垣間見るような気が致します。