興福寺中金堂の屋根瓦には鋸歯文(きょしもん)が見られます。
鋸(のこぎり)の歯のような三角形のギザギザ模様で知られる鋸歯文。古代の銅鐸の周縁部分にも見られるおなじみの紋様ですが、その意味するところは何なのでしょうか。中金堂の再建現場が公開されている興福寺において、改めてその不思議な文様に見入ってしまいました。
興福寺中金堂の軒丸瓦や軒平瓦にも、神秘的なチカラを感じさせる鋸歯文が見られます。
軒丸瓦の周縁部分と、軒平瓦の下方に鋸歯文が確認できます。
魔除けや防御を意味する鋸歯文
のこぎりの歯と言うだけで、何やら物々しい雰囲気を醸すわけですが、古代の人々の間でも同じような解釈が成り立っていたのでしょうか。
今も古い町並みを歩いていると、鋸歯状に屈折した道路に出くわすことがあります。防衛の目的で作られた道路であると聞いたことがありますが、「武者隠しの戦法」は鋸歯文にも通じるものがあります。現代社会において、車の往来には不便な鋸歯状の道ですが、往時の人々にとっては必要不可欠なものであったはずです。
興福寺五重塔を背景に桜の花が咲いていました。
昨日は金魚や鯉が解き放たれ、恒例の放生会が執り行われた猿沢池の畔・・・池の周囲には旅館が建ち並び、古都奈良の風景を形作っています。
興福寺中金堂の鬼瓦も立派です。
瓦が積み重なり、2018年に予定されている落慶へ向けて着々と準備が進められています。
復元された瓦の案内が出ていました。
以下に引用させて頂きます。
発掘調査により出土した創建当初の軒丸瓦・軒平瓦をもとに製作されました。軒丸瓦は線鋸歯文縁複弁蓮華文、軒平瓦は下方に鋸歯文を入れた均整唐草文です。
唐草文もおなじみの古代文様です。
日本料理の世界でも、刺身のつまに「唐草大根」をあしらいます。大根の葉っぱに斜めに切込みを入れ、水に放つと時間の経過と共にクルッと丸まります。その形が唐草文様に似ているため、私たちは唐草大根と呼んでいるわけですが、普段見慣れている文様だけに親しみが湧きます。
黄色い色を目にすると、いかにも工事現場といった趣です。
特別公開期間中には足場が組まれ、一般参拝客が拝観券を購入して出入りします。下履きには少し注意が必要で、ヒールやサンダルでは入場することができません。おでかけされる際には、くれぐれも注意が必要ですね。
ブルーシートが敷かれ、作業の最中であることがうかがえます。
山型の三角形がズラリと横に連なる鋸歯文。過去に7度も火災に見舞われた興福寺の中金堂ですから、火に対する魔除けの祈りは確かにあったはずです。寺社建築によく見られる懸魚(げぎょ)などにも、木造建築物を守るための火除けの祈りが込められています。魚は水に通じています。魚を懸ける「懸魚(げぎょ)」は、そのまま水を掛けることにもつながります。
鋸歯文を瓦にデザインすることにより、最も恐るべき敵である火から建築物を守ろうとしたのではないかと思われます。
木板が屋根瓦の上に真っ直ぐに伸びています。
作業をする際の足場なのでしょうか。
残念ながら外は雨でした。
雨に濡れるのを覚悟で、三階の張り出し口に出てみます。わずかに興福寺南円堂のてっぺんが見えています。通常であれば大工さんしか味わえない光景ではないでしょうか。拝観コースとは言え、ここはれっきとした工事現場です。くれぐれも張り出し口から体を乗り出すことのないように注意しましょう。
訪れたのは平日の午前中ということもあってか、拝観客はまばらでした。
昨日当館にご宿泊頂いたポーランド人のお客様に、今回の興福寺中金堂再建現場の招待券をプレゼントさせて頂きました。今頃はもう、興福寺にご到着になられて再建現場を楽しんでおられるかもしれません。鋸歯文をはじめ、日本の歴史と文化に触れてご帰国頂きたいと思います。