奈良県桜井市の長谷寺。
高さ10mにも及ぶご本尊の長谷観音で知られる名刹です。
長谷寺仁王門から本堂に続く399段の登廊(のぼりろう)。
そのコーナーにひと際目立つ天狗杉がそびえます。”のぼりろう”と読ませるところが面白いですよね。登廊の傾斜は緩やかですので、そんなに息切れすることもなく、観音様の待つ本堂まで到着することができます。
天狗杉の由来
長谷寺の天狗杉には興味深い逸話が残されています。
長谷寺第十四世能化(のうけ)であった英岳という高僧にまつわるエピソードです。ちなみに能化とは、一宗派の長老や学頭を表す言葉で、分かりやすく言えば住職ということになるでしょうか。仏教用語では、一切の衆生を教化する者、すなわち仏や菩薩のことを意味します。
長谷寺の天狗杉。
長谷寺の能化であった英岳、その小僧時代に話は遡ります。
英岳が登廊に吊り下がる灯篭に明かりを燈していたところ、夜になると天狗が現れ、明かりを消していったというのです。
天狗の悪戯により、灯りを消されたことに発奮した英岳はその後益々修行に励みます。その甲斐あって能化にまで上り詰めることになりました。
御衣黄桜の向こうに天狗杉を望みます。
能化らしく振る舞ったり、つまらぬ者が自慢顔に奔走することを能化付く(のうけづく)と言いますが、英岳は一切能化づくことなく、修業に邁進し、衆生を教化する立場に立ったのです。
長い歴史の中で、長谷寺の建物にも傷みが出始めます。境内の諸堂修繕のため、周辺にあった杉を伐採して用材にしようという話が持ち上がりましたが、「能化となったのも天狗のお陰様」ということで、一本の杉の木が残されることになります。その一本の木が天狗杉だったというお話です。
ところで、能化の反意語を所化(しょけ)と言います。教化される側の衆生を表す言葉です。歴代長谷寺のとある住職が、所化から能化へと上り詰めた陰に、天狗の存在があったことを覚えておきましょう。
観音万燈会、仁王会、修正会と続く長谷寺の行事
日本国内で長谷寺といえば、奈良の長谷寺と鎌倉の長谷寺を思い浮かべます。
奈良の長谷寺の方が歴史は古いのです。
鎌倉大仏も有名ですが、特別拝観の結縁で知られる十一面観音立像もその慈悲深さで知られます。
国宝の本堂から五重塔を望みます。
長谷寺は紅葉の名所でもあります。五重塔と紅葉の美しい光景は、数多くの刊行物で目にするところです。
長谷寺を参詣したのは、寒ぼたんがちらほら咲き始めている12月の初旬頃です。これから長谷寺は紅葉から雪景色へと模様替えをしていきます。
大晦日の観音万燈会、元旦の本尊開帳法要、元旦から1月7日まで行われる仁王会(にんのうえ)と修正会(しゅしょうえ)など、多くのイベントが目白押しです。
2月14日の長谷寺だだおし法要も、もうすぐそこまで迫ってきています。
時のたつのは早いもの。
長谷寺で年越しというのも乙なものです。NHKのTV番組「ゆく年来る年」でも取り上げられたことのある長谷寺。時の流れをかみしめながら、除夜の鐘を聞いてみたいものです。