東大寺二月堂の西側斜面に、東大寺内八興社の一社とされる興成神社が鎮座します。
ここはお水取り(修二会)で火の粉をかぶる場所でもあり、春先のお水取りシーズンには観光客の誰もが目にするお社ではないでしょうか。
良弁杉の隣りに鎮座する興成神社。
二月堂練行の神社であり、御祭神は豊玉媛命です。
お水取りの歴史に触れる興成神社
秘かに行われる練行衆の行法。
松尾芭蕉の「水取りや籠りの僧の沓の音」の歌にも謳われます。お水取りの歴史は二月堂を開いた良弁(ろうべん)僧正の弟子に当たる実忠(じっちゅう)和尚によって、天平勝宝4年(752)に始まっています。
火の粉をかぶって無病息災を願う。
縁起の良い火の粉を浴びるために、数多くの観光客が詰め掛ける東大寺二月堂の舞台下。
この場所にはもうそれだけで、独特の磁場を持っているかのような感覚を覚えます。
興成神社の鳥居前から左の方に目をやると、奈良の鹿が草を食んでいました。
何気ない奈良の日常風景がそこにはあります。
二月堂の燈籠が描かれた絵馬。
東大寺二月堂のお水取りは十一面悔過(けか)法とも呼ばれます。実忠和尚が笠置山に参籠した際、ある夜夢の中で、笠置山の竜穴に常年観音院の悔過法を見たと言います。それを人間の世界にも伝えるため、二月堂を建立して始めた行法が二月堂の修二会です。
興成神社の向かって左に良弁杉が見られます。
現在の良弁杉は3代目に当たるそうです。
飯道(いいみち)神社・遠敷(おにゅう)神社・興成神社の三社は、いずれも二月堂鎮守神として知られます。
三社とも実忠和尚の勧請と伝えられます。
お水取りとは、ご本尊にお供えする香水(こうずい)を二月堂下の若狭井から汲み取る行事です。3月13日の午前1時か2時頃に、呪師が青衣・赤衣を着けた神人を従えて良弁杉の下手に祀られる遠敷明神に参詣した後、若狭井から香水を汲み取る慣わしです。
お水取りの香水は若狭の小浜から送られています。
実忠和尚が十一面悔過法を厳修し、全国の神名を唱えて勧請しました。その際、若狭国の遠敷明神だけが遠敷川で魚を採っていて勧請に遅れたため、その責で遠敷明神が遠敷川から水を送ると言ったそうです。すると、今の若狭井の所から2匹の鵜が現れ、そこから霊水が湧き出たという逸話が残されています。
興成神社をはじめとする二月堂を守る神様が、今も二月堂の周りにひっそりと佇んでいます。